2016年9月15日 第38号
私の娘は2才を過ぎたのを区切りに、トイレトレーニングを始めました。結構やる気があるようで、尿意を催している様子があるときや、寝る前などに「トイレに行ってみる?」と聞くと、自分からトイレに猛ダッシュ。最近きちんとトイレでオシッコできる回数が増えてきました。大人になると、このような排尿に関する話題を公にすることはなくなりますが、実は意外と多くの人が排尿に関する悩みを抱えていることをご存知ですか?今日は「過活動膀胱」のお話です。
過活動膀胱とは、自分の意思とは関係なく膀胱が勝手に収縮してしまう病気のことで、「急に我慢できないような尿意が起こる」(尿意切迫感)、「トイレが近い」(頻尿)、「夜中に何度もトイレに起きる」(夜間頻尿)、「急にトイレに行きたくなり、我慢ができず尿が漏れてしまうことがある」(切迫性尿失禁)といった症状を示します。ただし、頻尿や尿失禁があるからといって、かならずしも過活動膀胱であるとは限りませんし、尿路感染症や前立腺肥大による頻尿とは区別されます。血尿、膀胱近辺に感じる痛み、体重減少、前立腺の痛み等の症状が見られる場合には、過活動膀胱以外の疾患が関連している可能性がありますから、できるだけ早く医師の診察を受ける必要があります。
過活動膀胱の治療の第一歩は、ライフスタイルの改善です。お茶・コーヒーのような利尿作用を持つカフェイン含有飲料の減量はもとより、骨盤底筋体操(Kegel excercise)という尿道を締める骨盤底筋の収縮力を高める訓練、また尿意を催した時にあえて一定時間我慢して膀胱の保持できる尿量を増やす膀胱訓練といった方法がとられます。どのくらいの間隔で、どのくらいの量を排尿しているのかを把握するために、毎日、排尿日誌(Bladder diaries)をつけると、排尿の傾向と訓練の効果が分かります。
しかし、ライフスタイルの改善だけでは効果が不十分な場合、薬物治療も合わせて行われます。作用機序に基づいて、「抗コリン薬」または「β3アドレナリン受容体作動薬」というグループの薬が用いられます。 抗コリン薬は、膀胱を収縮させる副交感神経の働きをおさえ、またカルシウム拮抗作用により膀胱の平滑筋を直接ゆるめます。これらの作用により尿がためやすくなり、また膀胱のむやみな収縮がおさえられます。抗コリン薬の代表的な成分はoxybutyninで、この商品名にはDitropan(内服)、Ditropan XL(内服)、Gelnique(ゲル剤)、Oxytrol(貼付剤)があります。この他にも、tolterodine(商品名Detrol、Detrol LA)、fesoterodine(商品名Toviaz)、trospium(商品名Trosec)、darifenacin(商品名Enablex)、solifenacin(Vesicare)。このようにいくつもの薬が販売されていますが、効果はどれも同程度です。抗コリン薬に共通する副作用として便秘、口渇、残尿、目の調節障害などがありますが、その程度は薬や剤形によって異なります。医師に相談して薬を変えてもらうことで、副作用を軽減できることがあります。また、相互作用として、抗コリン作用をもつ他の薬といっしょに飲むと副作用が増強される薬があります。例えば、ある種の抗精神病薬(フェノチアジン系・ブチロフェノン系)や抗うつ薬(三環系)、抗パーキンソン薬(抗コリン薬)、抗不整脈薬(ジソピラミド)、胃腸薬(抗コリン薬)、カゼ薬・鼻炎薬・かゆみ止め(抗ヒスタミン薬)などとの併用には注意が必要です。薬局薬剤師にひとこと相談してください。
β3アドレナリン受容体作動薬とは、抗コリン薬とは異なる新しい作用をもつ過活動膀胱治療薬です。膀胱の平滑筋にあるβ3アドレナリン受容体を選択的に刺激し、膀胱の弛緩を促進します。これにより、膀胱容量を増大させ、蓄尿機能を高めます。抗コリン薬と同等ないしそれ以上の効果が期待でき、また口渇や便秘を起こしにくく、心血管系への影響も少ないと考えられています。
以上のように、過活動膀胱は治療薬の選択肢が多い疾患で、症状が改善することで生活の質を上げることが可能です。症状に心あたりのあるかたは、ためらうことなく、かかりつけの医師に相談してみましょう。
佐藤厚
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。