2018年11月15日 第46号

 今年は何度か一般向けの健康セミナーでお話する機会を頂き、コラムの読者の方々に顔を合わてご挨拶させて頂きました。「いつもコラムを読んでいます!」と声をかけてくださった皆様には心から感謝申し上げます。また、「佐藤さんて、思ったより若いんですね!」とお褒めの言葉も頂きましたが、そんな私もつい最近一つ歳を重ね、間違いなく「おっさん」に向けて一直線の今日この頃です。おっさん化を認めざるを得ないのは、少しずつ体に変化が出てきたからで、その一つが水虫です。罹患する年齢と性別の偏りから「おっさんの疾患」だと思っていた水虫に、今年の夏頃から悩まされてきました。

 俗に「水虫」と呼ばれる皮膚疾患は、医学的には「足白癬」と呼ばれます。白癬菌はケラチンという蛋白質を栄養源に生きているカビのことで、この白癬菌が足に付着して感染すると足白癬になります。しかし白癬菌はケラチンが多く存在する場所であればどこにでも感染し、股にできれば股部白癬(インキンタムシ)、股以外の体に生じた白癬は体部白癬(ゼニタムシ)と言われます。「ムシ」がつく名前ばかりで、聞いているだけでも、なんだか痒い感じがしますよね。

 水虫は、症状によっていくつかの型に分類されていますが、足の裏に小さな水膨れができて水膨れが破れて皮が剥けるタイプ、足の指の間の皮が剥けて白くふやけるタイプ、またヒビやアカギレのように足の裏全体が硬くなるタイプがあります。「足の指の間や足の裏がかゆい」、「足の指の間がふやけて白くなったり、ジュクジュクする」、「足の指の間や足の裏の皮が剥ける」、「足の裏に小さい水疱ができる」といった症状が現れ、秋になると自然に治るという季節性が見られる場合、水虫の可能性が高いといえます。

 医学英語で水虫は「tinea pedis」ですが、“Athlete foot”という呼び名が一般的な呼び名として浸透しています。しかし、たとえアスリートでなくても、世の中の働く男性が1日革靴を履いて過ごすことで、足にカビの繁殖しやすい環境ができるのと同様に、最近では働く女性も皮靴を履いて1日を過ごしていますので、若い女性の間でも水虫が増えていると言われています。

 水虫は塗り薬で治療が可能です。塗り薬のほとんどが医師の処方せんを必要としない市販薬として販売されており、Clotrimazole(商品名Canestan)のクリームが最もよく使われますが、miconazole(商品名Micatin)やTolnaftate (商品名Tinactin)はクリーム剤の他に、スプレー剤も販売されており、これらは使い勝手の良さから人気があります。また処方せん薬としてterbinafine(商品名Lamisil)という薬がありますが、感染箇所のかゆみ状態によっては、副腎皮質ホルモン(通称ステロイド)の塗り薬が処方されることもあります。

 通常、外用薬による治療を開始してから2〜3週間程度で症状が改善してきますが、この段階では、皮膚の奥の角質層の菌が完全に死滅するわけではありません。角質層に潜む菌を取り除くためにはさらに1〜2カ月にわたり、薬の塗布を続ける必要があります。とくに足の裏など角質層が厚い部分では半年以上続けないと完治しないことがあります。水虫治療の外用薬は、長期にわたり使用するものと覚えておいてください。

 最後に、水虫にならないためには、足を蒸らさない工夫が必要です。靴・靴下を履く場合は、できるだけ通気性の良いものを選び、仕事以外では靴をはき続けないようにします。また、足を毎日よく洗い、その後しっかりと乾燥させることで清潔に保ちましょう。スリッパやサンダル、足ふきのマットの共用を避けることも大切です。

 私の話に戻りますが、夏前から毎日clotrimazoleのクリームを塗り続け、秋になってようやく症状が治まりました。季節性は水虫の特徴でしたね。根治のためには長期使用が大切ですから、今でもクリームは毎日塗っています。予防に関しては、言うは易く行うは難し。仕事では1日8時間は革靴を履き、時には子供と公共のプールに行ったりすれば、常に感染リスクが伴います。毎日入浴時に足をよく洗い、ドライヤーで乾燥させています。できる限りのことをするしかありませんね。皆様におかれましても、このようなちょっとした知識を身につけることで、効果的な水虫予防・治療につなげて頂けると幸いです。まさか自分が?と思っていても、簡単にかかってしまうものですから。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。