2020年1月1日 第1号

ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市在住の高尾真人さんが代表を務めるA to(エイトゥ/所在地 東京)では、スポーツ奨学金を得てカナダのカレッジで英語を学びつつ、スポーツのスキルも磨くスポーツ留学のサポートを主な業務としている。高尾さん自身の経験と人脈を生かして、日本人のスポーツ留学をサポートするだけでなく、カナダのユースチームの日本遠征も手がける。今年開催される東京オリンピックでは組織委員会で働く予定でもある。活躍の場を広げている高尾さんに、現在の仕事に関することや今年の抱負を聞いた。

 

バンクーバー・ホワイトキャップスとパートナーシップ契約を結んだ 

 

■現在のお仕事内容について教えてください。

 「(いまの仕事を始めた)目的はカナダと日本をスポーツで結ぶことです。具体的には、スポーツをする日本の若者のカナダ留学の手伝いや、カナダのスポーツチームの日本遠征の手伝い、プロを目指す選手や現役を続けたいと考えている選手をサポートするといったことが主な業務です。カナダへのスポーツ留学では、日本の学生がスポーツによる奨学金を得るためのサポートをします。また、バンクーバー出身の女子サッカー選手を日本のなでしこリーグに紹介したりもしました。いまは、ビクトリアの女子サッカーのユースチームが、東京オリンピックの年に合わせて日本遠征をする手伝いもしています。小学生くらいの子どもたちのチームですが、日本のチームと試合や交流をしたり、観光、オリンピック観戦をするというものです。サッカーに限らず、バレーボールやバスケットボールをしている人などのスポーツ留学のサポートもしています。これまでに、カーリングの選手がこちらで活動するためのお手伝いをしたりということもありました。

 その他、バンクーバー・ホワイトキャップスと公式に契約を結んだうえでお仕事をしていますし、ビクトリアのハイランダーズFCとJリーグのいわてグルージャ盛岡との友好協定を結ぶお手伝いをしました」

■現在のお仕事を始めることになったいきさつは?

 「私は小さい頃から大学までサッカーをしていたのですが、プロの道を諦めて他の方向性を探ってきました。大学を出て就職ということも考えたのですが、留学してMBA取得を目指すことにしました。その留学先がバンクーバー島のナナイモだったんです。ここに来る前は、カナダとサッカーというものがあまりつながっておらず、ここでサッカーをしようという気持ちは全くなかったんです。ですがこちらに来てみたら、子どもたちがサッカーなどスポーツに触れあいやすい環境が整っていることに気がつきました。さらに、スポーツでの奨学金を得てカレッジで学ぶという方法があることも知りました。

 自分もずっとサッカーをしてきましたし、(Jリーグの)川崎フロンターレでコーチとしても活動したこともありましたので、スポーツ留学が日本の若い選手にいい影響をもたらすのではないかと考えました。一方、カナダではまだサッカーは発展途上だと思いますので、日本の選手育成の力やコーチングの力が、いい影響を及ぼすのではないかとも考えました。(ナナイモで)大学に通っている時に、日本の大学で同じサッカー部に入っていた知人がスポーツ奨学金を得てカレッジに留学するサポートをしたんです。それがいまの仕事につながっていきます。

 スポーツをすることで周りの環境がすごく変わるということを、自分も身をもって体験しています。(カナダにスポーツ留学をすると)周りはネイティブスピーカーだらけという、語学学校に通っているだけではなかなか得がたい環境となります。スポーツで関わることで、こうした好条件の環境に身をおけるということに気づかされました。自分が関わってきたスポーツというものに、こんな力があるんだという新しい発見でしたね。こうした素晴らしい経験をさせてくれるサッカーというものに対して自分ができることは何かと考えると、サッカーをはじめスポーツでカナダと日本をつなぐことに貢献することだと思ったんです」

■お仕事されるうえでの苦労は?

