2016年9月1日 第36号

バンクーバーの日本語学校、矢野アカデミーのオフィスを会場に、7、8月の2カ月間4回にわたり、大槻義彦教授を囲んでのサイエンスカフェが開催された。

 

第4回の「サイエンスカフェ」に参加の皆さん

 

 早稲田大学理工学部名誉教授である大槻氏が掲げた題目は「科学とあなた」「宇宙を語る」「人工知能が人間を超える日」「量子のあの世」。般若心経の録音を初回の冒頭で流し、「色即是空が物理学の基本哲学である」との話から、カフェは始まった。

 全回参加の4人のひとり、頼田枝里香さんは「物理哲学を語られたことは予想外だったが、物事の根本は滔々とした決まりごとのないものとの認識を得て、世界観が変わった」という。「『Ph.D.とは哲学博士である』という話が特に印象深かった」(久保克己さん)。「サイエンス・カフェという場を体験できたことが1番の収穫」(河田 叡治さん)。鹿内正善さんは「(世の中に出回る)怪しげな事柄に、先生は明快に合理的な回答を示してくれた」と語った。皆、初対面同士ながら、打ち解けた雰囲気が印象的だった。

 「科学を身近なものに」と大槻氏はこの場を設けた。そもそも一般人が最初に氏の見識に触れる機会となったのは、講談社から依頼されて執筆した著書『詩人のための物理学』。この本がベストセラーとなったことで、超常現象をテーマに番組を制作するテレビ局が、氏に番組出演やコメントを求め始めた。「一般の科学者は估券に関わるからと、コメントを求められても何も言いませんよ」と大槻氏。だが、自身の考えを率直に語るのが氏のスタイルだ。

 「自然の本質を知りたい」の思いに突き動かされ、長い研究生活を送ってきた。「時々死にたくないなと思う。50年、100年後に人類が持っている自然への知識が計りしれず、それを知り得ないのは残念で腹が立つ。1年でも長生きして新しい発見を知りたい」。

 サイエンスカフェ参加者の表情にあふれていたのは、知的好奇心が満たされた喜びと高揚感。来年の開催に向けて早くも期待が膨らんでいる。

(取材 平野 香利)

 

 大槻先生は毎年夏の間、バンクーバーにお越しになり、主にゴルフをされているんですが、今年は来られてすぐに「矢野アカデミーでサイエンスカフェをやろう」と言われ、最初は「サイエンスカフェ」が何だか分からずびっくりしました。

 この「サイエンスカフェ」は日本ではかなり流行っており、難しいと思われがちな科学をカフェでコーヒーでも飲みながら、先生を囲んで少人数でやさしく語り合う、とのこと。高い科学研究費を少しでも皆さんに還元したいとの考えもあり、素晴らしいですね。そして土曜日は、教室は使っていないのだろうから、無駄にせず、隔週の土曜日にやろうということになりました。

 早速バンクーバー新報の掲示板などに案内を出しましたが、口コミですぐに広まり、なにしろ10名ですから、すぐ満員になってしまいました。

 狭い教室で、とても窮屈でしたが、お茶やコーヒーを片手にお菓子など食べながら和気あいあいとした勉強会になり、4回無事に終わりました。

 大槻教授と直接お話しできてとっても楽しかった、宇宙のことや量子などいろいろ勉強になった、など大盛況でした。

 来年もぜひ開催したいと反省点もふまえて、大槻先生といろいろ相談しています。

(矢野 修三さん)

 

「サイエンスカフェ」に参加して

 4回にわたってのサイエンスカフェに参加させていただきましたが、まさに目から鱗の落ちる思いの連続でした。私自身、サイエンスカフェという言葉は聞いたことはありましたが、どんなものか想像もつきませんでした。しかし、今回こうして参加させていただくことができ、新しい世界を見た思いがしています。

 先生のお話の中にあった、物理学が哲学の一部を形成しているということに、驚きと感動を覚えました。「AI(人工知能)は人智を超えることはない。なぜなら、人間には長年のコミュニケーションから生まれる哲学があり、創造力があるから。そしてその上に、人間の物理学がある」ちょっと記憶が正しくないかもしれませんが、私はそんなふうに受け止め、感動しました。

 このところ、理系と文系、自然科学と社会科学というふうな分け方は、実はあまり意味のないことかもしれないと思うようになりました。考えてみれば16世紀イタリアのガリレオ・ガリレイは物理学者であると同時に天文学者、哲学者といわれていますし、15〜16世紀のイタリアルネサンス期のレオナルド・ダ・ビンチも、音楽から数学、物理学、建築等々あらゆることに精通していたと評されています。すべてが、哲学を土台にした物理学(ものの理)なんだということがわかります。

 こうした考え方に気づき学べたことが、今回の大槻先生のサイエンスカフェに参加させていただいた、最大の収穫だと思っています。本当にありがとうございました。

 今後、歴史を動かしてきた原動力とは何なのか、先生のお話が伺えたら幸せです。ルネサンスがあり、産業革命があり、この加速度的技術革新と相まって、人間社会全体を動かしてきた力があるのでしょう。いろんなことをばらばらに思いつきますが、きっと何か統一して説明できることがあるに違いないと思っています。とても貴重な経験をさせていただきました。

(久保 克己さん)

 

