2016年11月17日 第47号

日本料理食卓作法認定講師を取得して間もない頃、受講を希望される方から八つ当たりのような電話がありました。「恥をかいたのでテーブルマナーを教えてくれ」というのです。声を荒げ、私から「教えます」という了解を得るまで電話を切ろうとしない彼。とても興味深いエピソードなので今回はそれをご紹介します。

   夜10時ごろのこと。電話に出ると、いきなり怒った声でテーブルマナーを学びたいと言われました。しかし、その言い方はとても人にお願いをする口調ではありません。それどころか、私に電話をする前にイヤなことがあったらしく、関係のない私に八つ当たりをしている感じでした。

 当時の私は認定講師をいただいたばかりで、協会の先生のお力を借りて指導をしていた時期です。そういう状態の私に本筋とは別の質問を立て続けにしてきます。

 返答に困り果て、口を濁していたのですが、はっきりとした意見を言わないことが、さらに怒りに触れたようです。ますます困ってしまった私は先生に電話をしてみることにして、しばし電話を切って待っていただくようにお願いしました。

 そこでわかったことは、私に電話する前に、1人目の認定講師からはマンツーマン指導はしていないとのことで断られ、次にHRS協会に電話をしたら、どうやら受講料で折り合いがつかず断られ、そしていよいよ私に電話をしてきたという経緯があったようです。

  話している間にもキャッチホンの音がしていて、イライラしている様子がわかります。ホトホト困り果てた私は気が変わってくれればという思いで、「私が教えてもいいのですが、お客様の方が私より、よほど知識がおありのようでございます。仮に私がお教えしても知っていることばかりかと思いますので、私以外の方をお選びになってはいかがでしょうか?」と慎重に語りかけたその時です。

 「オレ、食い方汚ったねぇ〜って言われたんだよなぁ〜」と独り言を言ったのです。それを聞いた私はなるほど、とこれまでのことに深く納得してしまい、間髪をいれず、さっきまでとは違う声ではっきりと言いました。

 「お客様、わかりました。それではわたくしが教えます」

 「ん? オレ、今なんて言った?」

 「今、お客様は食い方が汚いと言われた、とおっしゃいました。それでお困りなのですね。まだまだ未熟ですが私で良ければ精一杯お教えいたします」と思わずOKを出していました。

 そのような事情だったら早く言ってくれたら良かったのに…と私も急に元気になりました。さっきまでのドキドキハラハラはそっちのけで、「食べ方が汚い…」そんな男性を放ってはおけませんでした。

 その後の打ち合わせでは、なんと驚くことに献立を「鍋でお願いします」と言うではありませんか。日本料理のテーブルマナーは、コース仕立てですので、お鍋では教えられないのです。電話での会話ではよほどの知識をお持ちの方だと思ったのですが、この一言で相手の知識がなんとなくわかり、内心ホッとしました。

 そして前日。突然待ち合わせ場所を変更する電話がありました。お店近くの交番前にしてほしいというのです。

 そして当日。待ち合わせ場所に行ってみると、驚いたことに彼は真っ白な肌着を着て立っているではありませんか。

(次回に続く) 

(文 福本 衣李子)

 


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福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

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