2016年12月8日 第50号

 この初夏から隔週で『老婆のひとりごと』を書き始め、その文中にしばしば「桐島洋子」と名前が出る。彼女は30年来の親しい、尊敬する、そして、大好きな老婆の友人だ。今、50〜70年代の日本女性なら誰でも知っているはずの作家…。ところが近頃、若い人から「(その人は)誰なの?」と聞かれる。その昔、『淋しいアメリカ人』や『聡明な女性は料理が上手』など、ベストセラーを書き続けたノンフィクション・ライターだ。

「アレー、彼女のこと知らないの?」
「それじゃ、娘さんの桐島かれんちゃんは?」
「アー、知ってる、知ってるよ、モデルさんでしょう?」

 と、まあ、こういう会話と経験を繰り返す。ご本人、洋子先生もそれをよく御存じで、「そうそう、そうなのよ」とおっしゃって笑っている。

 そういう私も1960年始めごろ、すでに日本を離国していたので、彼女がそれほどの著名人であるのを知らなかった。しかし、知れば知るほど素晴らしいその人柄と知識力。本当に素晴らしい。洋子先生は今も活発に色々書いていらっしゃる。小学館から発行の月刊雑誌『本の窓』という、とても良い雑誌がある。この時代になんと1冊「百円」である。しかし、内容に重みがあるし、結構楽しい雑誌だ。

 この夏、このバンクーバーで、米国大統領選挙のニュースを彼女ほど熱心に見ている人はいないと思った。その熱心さだが、彼女の次がこの老婆かもしれない。彼女は商売道具のラップトップを広いベッドの上に置いて、半分仕事をしながら、ニュースにかぶりつきだ。老婆もその傍で2番目のかぶりつき。

 その日から間もなく、洋子先生は日本へご帰国され、やがて大統領選挙の日が来た。そして、トランプ当選のニュースのことで、老婆が「頭がぼっーっとして」とメールを送信すると先生は「もう、ボーではなくムシャクシャです。テレビをつけると気色が悪いから、 テレビを元から消して、代わりに、ひたすら読書に励んでいます。 トランプのお蔭で『知的大向上』を果たすかもしれませんよ」との返信を受信。

 この夏、テレビのスイッチを入れると毎日「米国大統領選挙のニュース」が入っていた。たまたま、米国の友人がオバマ大統領関係の仕事に就き、ワシントンDCに在住している。ワシントンDCへ遊びに行くとあちこち案内してくれる優しい女性で、特に女性学の専門家でもある。多分「その人」経由だと思うのだが、会ったこともない、しかし名前は年中聞いている有名人から、ある日突然Eメールを受信するようになった。2014年12月31日から今日までにオバマ大統領からは54回、ミッシェル・オバマからは27回、ヒラリー・クリントンからは44回、チェルシー・クリントン、ジミー・カーター、ジョー・ビデン他、この約2年間、毎日色々な人達からメールが送信されてきた。メールの内容は、最終的には「3ドル以上の寄付」の依頼だ。政治に関係のない老婆でも、何だか1回くらいは「3ドルの寄付」をしたいと思い、色々やってみたが、寄付はUSシチズンでなければできないようだ。以下のような規則がある。

I am a U.S. citizen or lawfully admitted permanent resident (i.e., green card holder).

 ただ、寄付の件以外にも、毎回受信するメールの内容には興味をそそられた。第1回目のオバマ大統領家族の昔の写真入り新年挨拶から始まり、今日は2016年11月5日だ。どの受信メールも保存しておこうと思っている。何故なら、3ドルの寄付依頼と一緒に受信する心のこもったメールの内容に、老婆は大変興味をひかれたのだ。メールは逐一保存しているので読み返しが可能である。もし、トランプ氏が送信してきたとしても、心を打つメールなら同じように保存しただろう。「一番大事なものに、一番大事ないのちをかけて、世界中を平和にしてほしいよねぇ」。そんな政治が欲しい。

 またこんな話も。300人以上の学生と多くの市民が集まりました。ウルグアイの前大統領、ホセ・ムヒカ氏の講演を聞くためです。ホセ・ムヒカ前大統領は、その質素な暮らしぶりから「世界で一番貧しい大統領」として知られ、2012年にブラジルのリオで行われた国連会議でのスピーチでは、「世界が抱える諸問題の根源は、我々の生き方そのものにある」と説いて、世界にその名が知られるようになった。ふっと老婆は、こんな政治家のニュースを思い出した。

 洋子先生も「ホセ・ムヒカ前大統領」を思い出し、「同感!」とニッコリ笑って下さっている気がする。「会いたいなぁー」

許 澄子

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。