グランドピアノを小さくしたような形。美しい絵画と装飾が美しいハープシコード。日本ではドイツ語で『チェンバロ』と呼ばれることも。  ピアノの元祖とも言われ、バロック時代(17-18世紀)に全盛期を迎えたこの美しい楽器を製作できる“腕利き”の職人は現在カナダにふたり。そのひとりが当地に住むクレイグ・トムリンソンさんだ。 プロフィール:1953年トロント生まれ。ハープシコード製作者。日系3世の妻キャロルさんとの間に3人の息子がいる。趣味はゴルフ、日本製オートバイでクルージング。カヤック。沖縄空手は25年の腕前。

楽器製作を始めたきっかけは?
 子どものころからプラモデルみたいなものを作るのが 好きで、16 歳のときにアパラチアン・ダルシマーという フォーク音楽などで使う弦楽器を作りました。UBC 在学 中にツールキットを組み立て、初めてフレンチ・ハープシ コードを製作しました。  その後、自分で材料を集めて昔ながらの手法でオリジ ナルのハープシコードを作ってみたいと思うようになった のです。

どうやって製作技術を身につけたのですか?
 カリフォルニアの職人のところで数年間学び、バンクー バーに戻ってから本格的に自分のオリジナルのハープシ コード製作を始めました。
 1988 年にカナダ・カウンシルから助成金を受けて、ヨー ロッパで収集されている特殊な楽器を研究し、より深い 知識、木材選びを学ぶことができました。

クレイグさんのハープシコードの特徴は?
 デザイン、素材、構造などは17 世紀から18 世紀 に作成されたドイツ、フランス、フランデレン地方(ベ ルギーの北)、イタリア製のものを参考にしています。
 演奏家が望むような音色や鍵盤の感触、そして美しい 外観を心得ています。
材料はどのように入手していますか?
 ドイツの小さな町ミッテンヴァルトに、スプルース(マ ツ科の針葉樹)の木材を仕入れに行きます。イタリアの イトスギなど他の木も使います。大切なのはサウンディ ング・ボード(響板)です。
ピアノとの違いは?  
 ピアノは弦をハンマーで叩いて音を出しますが、ハー プシコードはつめで弦を弾いて音を出します。だから弦 楽器やハープのような音色が出るわけです。
ご自身も楽器を弾きますか?  
 子どものころ親に言われるままピアノを習いましたが、 13 歳でギターと出会い夢中になりました。 

製作にはどのくらい時間がかかりますか? そしてお値段は?  
 1台にだいたい1000 時間くらい費やします。2台同時 進行で作る場合は、1 台分は850 時間に短縮されます。
 基本的なフレンチ・ハープシコードに金箔など凝った 装飾、椅子が加わると65,000ドルくらいになります。有 名なアーティストに絵柄を頼んだ作品は95,000ドルで売 り出されました。
美しい絵が描かれていますが外注ですか?
 アーティストである母の手描きです。 鍵盤も部品もすべて手作り。
細かな作業ですね。
 1日工房で仕事をしているので、ゴルフや空手で気分 転換します。夏には妻とカヤックもします。  完成したときの達成感。シンフォニーやオペラで自分 の楽器が演奏されるのを聴くのはうれしいものです。
(取材 ルイーズ阿久沢)

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