2016年7月28日 第31号

 「子供たちにプレイハウスを作ってあげたいんだけど」。ある日突然近所のオジサンが玄関のドアをノックするなりそう言った。オタワに引っ越して2年となるが、この方とは挨拶程度で名前すら知らない。いつもニコニコして感じのいい人だという印象はあった。プレイハウスを作るのにぴったりの木もツールもあるので、暇な日に我が家の裏庭に来て勝手に作っておくという。

 数日後、別の隣人がやってきた。引っ越すことになったので、彼女の庭にある巨大なトランポリンを譲りたいという。我が子を含め近所中の子供たちが憧れる高価なトランポリンということは知っていたので、買い取ると申し出たら、プレゼントするという。またガーデニングを趣味とする年配夫婦は、花や植物がたくさん余っているので分けたいと言ってきてくれた。

 隣人たちからの予期せぬ親切に私の心はグッと温まる。まったく見返りなんて期待していないのはその言葉の端々から理解できる。ただ単に私たちのことを思ってくれたようだ。そして私は自問自答する。挨拶を交わす程度の隣人に対し何か特別なことをしたことなんてあっただろうか?

 困っている人がいるならば具体的な親切の手を差し伸べる。それは以前原作を担当した「姑は外国人」で自分への反省点として綴った。でも別に困っている人だけじゃなくてもいい。挨拶程度の隣人にだって自分の心に余裕があるときに突然幸せを届けるのって素敵なことだと思う。必要なのはちょっとした勇気。

 そして、こないだ珍しくパブロバが上手に焼けた。今回はいつもお裾分けしている友達ではなく、思い切って挨拶程度のご近所さんに配ってみた。退職したばかりのご夫婦に、子犬を毎日のように見せてくれるお兄さん、そしてお料理の話でたまに盛り上がる家の前の女性。彼らのびっくりした大きな笑顔に、私や子供たちの心は踊る。正直、口に合わなかったらどうしようと不安はいっぱい。でも「要は気持ち!」と自分に言い聞かせる。

 今、我が家の周りでは幸せの連鎖が起きている。

 

プレイハウスを作ってくれた近所のオジサン(右)

 

 

■小倉マコ プロフィール
カナダ在住ライター。新聞記者を始め、コミックエッセイ「姑は外国人」(角川書店)で原作も担当。 
ブログ: http://makoogura.blog.fc2.com 

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