2017年8月24日 第34号

 バンクーバーの町って本当に素晴らしい。カナダ建国150周年記念の7月1日には、美しい山と街の明かりに囲まれる港で花火大会だ。その日、老婆は18歳になった孫の理雄とデートの約束をしたが待ちぼうけ、彼は来ない。孫に振られた老婆。「まあいいかぁ、18歳だ。もう友達の方が老婆よりいいよね」。とにかく花火は一人で観た。それは綺麗だったぁ。  

 そして、今日はもう7月27日、老婆が毎年楽しみにしている「VMO」の野外演奏会。あの花火を観た場所である。「VMO」とは「バンクーバー・メトロポリタン・オーケーストラ」の略だ。「VSO」はバンクーバー・シンフォニー・オーケーストラ、ついでに「VO」は多分バンクーバー・オペラの略かしら?

 老婆は毎年このVMO野外演奏会に行く。美しいピンクの大空の下、夕日を浴びながらの演奏会はもう世界中の人に観て聴いてほしかった。そして、その風景にぴったりの壮大な選曲でうっとりする演奏。オペラ、アイーダから凱旋行進曲、スターウォーズやスーパーマン行進曲など「おー!」というような曲ばかり。

 またあの場所だから観客の気持ちもグーンと大きくなる。この野外演奏会に行くもう一つの楽しみは、いろいろな人に会えること。今日もまずパールさん(指揮者ケン・シェ氏の母親)に予約席に案内され、隣席にはウエストバンクーバーのホームコンサートを行う「Tさん」ご夫妻(ご自宅にグランドピアノが2台並んでいて、初めての訪問時に老婆はビックリ!)、そして、さらに驚いたのはその横にいた黄色いTシャツの白人紳士だ。遅れて席に着いた私に、あふれるばかりの笑顔で挨拶。誰だか思い出せない。休憩時間になって、改めてよーくお顔を拝見。「わかった!VSOのChair、Board of Director(日本語でどう訳すかねぇ…)!」。VSOプログラムの最初のページには、1年中彼の挨拶が写真入りで掲載されている。多分VSOの一番偉い人みたい。VSO演奏会や夕食会で会う時に、いつも優しい笑顔、バリッとした背広にネクタイ、スラーっと背が高くスマートな彼なのです。それが野外コンサートで黄色のTシャツに半ズボン、いつもの笑顔でも、老婆にはちょっと誰だか分かりませんでしたよ。そして若い友達が野球帽をかぶって声をかけてくれ、ゴルフのKちゃんも背中をポンとたたいてくれました。私の好きな「笑顔紳士」ご夫妻、日本語専門家Y先生もいた!そうそう、先日、女性企業家の集まりでお会いしたばかりの総領事ご夫妻もかっこいい!黒いつば広帽子で、おしゃれな出で立ちで前方VIP席にいらしていた。観客は多分、軽ーく4、5千人?…それ以上だろうか。凄い観客数だ。  

 VMOは若いプロフェッショナルの音楽家たちに演奏経験の場を与え、世界中で活躍できるようにと設立された。毎年、米国はじめ多国の交響楽団に数名が採用されていく。一生かけて一つの楽器の演奏者となり、仕事に恵まれない音楽家もいるわけですものねぇ。バンクーバーだけではなく、いろいろな所へ、特に北米全体のコンサートやオペラにも老婆は一人で行く。

 舞台を観ると、ステージに立っている(いや、座っている)演奏家たちには白髪頭が多いねぇ。例えば、このステージの楽団員が5、6歳、遅くても10歳くらいで楽器を習い始め、少なくとも1日3時間の練習を365日して、年間1095時間。その人が現在50歳代とすると5万4750時間。舞台上の演奏者は75人、それを全部かけるとなんと383万2500時間の「時間と努力と才能の結果」、つまり今、老婆は383万2500時間の結晶である演奏を楽しんでいる。ある時それがしみじみ凄い!と思いVSOの責任者に、ぼっそりとこの数字の話をしたら、彼は「観客が皆、澄子みたいだったらうれしい」と言った。

 老婆は演奏会で自分に言って聞かせてみる。383万2500時間の結晶を楽しんでいる幸せな自分なのだって。すると、すべてが感謝に繋がる。「ありがとう!」

許 澄子

 

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