2018年1月18日 第3号

1月14日午後、バンクーバー海洋博物館で、第二次世界大戦中、カナダ政府による日系カナダ人の財産売却委員会に加わった日系人の一人・木村岸三に関する公開講座が、ビクトリア大学歴史学のジョーダン・スタンガーロス准教授らを招き開催された。

 

木村岸三、51歳、BC州クリスティナレイク南端にあった自宅近くで、1950年。(提供:Edmund T. Kimura)

 

■“Witness to Loss”の出版

 太平洋戦争開始の翌1942年、カナダ政府が日系カナダ人から没収した財産の売却に関わった日系人・木村岸三に関する本“Witness to Loss”(喪失の証人)が2017年10月に出版された。編者は、ブリティッシュ・コロンビア州立ビクトリア大学歴史学のジョーダン・スタンガーロス准教授と、オンタリオ州立ライアソン大学社会学のパメラ・スギマン教授。

 木村は、42年に日系漁船950と、43年には日系人所有177の不動産と無数の物品の売却に関わった。

 “Witness to Loss”は、木村が後年に記した戦中の記憶や記録の英訳、BC州での人種差別の歴史と背景、これらに関する編者らの考察に加え、日系コミュニティーの活動家・教育者・社会学者・歴史家の4人からの意見も紹介している。  

 

■ プロジェクト“Landscapes of Injustice”

 “Witness to Loss”の出版は、スタンガーロス准教授をリーダーとして2014年に開始されたプロジェクト“Landscapes of Injustice”(権利侵害の全景)の成果の一つだ。

 太平洋戦争開始直後から起こったカナダ政府による日系カナダ人の財産没収・売却の詳細を掘り起こし、強制移動・収容に置かれた日系人らの人権や公民権などの侵害について浮き彫りにする。

 7年間のプロジェクトに5.5ミリオンカナダドルを、カナダ政府の社会・人文科学調査審議委員会(the Social Sciences and Humanities Research Council of Canada)と、協賛する諸団体から得た。これまで国内の9大学からの学生や、関連機関の研究者が参画している。

 

■「売却委員会」の成立

 この公開講座の会場となったバンクーバー海洋博物館では、昨年3月から今年5月まで、日系カナダ人の漁船没収に関する展示“The Lost Fleet”(失われた漁船団)が開催されている。

 没収されて集められ水面に漂う1000以上の漁船団の写真は、戦前いかに多くの日系漁民がカナダ西海岸の漁業に携わり活躍していたかを物語る。

 漁船没収と同時に、日系漁民1265人が有していた2090もの漁業許可証が無効となった。大量の水揚げを失う危機を予想したカナダ政府は、早速、没収した漁船を非日系漁民、缶詰工場、個人などへ売却するための委員会を作る。これに加わるようにと漁業省から声をかけられたのが木村だった。木村は当時、塩蔵魚を日本に輸出する会社を経営していた。  

 

■「売却委員会」に加わった理由

 木村が漁業省から目をとめられた理由は明白ではない。西海岸の漁業での木村の知名度からではないかとスタンガーロス准教授は話す。

 委員会のメンバーになることを打診された木村の脳裏によぎったのは、1907年、平和時にさえ起こった排日暴動のこと。それが、日系人は「敵性外国人」とのレッテルを貼られた「戦時下ではどういうことになるだろうか」と木村は考えた。

 当時の一触即発の社会情勢の中、日系財産没収・売却に抗うのではなく、むしろ静かに運ばれることが安全策に思える。速やかな売却作業への努力へ向けて、木村は売却委員会に加わることを決心した。その際、「日系コミュニティーからの協力が得られることを条件に」引き受けた。さらに、「日系人は敵ではなく、カナダ社会に貢献していることを委員会がアピールするよう求めた」と回顧している。  

 

■ 次世代へのメッセージ

 戦中のカナダ政府からの人権侵害の措置に日系人は従わざるを得ず、戦中と戦後もしばらく、苦難と不便な生活に耐えた。この非力な従順さについて、木村は日系二世・三世へのメッセージの中で、「もし批判するなら、一世と二世らが生きた時代や背景、立場や環境について知り、じっくり考えてほしい」と書いている。これには木村自身への擁護も含まれているのだろう。さらに、次世代へ向けて、「自分自身をしっかり見つめ、自尊心をもって、さまざまな分野に挑んでほしい」と綴っている。

 木村のメッセージを読み上げるスタンガーロス准教授からは、心ならずも置かれた木村の立場を理解する姿勢がうかがえた。

 同准教授の話のあと、マサコ・フカワさんが、戦中に漁船を没収された自らの家族の歴史を知った時の困惑や、日系漁民たちが大切な漁船を没収されても、それが利用されてカナダ社会に役立てばよいと考えていたことなどを語った。

 会場からは、日系人の過去の経験を現在の教育現場で語り継ぐ取り組みに関する質疑応答があり、プロジェクト“Landscapes of Injustice”の成果を社会へ還元する強力な方法の一つになるものと感じさせられた。

(取材 高橋 文)

 

“WITNESS to LOSS”表紙

 

没収され集められた日系漁船、1941年12月10日(提供:Library and Archives Canada)

 

講演中のジョーダン・スタンガーロス准教授

 

 

 

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