2018年10月11日 第41号

 つい最近だったと思う、その方が亡くなられたのは。でも老婆にはずっと昔に起きたことのように感じられた。多分、あまり会う機会のない人だったからだろうか。ともかく、その方が発起人で商工会は発足した。最初から老婆は入会希望だったが、「うーん、アンタぁ、入会資格はないんじゃないのー」と友人にいわれ「そうか、私は入会資格がないのだ」と理由も考えずあきらめていたのは随分前のことだった。あるイベントに行ったら、それが商工会主催だった。そこで数人の友人に出会い、老婆が入会希望だと言ったら、「入会可」と言われ「問題なく入会」できた。確かに会員の皆はそれぞれしっかりした職を持ち、各所で指導的立場の人も多く、老婆が個人的に尊敬している方も数多く会員になっていた。なんとなく厳しい感じがあったが、確かに学ぶことの多い会だと認識できた。

 そして、昨晩のことだった。えっー? これが同じ会?だってぇ、会場の入り口から中に入って、会が始まり、終わり、黙祷、乾杯、講演と続き食事会、その間、皆とさよならを言うその瞬間まで100%笑顔の集まりだった。

 何か以前と違っていた気がする。理由はわからない、ただそこにはあの方が亡くなられた後、それを引き継ぐ皆の心が以前と違ったまとまりを見せ、あんな素晴らしい明るさで新しい出発を見せたのだろうか? 老婆にはそんな気がした。先がとても楽しみだ「新しい出発」。

 2016年9月、古川夏好さんはここバンクーバーで殺害された。そして、2018年9月24日最終裁判が開始された。

 食事会中、9月19日夏好ちゃんの母、恵美子さんが日本から来たとテーブルで話す。すると「今日テレビで報道されていた」とリトンさんが言った。そして、思い出すのは昨年、そのリトンさんの浴衣着付けで、日系祭りの盆踊りに涙ながら参加できたと喜んだ恵美子さん。実は夏好ちゃんが亡くなる数日前にこの日系祭りを楽しんでいたからだ。夏好ちゃん記念写真撮影場所へ堀田さんに案内され行った恵美子さんも娘をしのび撮影していた。今回、恵美子さんは数日老婆の家に泊まり、「この椅子に夏好が座ったのよねぇ。」など話し、まもなくダウンタウンへ越して行った。老婆にとっては久しぶりで会う姉妹のようだった。

 商工会の食事会を終え帰宅し、メールを開けると恵美子さんからメールがきていた。

 

澄子さま

朝10時からの裁判で家に帰ってきたのが、18時過ぎでした。既にメディアが動いていて、澄子さんも新聞やテレビなどの報道で裁判の内容を知っているかもしれませんね。Jayや朋子さんから大丈夫かと連絡をもらっていますが、私は覚悟していたので、何とか家にいます。でも、頭の中が混乱しているので、ひとりで静かに気持ちの整理をしていたいと思います。整理できたらご報告できると思います。

惠美子

 

 ここに書かれたJayとは、夏好ちゃんと大の仲良し、言ってみれば彼女の『ボーイフレンド』、朋子さんは青森出身で、夏好ちゃんの行方不明を知って見ず知らずの関係でありながら行方探しのボランティアとなり、その後も恵美子さんの心の支えになっている新しい友人だ。

 

2017年9月28日 第39号

 「えーっ、6人の子供!? 男の子が5人で、女の子が1人!本当に1人の母親で?」 …「そうなんですよ」。その6人の子供の母・恵美子さんと夫、家族全員は自然環境の中で子供たちを教育するため、青森市内から八甲田山中の村へ引っ越した。子供たちは山間の小さな学校に通ったが、中学を卒業すると弘前の高校へ通学するために山を下り、町で自炊生活を始めた。八甲田山の村では、学校を中心として村全体が家族のようだ。そうした村人たちの温かいぬくもりと、恵まれた大自然の中で子供たちは育てられた、と母親の恵美子さんは老婆に話した。大自然の中で弟たちの世話をしながら、村の子供たちと一緒にのびのび育った夏好さんがカナダへ来たのは2016年5月。そして下宿探しに老婆を訪ねてきたのは5月27日だった。

 老婆はメディアが報道してきた夏好ちゃんのことは知らない。ただ、興味本位でどんなに悪意の報道があったか、日本で恵美子さんや息子さんが、今もって精神的に辛い思いをされていることを聞かされている。また、聞かされなくても想像はできる。ただ、老婆の思いはこのVancouverの数知れない優しい人たちの、彼らに対する思いやりのすばらしさなのだ。どんなに悪い報道でもそれに関係なく、悲しみのどん底にある夏好ちゃん家族に、彼女の他界後2年経った今も変わりなく手を貸し、思いを分かち合える多くの人たちがいるすばらしさ。

 裁判に付き添うハイディ浜野さん、日本へ出張中でありながら、裁判中は日本から証人の電話を続けるユウスケ、Vancouverのセキュリティー(パシフィックセンターモール)のクリス、帰国後もメールで励ます小茂田さん、また盛和会の吉武夫妻と諸メンバー、櫻楓会の会長と諸氏、日系センターの諸氏、同じ娘を亡くした悲しみを理解し合える新報の津田さん、仏教教会と老婆の知らないところで、どのくらい多くのバンクーバー日系社会の人達からの同情と理解と協力が続いているのだろう。

 夏好ちゃん他界、その1年前にご主人を亡くされている、恵美子さんの心労は誰でも理解できる。こんな老婆の友達になってくれた優しい夏好ちゃん、その本当の姿をなぜ報道してくれないのか情けない。そんな思いと、今日のあの明るい集まり「商工会」を思い出しながら、様々の思いを胸に、そして床についた老婆…。おやすみなさい。

許 澄子

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。