この映画はどんな映画なのですか?
「ロイの生涯について、その当時の歴史や社会の様子に触れながら描いたものです。彼が関わった人々…家族や友人、芸術家などのインタビューなどから構成されています。彼の作品も織り交ぜて紹介しています。彼の生い立ちについても触れていますが、主にアーティストを志した青年時代から晩年までを中心に製作しました。」

撮影はどこで行われましたか?
「バンクーバー、バンクーバー島、エドモントン、サスカッチュワン、トロント、モントリオールなどです。日本も訪れました。」

なぜお父様の映画を撮影しようと思ったのですか?
「父への贖罪の気持ちが1つにはあります。私は長いこと、父の自宅の近所に住んでいました。しかし、父の晩年に、私は仕事の都合で遠くへ行かねばなりませんでした。おそらく、父は私に側にいてほしかったと思うのです。」

ご自身の父をテーマに映画を製作することはいかがでしたか?
「難しかったですね。父は広い分野で活動していて、調べれば調べるほどたくさんのことが出てきましたので。」

映画を通して、何かお父様への見方は変わりましたか?
「そうですね…。父について、さらに深く知ることができました。しかし、100%知ることができたかといえば、それは言いがたいでしょう。取材を受けた側は、全部のことを語るとは限りません。取材で語られなかった部分にも真実が潜んでいるのだな、と思いました。」

監督は、ロイさんの何番目のお子さんですか?
「3人姉妹の真ん中にあたります。」

監督は、今回の撮影以前にも日本を訪れたことはありますか?
「はい、3~4回ほどあります。初めて訪れたのは15歳頃。京都に住む父方の親戚の家に滞在しました。お世話になった親戚のおばさんは、日本舞踊の師匠をされている方でした。その方から箸の使い方を厳しく指導された記憶があります。それと、後に私の仕事の関係で日本を訪れたこともあります。」

お父様であるロイさんという存在は、あなたに職業やいろんな面で影響を与えましたか?
「うーん、私は画家になろうという気持ちはありませんでした。父は偉大すぎました。私が小さい頃は、『有名画家ロイ・キヨオカの娘』と紹介されることが多かったのです。それで『私自身は何なのだろう?』と、よく自問自答したものです。でも、他のいろいろな面で父は私に影響を与えたと思います。」

ロイさんは、家ではどんなお父様でしたか。
「優しいですが、厳しい面もありました。例えば、父は私や私の姉妹の為に夜に本を読んでくれましたが、こちらが注意力を欠く行動を取ると、『今夜はこれでおしまい。』と打ち切ることもありましたね。侍の血を引く祖母の気質を、私の父は受け継いでいたと思います。父は武士道の精神を持っている人でした。」

ロイ・キヨオカ氏のご両親は、高知県出身の日系1世である。ロイの父は豊かな農家の出身で、母は武家の出身だった。ロイの母方の祖父は、居合道双直伝英信流第17代宗家である大江正路氏だという。侍の娘として育ったロイの母は、気骨のある女性だった。(参照 ”Mother Talk, Roy Kiyooka, NeWest Press”(日本語版「カナダに渡った侍の娘」原著:ロイ・キヨオカ、訳:増谷松樹、草思社出版))
戦後という時代背景、および日系人というバックグラウンドを持ちながら画家になることは、きわめて困難なことであっただろう。しかし、持ち前の強い精神と、たぐいまれな才能で、ロイは画家としてめざましい活躍をみせた。そしてその才能はとどまるところを知らず、教師、詩人など、幅広い分野でその名をとどろかせた。

 

観客には、どのような視点でこの映画を見てほしいですか?
「それぞれの視点で見ていただければと思います。人によっては移民のサクセスストーリーに興味を持って見る人もいるでしょう。または、日系カナダ人の歴史に興味を持って見る人もいるでしょう。ある人は、映画で取り上げる時代(40年代~80年代)の社会情勢や政治状況などの時代背景を中心に見る人もいるでしょう。あるいは、芸術作品を中心に映画を楽しむ人もいるでしょう。」

映画には、ロイの家族や友人、交流のあった有名アーティストや有名作家が出演している。DOXA開催期間の5月12日(木)午後7時からVancity Theaterにて上映される。この機会を、ぜひお見逃しなく。
DOXA問い合わせ先 604-646-3200  www.doxafestival.ca
Vancity Theater住所 1181 Seymour St, Vancouver

 

<作品紹介>
『Reed: the life and work of Roy Kiyooka(『葦』:ロイ・キヨオカの芸術と生活)』93分。英語。
出演:ロイ・キヨオカ、ジョイ・コガワ、マイケル・オンダージ、マーガレット・アトウッド他
ロイ・キヨオカは1960年代のニューヨーク派前衛絵画の代表的作家で、そのハードエッジ・ペインティングは批評家から絶賛を受けた。ところが、ロイはその名声の絶頂で、絵画を放棄して、芭蕉の伝統に繋がる詩人に転向し、写真や音楽の制作活動にも従事した。ロイの友人達のインタビューは、その哲学を浮かび上がらせる。作家マイケル・オンダージは「ロイは葦のように、あらゆるニュアンスを表現する」と言う。
『葦』は、たぐいまれな日系カナダ人アーティストのロイ・キヨオカの物語をその娘である映画作家のフミコ・キヨオカが語ったものである。映画は、ロイが生きた過激な時代、ビートニック時代から60年代、及び日系人による補償運動のあった80年代を記録している。この映画は、芸術とそれを育んだ時代を描いたものである。(増谷松樹氏による翻訳を抜粋)

 

<プロフィール>
フミコ・キヨオカ
映画監督。サイモンフレーザー大学にて学士号(映画及びダンス専攻)を取得後に、ブリティッシュ・コロンビア大学で修士号(映画製作専攻)を取得。これまでに制作したドキュメンタリー映画に“Through the lens,” “The Return”などがある。その他の作品は“Says”や“Clouds”など。文化、芸術、歴史、社会問題などを取り扱う作品を得意とする。

 

ロイ・キヨオカ
画家、詩人、教師、マルチメディア・アーティスト。サスカッチュワン州出身の日系2世。アルバータ芸術大学や、メキシコのInstituto Allendeなどで学ぶ。アーティストとして活躍する一方、サスカッチュワン州リジャイナ大学を皮切りに、BC州エミリー・カー芸術大学、ケベック州コンコルディア大学、ノバ・スコシア芸術大学、ブリティッシュ・コロンビア大学などで指導者としても活躍。1978年カナダ勲章を受章。


(取材 熊坂香)

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