2017年3月23日 第12号

3月18日、第28回カナダ全国日本語弁論大会が、カナダ全国弁論大会組織委員会とカナダ日本語教育振興会、そして今年はブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)アジア学部の共催により、アジアンセンターで開催された。この大会では日本の文化や言葉を深く研究した若者が、多数輩出され、それはとりもなおさず各界で活躍していることを物語る。今大会への出場者もいずれ劣らぬ流暢な日本語で、日本文化への探究心の強さが感じられた。しかも、日本人にはない身振り手振りの感情表現が加わり、カナダ各地から選び抜かれた25人の弁士による、熱気あふれる弁論大会となった。

 

出場者、審査員、大会主催者が全員集合し、記念撮影

 

日本語への興味は、アニメやマンガから…

 ほとんどの発表者が、日本語に接する初めての機会は、日本のアニメやマンガに出会ったことという。その内容をもっと知りたい、主人公やヒーローに憧れ、日本への興味が募り、文化への探究心も高まってきたと言う。その深まりは、日本で生まれ育った者も気づかないようなことに着目し、考察を深めるなど、感心させられる。例えば、エンサンサリー・ウォンさんは、「東日本大震災で、救援物資を受け取る人々が整然と並ぶシーンを見て、これは小学生のときから教室の掃除をしたり、給食当番をするなどの教育が、大人になっても生きているのではないか」との趣旨のスピーチを行った。まさしく、目のつけどころが違うのである。  

 

審査員泣かせの粒ぞろい

 一人あたりの発表の持ち時間は、初級3分、中級4分、上級・オープン5分と決まっているが、各自テーマを選び、プロットをたて、事実を調べ、原稿を創作する。いずれも『起承転結』の構成がなされ、それぞれに独自の工夫がされている。短い時間の中に、聴衆の気持ちをキュンとつかみ、リードし、自らの思いを主張する。エンディングには、胸熱くするような逸話を加えたり、笑いを誘う話で終わるなど、いずれもレトリックにひと工夫がなされていた。もちろん、すべて日本語。それを暗記し、聴衆の前で発表しなければならない。そんなプレッシャーにも負けず、堂々と弁論する様は、甲乙つけがたし。審査には相当手間取っていた様子だった。

 

最優秀賞を獲得したのは、シンシア・カーティさん

 シンシアさんが発表したのは、自らの生き方をまとめた「息子のための嘘」。その要旨はーーー日本語を学ぶうち、日本で仕事をし、生活をしたくなり、いろいろな人に相談をした。しかし、多くの人が「日本でシングルマザーで生きていくのは大変。児童手当も低いし、離婚したことへのマイナスイメージがあり、忍耐が足りなかったかのような評価をされることがままある」とまるでネガティブ意見ばかりだった。でも私は、日本が好きだし、日本の文化をもっと知りたいと思うので、行く決心は変わらない。シングルマザーであることを隠してでも、嘘をついてでも、私の愛する息子を守り、日本で生活したいーーーと凛とした姿で発表した。そんな姿に、会場の聴衆も、審査員も弁論の内容以上に心打たれたのではないだろうか。また、日本社会への重要な問題提起でもあった。

 

多数のボランティアが会場を盛り上げた

 UBCの学生、職員が率先して会場設営や運営をし、細やかな心遣いで来場者をサポートしてくれていた。また、大会の終わりには、バンクーバー在住のバスレイ幸子さんを中心にした表千家の茶道が披露され、会場の人々にお茶が振る舞われ、日本の伝統文化の紹介に一役買っていた。こうした弁論大会会場の様子は、『TVジャパン』のクルーがニューヨークからやってきてTVカメラにおさめていた。

(取材 笹川 守)

 

記念撮影にも気軽に応じていた岡井朝子在バンクーバー日本国総領事と左は入賞したラファエル・リベロ君

 

最優秀賞に選ばれ、息子さんと一緒によろこぶシンシア・カーティさん

 

審査員(左から)ステファニア・バークUBC教授、馬目広三さん、野呂博子ビクトリア大学教授、齊藤真美さん、高柳慈子さん

 

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