「バンクーバーでだからこそ、日本語のおもしろさが見えてくる!」

日本語学習の新たなニーズを捉えた新講座開講!


「日本語教師は笑顔がなきゃダメだ!」という矢野先生。教室には歴代の生徒たちの写真がズラリと並ぶ




1988年、日本で20年間のサラリーマン生活に終止符を打ち、日本語教師に転身した異例の経歴を持つ矢野アカデミー校長・矢野先生。カナダに移住して15年、日本語教師としてカナダ(英語)と日本(日本語)の文化的背景の違いを身をもって感じ、見つめてきた。

そんな矢野先生が、今までの「日本語教師養成講座」に加え、今回新たに2つの新講座「外から見る日本語講座」と「日本語書き方教室」をスタート。気になる各講座の内容を取材した。

まさに「目かうらウロコ」「外から見る日本語講座」
「『会社に行く』はgo to workと訳す。でも、なぜgo to company やgo to officeではいけないの?」。こう聞かれたら、あなたはどう答えるだろう。これを説明するには、会社を「属するもの」と捉える日本人と、あくまでも 「働く場所」と位置づける欧米の人々の認識の違いを知らなければならない。また、「『テーブルの上にりんごがあります』を英語に訳す場合、りんごは単数に するべきか複数にするべきか?」という質問も、単数・複数に無頓着な日本語を使い慣れている日本人としては、大変困ってしまう。さらに、「『おはようござ います』はOKなのに、『こんにちはございます』とは言わないのは何故?」などと聞かれたらもうお手上げだ。「そんなこと考えたこともなかった」というの が大半の日本人の率直な反応だろう。

「日本にいると無意識に使っている言葉も、外国にいて外から眺めてみると新たな発見がある」と矢野先生。母語である日本語を意識しなおすことで、英語と の違いがわかり、日本語への理解がより深まるという。上に挙げたのはほんの一例で、本講座では「『花子と会う』と『花子に会う』の違い」など、豊富な事例 を用いて楽しく学んでいく。「言葉が好き」「日本語が好き」という人はもちろん、「日本語教師を目指しているわけではないが、自分の日本語をちょっと チェックしたい」という人も気軽にトライできる内容だ。この機会にもう一度日本語(日本)を見直してみるのも、ここバンクーバーだからこそできる「目から ウロコ」の体験になるに違いない。

ブロガー必見!「日本語書き方教室」
日本でも急速に普及し、人気タレントや政治家などのブロガーも続々と登場しているブログ。インターネット上の日記のようなものだが、誰でも簡単に情報を 発信でき、閲覧も自由にできる。しかし、こうしたブログや携帯メールなどの普及により、「話し言葉と書き言葉の差がなくなってきている」と矢野先生は指摘 する。たとえば「食べてる」「飲んでる」などの「い抜き言葉」や「食べれる」などの「ら抜き言葉」が、ブログやメールの中では頻繁に使われている。確かに 話し言葉としてはなんの問題もないのだが、インターネット上で多くの人の目に触れることを考えると、少しは意識したほうがよさそうだ。また、段落や区切 り・読点の使い方などは決まりがないだけに、知らずに使っていると読みづらい文章になってしまう。本講座では、「てにをは」の使い方の再確認など基本的な 文法を押さえながら、文章力の鍛え方を総合的に指導。ブログだけでなく、コラムやエッセイなどの書き方が学べる実践的な内容だ。これは、本紙に連載中の エッセイもすでに90回を越える矢野先生から、じかに文章のコツを教わる貴重なチャンス。普段から文章を書き慣れている人でも、知らず知らずのうちに身に ついてしまった書き癖、というのはなかなか自分では気がつかない場合もある。日本語のブラッシュアップも兼ねて、一度点検してみてはいかがだろうか。

両講座とも、日本語の難しさと面白さがたっぷり味わえる中身の濃い授業は、長年日本語教育に携わってきた矢野先生ならでは。毎週1回・2時間、計5回で完結。定員6人の少人数で、アットホームな授業は今までどおりだ。詳細は、左記のホームページか電話で確認を。

(取材 伊藤寿麻)

 

掲載:2008年10月30日 第44号


 

