2017年6月15日 第24号

 飲食店で、広い席と狭い席が空いていたら、ゆったりと広い方に座りたいと思うのは、ごく自然な心理ではないでしょうか。

 日本でも先日、とあるレストランで好きな席に座ろうとしていたお客様に、「こちらの席でお願いします」と、お客様の表情から、明らかに意に反する席を指定されていました。このような場面は度々見かけます。

 バンクーバーで、あるラーメン屋さんに入ったときのことです。

 オープン直後で約6 組のお客様がいました。席が4 名席と2 名席のふたテーブルが空いていました。私達は2名ですので、当然2 名席に座ればいいのですが、4 名席を指して、「こちらの席でもいいですか?」と聞きました。するとアルバイトらしき店員さんが、厨房にいた責任者に目配せをして答えを促しています。責任者は首を横に振り、私達は2 名席に座らせられました。その後面白いことに、私たちのあとも、その次もお客様は2 名ずつでした。そのため「外でお待ちください」とのこと。2 名席が空くまでだと思い、外の方が気の毒に思いました。

 このような場面を見るたび、私はこう思います。「好きな席に座らせてあげれば、気持ちがいいのに」、「予約席の札を活用して回避策もできるのに」、「目配せをするより、事前に打ち合わせをしておけばいいのに」。  お客様を失う瞬間は、案外些細な出来事からおきてしまうものです。

 『たかが1回、たかが一人、たかが席くらい』と安易な考え方をするのは逆にもったいない話です。飲食店にとっては大したことではないかもしれませんが、お客様にとっては負の記憶として後々まで残ってしまいます。すると、折角その飲食店に誘われてもその人が渋ってしまいます。こうして他の飲食店に行ってしまうのです。

 もちろんお店にとっては、効率よく回転させたいと願うのは当然のこと。しかし、それをあえてお客様を優位にすることが、後々リピーターを醸成していくことに繋がっていきます。

 私の現場時代の『お席のご案内』のエピソードをご紹介します。

 ある時、2名のリピーターのお客様が来店されました。ご案内したテーブルは最後のひとテーブルで、2名席×2名席に分離ができる4名席でした。そのリピーターのお客様は、いつもお店が混んでいることをご存知で、逆に私に気遣いをしてくれて「すぐお客様が来るかもしれないから、テーブルを離しておいていいですよ」と、うれしいことを仰ってくださいました。この一言から、『私たちお店側に、気配りをしてくださる有り難いお客様もいるものだ、やはりお客さま優位な接遇は、いつか必ず伝わるものだ』と、実感した瞬間でした。私は「まだ時間も早いですから大丈夫です。広い方がゆっくりできますから、どうぞ、このままお使いください」と申しあげました。その後、そのテーブルを見ると、もし2名席だったらテーブルに乗り切らないほどのオーダーをしていました。

 『やっぱりテーブルを離さないで正解だった!』オーダー数が、いつもより増えていたことが、『お客様からお返し』をいただいたように感じました。

 


著書紹介
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セミナー紹介
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福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。