2019年8月29日 第35号

 カラッとして夏のバンクーバーの天気はとてもさわやかである。でも今夏はかなり暑い日が続いた。そこで暑気払いと銘打って何回か飲み会を行なった。先日も生徒と行きつけの居酒屋に。先ずはビールで、と彼が「2本のビールをください」と注文した。そこで「そんな言い方をするとアサヒやキリンなど日本(2本)のビールがきてしまうよ」とやんわり注意した。残念ながらこのダジャレすぐには分かってもらえなかったが、日本語としては違和感がある表現である。日本語は「ビールを2本ください」と数詞は普通、後にくるのだが、英語は「two bottles of beer」であり、数詞は常に最初にくるので生徒が「2本のビール」と言いたくなるのもよく分る。

 これがいわゆる「母語の干渉」と言われているもので、母語の影響によって、学習している言語にいろいろ誤りを犯してしまう現象である。日本語と英語に関して、この「母語の干渉」の代表的な一つが「行く、来る」と「go、come」である。カナダ人の家にホームステイしている日本人が「Dinner is ready」と言われて、日本語では「いま、行きます」の発想から「I’m going now」と言って、ダイニングルームに行くと食事はすでに片付けられていた。よく聞く話だが、確かにこの表現では英語では「いま、出かけます」の意味になってしまい、「I'm coming」と言わなければならない。

 しかしこの「母語の干渉」はお互いさまであり、カナディアンの日本語学習者にも同じ悩みがある。時間に遅れている生徒から学校に電話がかかってくる。「すみません、スカイトレインが遅れて、でもすぐ来ます」である。このような場合、英語では「come」を用いるので「来る」と言ってしまう。言葉が持つ文化の違いを楽しもう、と説明している。

 この「行く」と「来る」は日本語でもなかなかややこしい。九州地方の方言では「ご飯ができたよ」の返事に「いま来ます」とか、電話で「今から行くよ」を「今から来るけん」と言うようである。標準語からすると戸惑ってしまうが、日本語にも英語と同じような発想をする表現があり、とても興味深い。この方言を使っている人は英語の「go」と「come」の使い分けはすごく簡単に違いない。 

 そしてもう一つ「母語の干渉」の定番は、否定疑問文における「はい」と「いいえ」である。「あした学校に行かないの?」の質問に英語が母語の学習者は「いいえ、行かないです」と答えてしまう。日本語では「はい」と答えなければダメである。しかし英語ではどんな場合でも、答えが否定であれば必ず「No」であるから「いいえ」となってしまうのも理解できる。

 これもお互いさまで、英語学習において日本人が犯しやすいミスで、要注意。空港の通関などで「Don't you have dangerous items ?」の質問に対して、日本語式に「はい、持っていません」の発想で、「Yes」などといったら大変なことになってしまうかも、でもそれもまた愉し。

 

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