 「やはり、ひと相手の仕事なので、コミュニケーション不足だったり、ちょっとしたすれ違いや行き違いが起きてしまうことがあります。自分の経験がまだ不足しているということもあるかと思います。ただ、川崎フロンターレでの前職は、ファンの方とのお付き合いがとても大事になってくる仕事だったので、ひとを相手にする仕事にはある程度慣れていると思いますし、それが今の仕事に生かされているとは思います」

■この仕事の魅力とは?

 「留学生の方から、スポーツをすることによって英語も上手になり、カナダに来て良かったと言ってもらえることがうれしいですね。今年はカレッジのサッカーの5チームに日本人学生の留学をサポートしましたが、その5チーム全部が全国大会に出たりとか、リーグのMVPを取った人もいたりといったニュースを聞いてうれしかったですね」

■今年開催される東京オリンピックの組織委員会で働くことが内定しているとのことですが、どのような業務を担当されますか。

 「オリンピックの会場のひとつで、広報担当の方たちのお手伝いをするということになっています。IOC(国際オリンピック委員会)から来る海外の方と、日本のメディアとをつなぐ橋渡し的な仕事ということで、メディアの運営が円滑に進むように通訳、コミュニケーションを両者のあいだに入って取るというようなことだと聞いています。

 オリンピックおよびパラリンピックの前後も含めて3カ月ほど日本に滞在します。一生に一度できるかどうかという仕事ですので、光栄に思いますね。前職の元上司の推薦でこの仕事をする機会を得たのですが、その元上司にも期待していただいていると思うので、それに応えられるようにしたいです」

■オリンピックに携わるということは、まさしく今の仕事の目的とつながるようなことですね。

 「本当にありがたいお話ですし光栄です。与えられたことをしっかりとこなし、大会がスムーズに運営できるように貢献したいです。カナダと日本をスポーツで結ぶという目的のもとにやってきて、このような機会をいただけたことは、自分が目指していることにも通じると思うので、この経験を元にカナダと日本のスポーツに関わる方のために還元していきたいなと思っています」

■今年の目標や抱負を聞かせてください。

 「昨年末、永住権が取れたのでやっと本格的に進んでいけるという感じです。また、2020年は東京オリンピックという大きなことが起きる年なので、それに直接関わることは貴重な経験となると思います。

 2020年1月に向けて、ビクトリアで日本式のサッカースクールを開く予定で準備を進めています。カナダにおいてサッカーをプレーする環境をもっと良くしていきたいですし、それによって日本にもいい影響が出ることは間違いないと思っています。サッカースクールでは、これまでに自分がサポートした学生をコーチとして迎えるということも考えています。現地の日系の子どもたちは日本語を話す機会が不足しているので、そのような子どもたちに対して日本語でサッカーを教えること、現地の子どもたちに日本のしっかりした技術や礼儀といったものを教えていく、この2つを軸にしていきたいと思っています。スクールで教える礼儀というのは、挨拶、自分の荷物をきちんと管理する、相手の目を見て話す、時間厳守、といったこと。こちらでコーチとして教えている人たちが悪いというわけではないのですが、日本のチームを見てきた者からすると、そういった部分があまり大切にされていないように思えます。それで礼儀といったところを教えていきたいなと。技術を教えるだけではなく、こうしたことも大切なポイントだと思うんです」

■技術だけでなく礼儀を教えるというのはいいことですね。そういうスクールに入れたい保護者も多いんじゃないでしょうか。

 「地元のサッカークラブの方たちと協力しながら開催しようと思っていて、いろいろお話しているんですが、礼儀を教えるという部分にすごく興味を持たれているのが分かりますね。

 ですから手ごたえはあるなと感じます。

 いろいろな人との付き合いでここまで来れたので、これからもそういったものを大切にしていきたいです。日本からのスポーツ留学やその他のスポーツビジネスやスポーツ医療の研修のお手伝いも、自分を信用していただいたうえで依頼していただけるように頑張っていきたいと思っています」

(取材 大島多紀子  写真提供 高尾真人さん)

 

ビクトリアのハイランダーズFCとJリーグのいわてグルージャ盛岡による友好協定締結。この提携のアレンジにも貢献した 

 

バンクーバーアイランド大学のスポーツ留学生たちと(左から2人目が高尾さん) 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。