「バンクーバーでだからこそ、日本語のおもしろさが見えてくる!」
日本語学校 矢野アカデミー


生徒さんに授業の感想を尋ねると「おもしろい!!」と異口同音に元気な返事が返ってきた




これまで輩出してきた生徒数、約1500人。1994年にスタートし、今年で創立14年目を迎える矢 野アカデミーは、200校以上もの英語学校があるバンクーバーにおいて、日本語学校というちょっと『変わった』存在である。なぜあえてここで日本語を学ぶ のか。ダウンタウンの真ん中に移転して2カ月の矢野アカデミーを訪れた。

目からウロコ! とにかく授業がおもしろい
この日、232期最後の授業は敬語について。

「たとえば、夫婦喧嘩で敬語が出たら、すごくヤバい。『昨晩は何時にお帰りになったんですか』なんて妻から言われたらすごく怖いよね。敬語というのは、 わざと相手と距離をおいたり、時として皮肉としても使われる。ただ使えばいいってもんじゃないんですね」という矢野先生の言葉に「なるほど~!」と納得。

さらに、夏目漱石をなぜ「夏目漱石さん」と呼ばず、「夏目漱石」と呼び捨てしているのか、矢野先生自身が外国人から訊かれた経験をもとに授業が進んでい く。確かに誰も「漱石さん」なんて「さん」付けでは呼ばない。「なぜなのだろう。そんなこと考えたこともなかったな」と思いつつ、4人の生徒さんたちと、 「こうだから?」「ああだから?」と考えを出し合っていく。誰もが臆することなく、どんどん意見を言い、抱腹絶倒の中に探究心がむらむらと湧き起こる。意 見が出しつくされた後、矢野先生が言った。

「我々は漱石と会ったこともなければ、別に人間関係を結んでいるわけではないでしょ。人間関係のないところに、敬語は発生しないんです。敬語というもの は『人間関係をcomfortableにするものだ』と生徒たちに教えてください」。再び、「なるほど~!」。気がつけば、15分ほどの参加のつもりが、 まるまる2時間受けている。それほど引き込まれるおもしろい授業だった。矢野先生のキャラクターとそれに負けない生徒たちのパワー、そのやりとりのなんと すばらしいことか。

それにしても、日本語って本当におもしろくてむずかしい。ああ、なぜ、わざわざバンクーバーで英語でなく、日本語を学ぶのか、生徒の気持ちがやっとわ かった。日本を離れ、外から、それも多民族都市バンクーバーで日本(語)を見ることで、今まで意識しなかった日本のカルチャーがより客観的に見えてくるん だなと。外から見る日本語。まさに、矢野先生の連載エッセイのタイトル通りである。

帰国後もつながっている卒業生
矢野アカデミーでの経験をもとに、帰国後、日本語教師として活躍している人もいれば、きちんと学び直した日本語をビジネスシーンで生かしている人もい る。今年5月、東京で開かれた同窓会では、帰国後、日本全国に散らばった矢野アカデミーの卒業生たちが49人も集まった。東京開催ということで、東京在住 の卒業生にしか連絡していなかったにもかかわらず、同期のメンバーで連絡を取り合い、北海道や沖縄、京都や長野などから足を運ぶ人々もいて、予想以上のた くさんの参加者で会場は大いに盛り上がった。

「そんなに多く集まってくれるとは思いませんでした。バンクーバーで過ごしたという共通点、同じ矢野アカデミーで、『変わった日本人』として日本語を学 んだという共通点があるからでしょうね。ここで過ごした生徒たちが、日本に帰ってもつながっているんだと実感し、涙が出そうになりました。教師冥利に尽き るとはこのことですね」

日本語や日本文化の再発見、一緒に学んだ仲間たちとの絆。小さな小さな学校だが、ここで得られるものは果てしなく大きいような気がした。

(取材 西澤律子)

 

掲載:2008年9月4日 第36号

 

矢野アカデミー
(Yano Academy)

◆住所:#400-530 Hornby St. Vancouver B.C. Canada
V6C2E7  (Concordia College内)
◆電話:778-834-0025
◆Mail: This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.
◆Web: www.yano.bc.ca/

 


人間味豊かな矢野先生

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。