日本舞踊と三味線の魅力をひもとくワークショップ
今回、日本舞踊藤間流の藤間章吾(ふじま しょうご)さんと三味線の五世・常盤津文字兵衛(ときわづ もじべえ)さんが来加し、藤間左由(さゆう)さんと3人での踊り、三味線と唄が披露された。藤間左由さんはトモエアーツのコリーン・ランキさんの日本舞踊での芸名で、日本で藤間流の師範である藤間由子(故人)、藤間章吾両氏について日本舞踊を学んだ。
常盤津節は浄瑠璃音楽の一種で歌舞伎と共に発展してきた。その唄は歌舞伎のせりふの要素を取り込んでいる。三味線を弾きながら唄う形式はいわば「弾き語り」だが、声のアクセントなどを変えて何人かの登場人物の使い分けをするなど、演劇的であるともいえる。日本舞踊は幅広いが、藤間流は歌舞伎との結びつきが深い。今回の公演では衣装やメイクをつけない素踊りが披露された。衣装がなくても男女どちらを踊っているかを理解させたり、扇子を使って風が吹いている、花が散っている様子を表わすなど表現の豊かさが印象的だ。観客も興味深々で多数の質問が寄せられた。三味線の構造から音の出し方、伝統芸能をいかに若い世代に伝えていくかなど、多岐にわたった講義となった。

観客の心をつかんだ公演
13日の昼の公演は前夜よりも多く観客が訪れた。まい子・ベアさんの案内と解説で観客が曲に入り込みやすかったようだ。日本三景の1つである宮城県の松島を題材とした「松島」はご祝儀舞踊として素踊りで踊られることが多い。昨年の東日本大震災で松島も被害を受けた。復興を祈る象徴的なモチーフとして公演のオープニングにぴったりだった。藤間章吾さんの緩急まぜた流れるような踊りと扇子を使っての様々な表現力に感嘆した。続く「廓八景(くるわはっけい)」も素踊り用の曲で、江戸の吉原の街を歩く男が、遊女、琴の奏者、農夫に出会うさまを描いたもの。藤間左由さんがそれぞれの登場人物を踊り分けて上手に表現している。そして「将門」より将門が戦場で討ち死にとなった様子を語るシーンを藤間章吾さんが踊った。力強く躍動的な踊りは足を踏み鳴らすところも多くて迫力があり、戦場で雄雄しく戦っている姿が想像できた。
常盤津文字兵衛さんが弾き語る「夕涼三人生酔(ゆうすずみさんにんなまよい)」は、3人の酔客の話。怒り上戸、笑い上戸、泣き上戸の3人の様子がはっきりわかる声の使い分けや表現力のおかげで、言葉が分からなくても通じるようで観客席も笑いに包まれた。最後は「松廼羽衣(まつのはごろも)」。出演者3人全員で、天女の羽衣を拾った漁夫と、天女の間で羽衣を返す返さないのやり取りを演じた。天女が最後に舞を舞いながら天に昇っていく所が美しい。藤間章吾さんが公演の後に「天女は異のものでその点、左由さんの見た目も上手く作用している気がしました」と語っていたが、確かに外見はまったく外国人である藤間左由さんが天女というのは、はまっているなと感じた。
公演後のインタビューで今回の公演について感想をたずねたところ、藤間章吾さんは「とても熱心ですね。楽しんでくれているのと同時に何かを持って帰ろうとする意気込みまで感じられました」、常盤津文字兵衛さんは「海外公演だと(言葉の関係で)通じているかなと思ってましたが、そんなことはないですね。特に今回はみなさん一生懸命聞いていてくれる感じが伝わってきました」と語ってくれた。「シンプルな設定と構成だったので心配だったのですが、楽しんでもらえたようで何よりでした」と2人とも振り返る通り、確かな手ごたえのある公演になった。

 

(取材 大島多紀子) (写真提供 Trevan Wong)

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。