2017年4月6日 第14号

日本国憲法は今年5月3日に施行70 周年を迎える。最近では憲法改正を主張する声が大きくなる中、改正議論の前に「憲法をもっとよく知る」ことが大事なのではないか。節目の今年をいい機会とし、バンクーバーで勉強会が3月25 日に開かれた。

 

 講演者は青山学院大学教授中野昌宏氏。「日本国憲法のルーツについて」学ぶ3回シリーズ(バンクーバー9条の会、ピース・フィロソフィ・センター共催)。今回は第1回「憲法の成り立ち:日本国憲法の制定‐鈴木安蔵らの憲法草案」。1945 年8月14 日ポツダム宣言受諾から、日本国憲法を制定するまでの作成過程と関わった人物・組織を時系列で追っていく。(内容を要約する)。

 ポイントは主に3点。1.3つの草案。1945 年10 月4日から動き出す大日本帝国憲法(以下憲法)草案作成は3グループによる草案が主なものだった。2.日本国憲法三大原則:国民主権・基本的人権・平和主義のルーツは2 つ。 3.憲法改正に関わる組織は少なくとも5つ。

 1.3つの草案。草案1:近衛草案。1945 年10 月4日、近衛文麿(当時、東久邇稔彦内閣無任所国務大臣)が連合国最高司令官総司令部(GHQ)最高司令官マッカーサーを訪問。そこで「憲法改正の必要性」を言われる。これが憲法改正の始まりとされている。近衛は独自に草案作成に乗り出す(近衛案)。しかし最終的には、12 月15 日天皇に草案を提出し、16日服毒自殺。近衛案はここで終了する。

 草案2:憲法問題調査委員会(松本委員会)案(松本案)。1945 年10 月25 日に、幣原内閣憲法担当国務相の松本烝治委員長ほか7人で構成され、政府公認改正案として作成を進める。作成は秘密裏に行われたが、翌年2月1日に毎日新聞にスクープされる。しかし同月8日、政府案として草案「憲法改正要綱」をGHQ に提出した。

 草案3:憲法研究会案(正式名称:憲法草案要綱)。 1945 年11 月5日、鈴木安蔵ほか6人の民間グループによる草案作成。特徴は、国民主権・基本的人権が盛り込まれていたこと。草案提出としては最も早い同年12 月26 日には首相官邸とGHQ 民政局(GS)に草案を提出していたこと。この案をGS のラウエルが詳細に分析し、ホイットニー局長を通してマッカーサー司令官まで報告されていたこと。憲法研究会案は国立公文書館に保管され、デジタルアーカイブでオンラインで閲覧することができる。

 2.日本国憲法三原則2つのルーツ。国民主権・基本的人権は、憲法研究会案をルーツとするという見方ができる。日本国憲法の基になったとされるGHQ 案は、1946 年2月4日から9日間という短期間で作成された。それを可能にしたのは憲法研究会案という原案があったからという。実際これについては、作成に関わったGS のラウエルが「(憲法研究会案を)使った」と証言したインタビューがある。

 平和主義は、1946 年1月24 日幣原とマッカーサーの極秘会談で盛り込むことに合意したのではないかとの見方がある。この日の会談で何があったかは非常に重要とされている。平和主義は、日本国憲法第2章「戦争の放棄」第9条の2項目を指すが特に第2項が独自的。この平和主義の発想は誰によるものかはマッカーサー説が有力。ただ、マッカーサーも幣原自身も、幣原の発案によると証言している資料が残っている。平和主義については、シリーズ第2回「日本国憲法9条のルーツ」で詳しく取り上げる。

 3.憲法改正に関わる組織。憲法案を作成した日本側の3グループの他、GHQ、さらに間接的にはマッカーサーの後ろにいるアメリカ政府、そして、極東委員会(FEC)。FEC の一員カナダからハーバート・ノーマンが、憲法改正に直接関わっている。ノーマンについては、第3回「ハーバート・ノーマンと日本の近代化」のテーマとなっている。

 そして、1946 年2月13 日、GHQ は松本案を保守的過ぎると却下、独自案を日本政府側代表に提示。GHQ 案を政府案とすることを迫ったと言われている。ただ、こう見てくるとGHQ 案は、憲法研究会案を基にし、幣原の意見が反映された案ともいえる。そうであれば憲法研究会案を、GS の編集作業を通して日本政府が受け入れたという見方もできる。

 最終的に、日本国憲法は新憲法としてではなく、大日本帝国憲法の改定手続きに則り、全文改正という形を取った。

(取材 三島 直美)

 

「日本国憲法のルーツについて」学ぶ3回シリーズ

第2 回「日本国憲法9条のルーツ」は5月6日。第3回「ハーバート・ノーマンと日本の近代化」は7月上旬予定。講師は中野昌宏氏。詳細についてはピース・フィロソフィ・センターまで。
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中野昌宏氏プロフィール

青山学院大学教授。総合文化政策学部。専門分野は社会思想史、社会理論、社会哲学など。現在はブリティッシュ・コロンビア大学アジア研究所客員教授として在籍。ハーバート・ノーマンを研究。今年2月には同大学で「日本国憲法の思想的系譜」について講演した。

 

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