「代替案」について

 

今、皆さんから協力を頂いている、慰安婦像設置反対の署名用紙冒頭に、『韓国慰安婦の像および碑の設置をやめ、その代案が検討されることを希望する』と書かれています。その「代案」(代替案)とは何か。以下に像設置反対期成同盟会としての所見を述べます。

 

【1】 この文言が出てきた背景

 これは像設置を目指す韓国コミュニティにも、設置反対を強く申し入れている日系コミュニティのどちらにも、それなりに受け入れることが可能だと思われる、バーナビー市長ならびに市議会の政治的な落しどころであったと理解しています。

 この問題が発生し「反対」の声がバーナビー市長のもとに届き始めた当初から、「『反対』だけではなく、多民族が共存しているカナダにふさわしい解決策を模索したい」と市長は語っていました。そして4月15日に出された市長からのプレスリリースで、「日韓双方が合意し新しい提案がなされた時に、この事案の検討を始める。それまでは凍結」と述べられています。その結果として、日韓双方のコミュニティが会談をすることになりました。そしてその会談の目的が合意案の形成であり、その合意案は従来の慰安婦像に代わる代替案を提出することに繋がっています。

 

【2】 反対期成同盟会の基本的立場

 われわれが寄って立つところの考え方は以下のとおりです。  

2国間の微妙な政治問題を孕む慰安婦像を第3国(カナダ)に持ち込むことは極めて不適切。

多様文化主義をとり調和のとれた生活を送っている市民や移住者たちにとって、物議を醸す像を公共の施設に設置することは、適切さを著しく欠き、市民生活に大きな影響を及ぼす。

米国・グレンデール市ではすでに慰安婦像が設置され、修復不能とさえ思われるほどのコミュニティの分断や日系の子供たちへのいじめが激化している。われわれはこの轍を踏むことは絶対に避けなければならない。

韓国側の事実誤認や歴史認識の違いから、われわれには言いたいことが山ほどあるが、これは控える。この違いを今ここで議論しても建設的な話し合いになるとは到底思えず、「像を設置させない」という本来の目的の達成はおぼつかないという懸念が強いからである。

われわれの行動の対象はバーナビー市議会であり、慰安婦像やそれに類似する像や碑などを公共の施設に設置する許可を与えないように働きかけることである。

 

【3】 今後の展開

 今後の反対運動の展開については、以下のように考えています。

バーナビー市当局に対して働きかけている日系の団体はいくつかある。早い段階から市当局に接触して行動していたグループもあったし、バーナビー市行政に影響力を持つバーナビーの経済団体を通じて、市の中枢に働きかけているグループもある。また3月6日の韓国・ハンギョレ新聞の記事を見て驚き、大規模な反対署名運動を展開したグループもある。この一般市民を巻き込んだ署名活動の影響は大きく、韓国ロビー活動が一定程度浸透していたバーナビー市当局にとっても「これはただ事ではない」と思わせるに十分な成果があった。

 期成同盟会は運動の主宰者とその責任の所在を明確にし、日系コミュニティにおける一定の代表性を持ったプラットフォームとして、多くの人々のサポートの下で形成されたものである。

 こうした各運動体は具体的な戦術に関しては若干の違いはあるが、『慰安婦像は設置させない』という目的においては一体である。日系グループの中での反目や非協力などという問題を生じさせないように、小異を捨てて大同につく運動がますます求められている。

市長のプレスリリース(4月15日)に示された意向を尊重し、韓国コミュニティとの会談に臨む。会談に臨む日系代表団は日系コミュニティを代表しうると考えられるいくつかの団体から選出する。当期成同盟会からも若干名を送る。

代表団の選出が終わったら、韓国コミュニティ側との公式会談を持つことになる。

公式会談の中での主たる議題は「代替案」になることが予想される。なぜなら、バーナビー市長の4月15日付けプレスリリースを受けて『双方合意できるアイディア』を探るための会談であり、それはすなわち、代替案の模索であろう。

われわれは「代替案」の具体的イメージを持っていない。また、現在の段階で具体案を持つ必要性はないと考えている。われわれは、いわゆる慰安婦像と歴史的に検証されていない文言を並べた碑、あるいはそれらを想像させるような一切のものの設置に絶対に反対であり、妥協は無い。この点は皆さんによく理解しておいていただきたいところである。

ここで再び「代替案」とは何か?代替案とは、バーナビー市長のプレスリリース(双方合意までは凍結)や、それに先立つ『カナダ的解決の模索』という考え方によって敷かれたレールの先にあるものであり、そのような優れた代替案があるのか否か、あったとしても双方が合意できるような代物なのか否か、現時点では全く五里霧中である。

 仮に、慰安婦像がとりわけ戦時において蹂躙された女性の人権をしっかりと思い起こし、未来のために心に刻んでおくためのもの、と説明されるならば、誤謬も散見されるあの日本を非難する慰安婦像ではなくて、世界の女性や少数民族をも対象とした広い人権擁護や平和のための会議創設など未来志向の共同イベントを、日韓に限らず他の民族コミュニティを含めて、共同で計画すべきである。女性の人権侵害や、力の乏しい少数民族、子どもなどへの虐待は70年以上前のアジアではなく、今日現在の世界のあちらこちらで起きている事だからである。しかし、こうしたアイディアは、まず韓国側には受け入れられないだろう。

われわれから代替案を提案することはない。正直なところ、『何も設置しないこと』が一番良いのである。しかし、『双方で合意』のための代替案なら、それは韓国側が提示すべきものであって、われわれはそれを検討し意見を表明するまでである。

 

【4】 おわりに

 韓国側との会談(あえて交渉とか折衝とは言わないが)には長い時間を要することが予想されます。早く決着が着くならそれにこしたことはありませんが。

 その長い運動の過程で一番恐れる事は、これまで反対運動に係わってきた日系コミュニティの皆さんがさまざまな理由から、離れていってしまうことです。仮に像設置反対の運動が長引いても、飽きてしまったり、情熱を失ったり、日常の出来事に忙殺されたりしないように、十分に注意を払いましょう。

 われわれは反対期成同盟会の運動の経過や韓国側との会談の行方など、折を見て皆さんに報告し続けたいと考えています。

 像設置の計画が完全に潰えるまで、そして反対期成同盟会が目的を達成して解散するまで、皆さんと手を携えて協力し合っていきたいと考えています。

 

2015年5月5日

バーナビー市慰安婦像設置 反対期成同盟会委員会

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