2017年3月9日 第10号

 朝からまた雪だ。バンクーバーなのに、この冬本当に雪がよく降るなぁ。暖か〜い家の中から、深々と庭に降る雪を眺めるのは好きだ。けれど何故か今日は妙に淋しい。ソファーに横になり、昨日、日本から届いた本『九十歳。 何がめでたい(佐藤愛子著)』を読み始めるが先に進まない。お湯を沸かし、コーヒーを入れ飲み始めるが淋しい。この本の送り主であり、私の大尊敬する93歳の山下栄一元大学教授は、昨年訪日した時、三河安城駅までご自身で車を運転し迎えに来て下さった。今、私は78歳、…元気がないなぁ。

 でも元気だったころの思い出はある。昔、香港の啓徳空港で航空会社のスペシャル・ハンドリング・レセプショニストの職に就いていたことがあった。仕事はVIPや手伝いの必要な乗客の世話係だ。当時の飛行機はとても高価な乗り物で、誰でもすいすいと乗れたわけではなかった。まあお金さえあれば別だけど。乗客はそれなりの経済力のある人達で、それなりのサービスが要求され、スッタフもまあそれなりに高給取り。仕事は、「VIP乗客連絡」を他のステーションやセールスからテレックスで受け、到着便を待つことから始まる。

 ある時、KFCの髭のお爺さん・カーネル・サンダースが来た。わー、看板そのまま!、髭も白い服も笑顔までも。ただ、杖をついて歩く、まあ堂々とした小柄な人だった。

 ジェーン・ラッセル(マリリン・モンローと仲良しのセクシー派女優で、2011年2月28日、カリフォルニア州サンタマリアの自宅にて、89歳で死去)は、映画で見るような美貌や肉体美もなく普通の人だった。

 またある時、マーロン・ブランドが来た! この時は、もう自分の仕事にはならなかった。大勢の人が彼を取り巻き空港中が沸き立ち、仕事後、インシデント・リポートの提出もできなかった。

 それから、三島由紀夫。私の描いたイメージでは筋肉もりもりの強そうな男性だったから驚いた!とにかく、彼の小柄なこと、本当に背が低い小さな人だった。それになんと派手なこと!真っ白な探検隊員の服を着て、これまた真っ白な布製ヘルメットを被っている。でもねぇ、さすがにそれが形になっていた。彼も啓徳空港では短時間の飛行機乗り継ぎだった。

 そして兼高かおるさん。1時間くらいの待ち合わせ時間のお手伝い、といってもおしゃべりしただけ。覚えているのは当時外国で働く日本人女性は少なかったから、質問攻めにあった。でも偉そうにしない、素朴で優しい素敵な方だった。

 他には加山雄三さん。本当に今流に言えばイケメン。しかし、彼もまた小柄なのだ。

 もっと驚いたのは、先代若乃花。彼も相撲取りの一般イメージと違って小柄であったが、小柄なのに強い相撲取りなのがすごーい! と、尊敬の念で胸がいっぱいになったのを覚えている。

 髭の殿下、三笠宮寛仁親王(この場合、航空会社職員は領事館の挨拶係の世話役をする)も。

 もっといろいろな人と出会っているが、もう名前も忘れ、「ああ、あの人!あの人よ、名前が出てこないの〜」と叫ぶばかりだ。

 まあいいかぁ、78歳だものね。

許 澄子

 

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