まずは、道場の床に感謝を込めて雑巾がけ


 

面、胴、小手、垂(たれ)の剣道具を着用して、竹刀を用いて一対一で競技する。剣道具を着用した部分を竹刀で打ち、そのときの姿勢や気合がそろっていれば、ポイントとなる。その美しい一瞬を得るには、長く、厳しい鍛錬が必要だ。

日本武道の多くは、練習を『稽古』と呼ぶが、稽古には、古(いにしえ)を稽(まなぶ)という意味があり、伝統的な修行の道がある。道場の雑巾がけには、道場への感謝の意を表し、道場への出入りには必ず一礼をする習慣など、技術を会得すると同時に、『耐えること』、『規律を守ること』、『自信をつける』…などのさまざまな人格形成の要素が組み込まれている。

 

 

十分な準備体操をして

 


『モヤモヤ』『イライラ』も吹き飛ばす… 気合!

稽古中の道場へ入ってまず驚くのが、気合のすさまじさ。特に有段者ともなれば、腹の底から発する気合に、まさしくすべての『気』が込められて、相手に迫る。返される。その対峙のとき、張り詰めた空気感がつくり出される。

日々の生活の中で、これほどの声を発することはまずない。剣道のときならではの発声だ。気持ちを表に出す。『モヤモヤ』も『イライラ』も吹き飛んでしまう。「入門時に自信なさ気な臆病な子どもも、思いっきり声を出す鍛錬でだんだん自信をつけ、積極的な行動へと成長していくのを見るのは、ほんとうにうれしいものです」と語るのは、剣道練武道場、子どもの部の指導者の荒真紀子さん(剣道5段)。子どもたちが入門してきたとき、イジメられやすい子は見分けることができる。その子の親にも自覚がある場合が多く、「気弱なこの子を何とかしてほしい」という要望も聞くそうだ。気合の発声、そして、先輩の子に手順や決まりごとを教えさせ、友だち関係を築かせるという。それが自信になる。

 

 

 

荒先生を中心に小手打ちの稽古


 

自分に厳しく、他に優しく

剣道具を着用するとき、さりげなく手助けをしあう姿を見かけるが、実にほほえましい。後輩には、先輩の所作や技術を『眼で学ばせる』よう指導するとともに、『自分に厳しく、他にやさしく』するよう指導している。こうしたことは、強制というよりも、繰り返すことで知らず知らず、身につくもので、道場ならではの『しつけ』なのではないだろうか。

「人の嫌がることをせず、イジメられない自信に満ちた人間に育ってほしい」と願う荒真紀子さん。また、剣道を通じ、危険を察知する能力も高まることで、危険を避けられるし、イザというときは、日頃鍛えた気合の大声で助けをよぶのも効果的だ。

 


正座の姿も凛々しい子どもたち

 

(取材 笹川守)

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