2018年1月1日 第1号

カナダを代表する名門校ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)に史上初めての日系人学長サンタ・オノ(小野三太)学長が就任して1年が経った。

名門巨大総合大学の学長として奔走する一方で、日系人としてバンクーバーの日系コミュニティにも積極的に参加。バンクーバーで過ごしたこの1年を振り返ってもらい、コミュニティの印象などを聞いた。

 

いつも気さくにインタビューに応えてくれるオノ学長。この日は自分の生家が今もUBC構内に存在していることを知ったとうれしそうに話してくれた。2017年10月30日、ブリティッシュ・コロンビア州学長室で

 

日系コミュニティとのかかわり

 1年前のインタビューで「日系コミュニティと積極的に関わっていきたい」と語っていたオノ学長は、この1年を振り返り「とても楽しかった。エンジョイしている」と語った。

 印象に残っているイベントがあるかと聞くと、「この1年たくさんの素晴らしい出来事があって、印象に残ったものいくつかと言われても迷いますね」と笑った。パウエル祭に出かけたり、日系文化センター・博物館のイベントに参加したりと忙しかったようだ。

 2017年3月16日に行われた日系プレース基金主催チャリティイベント「サクラ・ガラ」では、ゲストスピーカーとして講演も行った。

 「バンクーバーには日系文化センター・博物館という素晴らしい施設があるし、いろいろな形で日系コミュニティに触れあえる機会をもらっています」。同センターの理事にも就任し、できる限り関わりたいと思っている。

 また「日系社会はもちろん、バンクーバー全体がどう活性化していくかも考えています」とも語る。バンクーバーで影響力のある日系人と定期的に話をする機会を持っているという。学長として、日系人として、住民として、地域にどのように貢献できるのか。オノ学長のテーマのようだ。

 

日系人強制収容から75周年 『Day of Learning』at UBC

 UBCでは2017年10月10日『Day of Learning』と題したフォーラムが開催された。1942年から49年までカナダ政府が実施した日系人に対する強制収容制度についての理解を深めるほか、現在でも続く先住民族やイスラム教徒など特定のグループを標的にした差別を、パネルディスカッションやワークショップを通して考える一日だった。

 2017年は日系人強制収容が始まって75周年であり、強制収容のためにUBCを卒業できなかった当時の日系人の学生に名誉卒業生として卒業証書を授与して5周年ということで、この日はオノ学長が以前から約束していたという「卒業アルバム」を日系人名誉卒業生に手渡す機会としたと話してくれた。

 オノ学長は、この日を経験して改めて強制収容が日系人に与えた影響のすごさを知ったという。「私にとってはすごく心を動かされた一日でした。当時UBCの(日系人)学生が大学を去らなくてはいけなかった時の写真を見て、みんなすごく若くて、今の私にしてみれば子供みたいに若い。10代後半から20代前半」とオノ学長。どれほど厳しい体験をしたのかとか、UBCを去る時はほとんどの所持品を持って行けなかったこととか、その後どのようにして自分たちの人生を立て直していったのかとか、そうした話を直接聞いて、「私にとって、日系人強制収容にともなう辛さと痛みが目の前で蘇るようでした」と語った。

 そして2016年11月22日の就任式を思い起こしたという。就任式では日系人作家ジョイ・コガワ氏が祝辞を贈った。その時コガワ氏が、日系人強制収容があったことを考えると、戦後の短い期間でUBCに日系人の学長が誕生する時がくるとは、何て素晴らしくて何て象徴的なことでしょうと語ったことを思い出したと言い、「あの時ももちろん、あの言葉を感動をもって聞いていたけど、この日(Day of Learning)を体験して、彼女がどういう思いで、あの言葉を贈ってくれたのか真の意味を理解しました」と語った。あの体験をした日系人にとって、バンクーバーの学術界の最高峰に日系人が就任するということに、どれほどの大きな意味があったのかということを実感した日だったようだ。

 そして日系人がたどってきた道は現在、この国で差別に苦しむ人々にも共感するという。「この日参加していたマスクリアム・ファーストネーションの人々が、日系人に起こった事実を聞いて涙を流していたのが忘れられません」とオノ学長。日系人たちも、ファーストネーションの人々に対して同様の共感を持っていると思うと話す。そして「我々は全ての人々の自由と正義のために運動していかなくてはいけない」と語った。

 UBCは特別コース 『Histories and Legacies of Japanese Canadian Internment』を1月に開設する。2018年はリドレス運動から30周年となる。

 

日本との交流

 UBC学長として2017年には日本を訪問。東京大学とドイツのマックス・プランク研究所と量子力学の分野で共同研究することで合意した。これにより、この分野では世界最大の研究グループになるという。UBCとして今後もこうした海外の研究機関と協力する体制を、いろいろな分野で強化していきたいと語った。

 また日本とのつながりとしては、あしなが育英会の「アフリカ遺児高等教育支援100年構想」プロジェクトを支えるアドバイザーグループ「賢人達人会」のメンバーとして参加していることも語った。アフリカの遺児の大学留学を支援するプロジェクト。メンバーには世界の各界で活躍している人々が参加。日本人ではプロサッカー選手の本田圭佑選手やソフトバンクの孫正義社長、指揮者小澤征爾氏、バンクーバーに縁があるところでは元在バンクーバー総領事館小澤俊朗総領事も名を連ねている。

 国際化を進めるUBCの学長として、世界最先端の研究機関としての大学運営と若者の高等教育を受ける権利を推進する活動。戦争中の日系人の若者がはく奪された高等教育を受ける権利、今なお、さまざまな理由から高等教育を受ける機会を得られないアフリカの多くの若者への支援。バンクーバーから発信できることは多い。

 

これからのUBCに期待

 就任2年目に入ったオノ学長。2018年について聞くと「すごく楽しみにしている」と笑った。学長に就任して以降、学生たちとも積極的に交流し、気軽に声を掛ける。柔らかいトーンの穏やかな口調と、巨大総合大学学長ということを忘れてしまいそうなほど気さくな振る舞いは、2年目に入っても健在。学長として「学生と交流するのは好きだし、教授や職員、卒業生も同じで、すごく楽しくやっています」と笑う。

 「UBCは素晴らしい大学」との思いは就任した当時から今も変わらないと胸を張る。学長という責任ある立場にあるが、それも含めて「とても光栄に思っているし、学長としてこの大学に貢献できることを誇りに思っている」と語る。

 個人として、「日系コミュニティと引き続きさらにいい関係を築いていきたいし、(UBCの学長として)自分のできる限りのことをしてUBCをより素晴らしい大学にしていきたい」と抱負を語った。

 世界の大学ランキングでも31位から27位に上がったとうれしそうに笑顔を見せたオノ学長。「これからのUBCも希望に満ちていると思っています」と語った。

(取材 三島直美/写真撮影 池上由布子)

 

「ここからの眺めは素晴らしいんだよ」と言って案内してくれた学長室のベランダからの眺めを背景に立つオノ学長。2017年10月30日、ブリティッシュ・コロンビア大学

 

 

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