2019年4月11日 第15号

 13歳、その少女はある夏休み学校の皆と一緒に白樺湖へキャンプに行った。お天気の良い日だった。皆と一緒にキャンプ場へ着き、それぞれがそれぞれに遊び始めた。その少女は湖でなく、さっき到着したばかりの草軽電鉄の駅に戻って行った。目的はただ一人ぶらぶらしたかっただけだ。多分、そこが終点駅だったからかもしれない。駅といっても何があるわけではない。ただ、電車が止まっているだけだ。少女は線路を超えて駅の反対側に出た。そこは浅間山のふもとのちょうど「鬼押し出し」のようで黒い噴火石が思い切り広がっている。しかし、なぜか「あやめケ原」という名の高原だった。少女はさらにその辺を一人で歩き回っていた。ふっと見るとそこに大きな立て看板がある「あやめケ原 分譲地一坪50円」少女はそこに立ち止まり、ちょっと何か考えていたようだが、それからさっさとキャンプ場へ戻って行った。

   数日後、少女は東京へ帰った。帰宅するとすぐに母親に言った。「お母さん、軽井沢に土地買わない? 白樺湖に近い所『あやめケ原』っていうのだけれど、一坪50円なの。私の全小遣い合わせると3500円あるの、70坪買えるのよ。お母さんが1万円出したら、200坪でしょう、二人で270坪買ったらいいと思わない?」少女は真剣に母親に交渉した…が、母親は「何ですか、あんた子供のくせにそんなこと言って!」と全く取り合ってくれなかった。  

 その少女の家は家族親戚全員東京生まれの東京育ち。夏休みになると小学校の少女の妹弟の友達はそろって田舎へ遊びに行く。しかし、彼女の家族はどこも夏休みに行けるところがない。あれからもうすでに2年たっていた。早くに夫を亡くし、自分でビジネスをしながら4人の子供を一生懸命育てているその少女の母親が、ふっと考え、軽井沢にサマーハウスを建てようと決心する。当時、西武百貨店のすぐ近くに住んでいたから、西武不動産に相談に行った。言われた値段がなんと数百万円だった。少女の母親が「2年前に白樺湖のあやめケ原が坪50円だったと娘が言っていたのに、どうしてそんなに高いのか?」と聞くと、答えは「その時、お買いになっていたらよかったですねぇ」  

 しかし、とにかく、少女の母親は軽井沢にサマーハウスを建てた。それから半世紀以上、まだその家は現存して、3代目が時々使っている。

 少女の母親が「白樺湖の例の土地が数百万円になった。」その話を最初にした時、少女は既に15〜16歳だった。母親とも、年齢とも、関係なく、その少女の夢は果てしなくビジネスにつながっていく。ここバンクーバーに彼女が来て、ビジネスをし、銀行から多額の借金ができた時、母親は言った。「あんた、やっと一人前になったねぇ」。そこにいたるまで、母親は「ああでもない。」「こうでもない。」とスモールビジネスを教えてくれた。そして「あんたが男だったらねぇ」と二言目にはつぶやくのだった。少女は成長し、結婚し、夫になった人との共通の趣味はビジネスと食べもの、まるで一つのゲームのようだった。母親も夫も今はもういない。そして、その少女は今ひとりごとを書く80歳の老婆。  

 ああでもない、こうでもないといろいろ楽しくビジネスをやったり、世界中飛び回る飛行機会社で働いたり、何十カ国の人達と一緒に働き、多くの国を訪ね、数えきれない思い出を抱え、生きてきたこの人生、感謝と喜びで胸がいっぱいだ。老婆の信じる占い師にいわせると寿命は82〜83歳と言った。当たるも八卦、当たらぬも八卦。  

許 澄子

 

 

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