2019年9月19日 第38号

 9月の声を聞き、しばらく続いた小春日和。その後、朝晩冷え込むようになったなあと思っていたら、雨が降り始めました。これから日が短くなるにつれ、雨の日が多くなります。この時期、バンクーバー地域では、典型的な天候のパターンでしょう。

 日が短い冬になると、日照時間と深く関係があるといわれている「冬季うつ病」を発症する人が増えてきます。「冬季うつ病」は、「季節性情動障害」のひとつで、北欧地域やカナダなど、日照時間が短い地域で、特に女性に比較的多いとされています。ところが、認知症の高齢者が「冬季うつ病」になると、「うつ」による認知能力が低下することにより、認知症が進む場合があるといわれています。

 「冬季うつ病」は、日照時間と深い関わりがあると考えられています。冬場に浴びる太陽光の量が減ることにより、脳内ホルモン「セロトニン」の分泌量が減り、起こるとされています。症状の改善のために、医師から「1日1、2時間、日光を充分に浴びること」という処方や、人工的な光を浴びる「高照度光照射療法(光療法)」が一般的な治療方法です。

 「冬季うつ病」の症状は、秋口に悪化し、春が来ると改善するというパターンを繰り返し、10月から3月が発症しやすい時期です。この状況が2年以上続くと、「冬季うつ病」という診断が下されます。また、食欲が低下する通常の「うつ病」とは異なり、「冬季うつ病」では食欲が増進します。中でも炭水化物を欲するようになるため、体重が増えることが多いのもその特徴です。心理的原因となる出来事や、ライフイベントのような明らかな原因はありません。認知症の高齢者がこの「冬季うつ病」になると、「うつ」による認知機能の低下により、認知症の症状が悪化する場合があるといわれています。

 もうひとつ、認知症と繋がりのある「うつ」が「老人性うつ」です。65歳以上の高齢者が発症した「うつ」を一般的に「老人性うつ」と呼びます。その原因として、何かを失う「喪失体験」が引き金になることが多いとされています。配偶者や家族との死別に限らず、自分自身の定年退職や子どもの独立などの環境的要因、および加齢による身体機能の衰えにより、できることが少なくなるなどの心理的要因なども含まれます。

 現れる症状には、頭痛やめまい、肩こり、吐き気、耳鳴りやしびれなどの不調や、食欲不振を訴える人が多く、不安や焦燥感、落ち着きの欠如、趣味などへの無関心などが見られます。その症状として、心理的な辛さを訴えることは少なく、身体的な不調や食欲不振などを訴える人が多いのが特徴です。そのため、身体に出る症状から別の病気を疑い、内科や外科を受診しても、特に問題が見つからないまま症状が改善しない場合も少なくありません。落ち着きの欠如や趣味などへの無関心から、認知症と間違えられるほど、症状に共通点があります。それだけでなく、認知機能障害が目立つ「老人性うつ」に認知症との関連があることが、近年の研究でわかってきています。

 例えば、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症では、いずれも抑うつ症状が見られ、うつ病を合併している場合は少なくないとされています。しかし、「うつ病」は、何らかの原因が引き金になり発症し、本人も周囲の人も気付きやすいのに対し、認知症は徐々に症状が現れ、本人も周囲の人も気付きにくいという明らかな違いがあります。

 未だ治療薬のない認知症とは違い、「うつ病」は適切な治療をすれば治ることが多い病気です。しかし、何もせずに放置しておけば、認知症に進む可能性があります。「身体の不調を訴えるものの、いろいろな検査をしてもどこにも異常が見つからない」、「口数が少なくなった」、「趣味に関心を示さなくなった」などのサインを、周囲の人が見逃さないことが肝心です。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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