 大槻先生主催のサイエンスカフェが矢野校長の支援を受けてバンクーバーで開催された。場所はカフェの雰囲気はまるでない、矢野日本語学校の狭い事務所。休日で空調もない最悪の環境(矢野さんごめんなさい)ではあったが、内容の充実度は、なかなかのものであった。

 開催日と主要テーマは以下の通りである。2016/7/2「科学とあなた」、2016/7/16「宇宙を語る」、2016/8/6「AIが人間を超える日」、2016/8/20「量子のあの世」。

 わずか4回の開催であったが、毎回予定を超す出席者で、立ち席も出るほどの大盛況。予定時間の2時間は毎回大幅に超過。毎回テーマにとらわれず、大槻先生の人柄と幅広い活動のせいもあって、UFOや月の石の話等自由な議論???が活発に行われた。

  特に最終回は、今日の我々の身の回りにあるスマホ等の電子機器の製造にはなくてはならない量子力学のお話。量子は原子や原子を構成する電子、陽子、中性子等の非常に小さな領域の話をするときに必要となる。しかしながら量子は我々が五感で認識できる物質とは異なる。姿、形はないが、存在とその振る舞いは、ほぼ完全に解明されている。(虚数というこれまた実数しか知らない我々にとってなじみのない数を使ったシュレンディンガーの波動方程式で10のマイナス16乗以上の精度で記述できる事が証明されている。実際この理論を使って作られている物に何のトラブルも発生していない)。言ってみればこの世の言葉では表現できないので、あの世の物である。(あの世とは、巷で使われる死後の世界の意味ではないので誤解しないように)。

 先生の巧みな話し振りに、参加者全員良く理解できたとはとても思えないが、量子に関する高い関心もあり大いに議論は盛り上がった。途中非常ベル騒ぎや、バンクーバー新報さんのインタビューもあり、終了時間は5時近くにもなった。

 全回を通じて矢野校長の絶妙なタイミングでのイレギュラー発言で、大槻教授が当初予定されていた発言内容が大幅に変更される事も度々。でも、これがカフェで行うサイエンスカフェの一面でもある事を考えれば、初めての開催にしては上出来だったと思います。もし来年以降も開催していただけるのであれば再考していただきたいのは、出席者の年代バランスと人数、開始時刻と会議時間、会場、開催頻度と回数です。

 大槻先生の印象に残ったお話は数多くありますが、あえて一つ挙げるとすれば、第一回の会の冒頭に話された次の言葉に尽きます。「物理は哲学である、物理は民主主義である」。これに私の解釈や補足を加える事は先生の発言の真意を失する可能性もあるので控えますが、このお話をお聞きした時に思い出したのが、漱石の門下生で、著名な物理学者でもある寺田寅彦の次の言葉です。「物の道理が判らぬ者は物理学をやる資格がない」。私は物理に限らず、何をするにしても、物の道理をわきまえる事が人として一番大切であると理解しています。

 大槻先生も自身のブログ「大槻義彦の叫び、カラ騒ぎ」で、物理以外のあらゆる分野の出来事について、偏狭な主義主張、物欲や権利欲に捉われることなく、一人の道理をわきまえた人間として発言されています。一読されると良いと思います。

 もちろん、先生も人の子。発言の全てが正しいとは限らないでしょう。ただし、いかなる時も自身が正しいと思われ、言うべき事と思われた事だけを発言されていると思っています。

 私自身の事で恐縮ですが、私の記憶では、私が先生と初めて出会ったのは2000年の夏、リッチモンドにあるゴルフ場でした。それまでは、もちろん面識はなく、テレビで見かけたお顔だと思って声をかけたのが始まりで、以後、夏場にここバンクーバー滞在中に、先生ご夫妻と私と家内がゴルフを何回かお手合わせ願う関係が続いております。

 考えてみますと、ゴルフコースでたまたま出会う人は多くいます。しかしそれが縁でその後ずっと縁が切れずにいる事は珍しいことです。これは私自身が科学大好き、物理大好きである事と、先生の全く飾らない性格の為だと考える次第です。

 少し前のバンクーバー新報のインタビュー記事で先生自身が述べられているように、一般市民に広く科学の現状を説明し、正しい科学知識を持ってもらうようにお手伝いするのは学者としての使命とのお考えで、今回ここバンクーバーでも開催される事になった様です。

 今回の開催に当たり大槻先生はもちろん、ご尽力いただいた矢野校長ほか多くの方々の努力に感謝すると共に、来年以降も同様の趣旨の会が開催される事を期待したいと思います。

 最後に蛇足かも知れませんが、私の望みを一言付け加えさせてもらいます。

 核兵器、遺伝子工学、AI、量子コンピューター等は人類にとってパンドラの箱になり兼ねません。大槻先生は教育者らしく人間を信じ、人知が暴走し人類の破滅をもたらすような事態にはならないとの信念を述べられていました。しかしながら我々にとって大切な事は、この先生の話を信じ安心するだけではなく、サイエンスカフェの様な場を利用して、科学知識と科学の現状に対する正しい認識を得ると共に、オカルト集団の活動や科学知識の悪用の動きには厳しい批判の目を常に持ち、必要とあらばこれらと対峙する事も辞さない覚悟ではないでしょうか。

 大槻先生、毎回長時間お付き合い下さりお疲れ様でした。ありがとうございました。  

(河田 叡治さん)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。