2019年2月7日 第6号

 ある日、実家で一人暮らしをしているお母さんから電話がかかってきます。話を聞くと、銀行のATMでお金を下ろそうとしたところ、キャッシュカードの暗証番号が思い出せないため、お金を下ろすことができませんでした。そこで、困って電話をしてきたというのです。思いついた数字を何度か試してもどれもダメなうえ、暗証番号はどこにも書き留めていません。

 このように、暗証番号を忘れてしまった場合、預金者本人が最寄りの支店窓口まで出向き、暗証番号の再登録をします。預金者名義の口座の通帳、届出印、キャッシュカード、本人確認書類(運転免許証、旅券等)を持参し、手続きを行います。

 皆さんもご存知の通り、金融機関では、基本的に預金者本人以外、預金口座に関する手続きはできません。たとえ本人の子どもであっても、親の口座からお金は引き落とせません。しかし、病院に入院中、寝たきり、あるいは認知症の診断を受けている親のために、医療費や介護費用としてお金が必要になり、親の口座にアクセスする必要がでてくる場合があります。このような場合、全く方法がないわけではありません。

 口座を持つ預金者以外の第三者からの「払戻請求」については、「引き出しの目的」、「本人と来店者の間柄」、「当該口座の通常の管理状況」などを確認し、それぞれの事情を考慮した上で、個別に対応しているようです。日本で実際に手続きをする際に必要なのは、まず、預金者名義の口座の通帳、届出印、キャッシュカード。その他に、医師からの診断書、 要介護認定証、親子関係を証明する書類(住民票や戸籍謄本等)の他に、お金が必要な理由を記述した文書も用意しておくと、手続きがスムーズになるでしょう。また、地域密着型の金融機関であれば、長く取り引きがあり、顔馴染みということが多く、これらの書類の準備がなくても、引き出せることもあるようです。

 他にも、本人の同意を得た上で委任状を持参することで、親の代理人として手続きができる場合もあります。ただし、認知症の診断を受けている場合など、本人に正しい判断能力がないと見なされると、委任状での対応は難しくなります。代理人が預金を引き出す条件は、金融機関によって異なるため、詳細については各機関で確認する必要があります。

 キャッシュカードと暗証番号があれば、本人の同意の元に、ATMで預金を引き出すことはできます。ただし、意識不明などで本人の意思が確認できない場合や、認知症が進み、判断能力がないと見なされ、同意が求められない場合、家族であっても、預金の引き出しは法律上できません。暗証番号がわかっていても、本人の同意なしに引き出してしまうと、 窃盗罪または横領罪が成立する可能性があります。いずれの場合も、本人の同意がなければ、家族を含め、本人以外が簡単に預金を引き落とすことはできません。

 将来、予想される、預金についての相続時のトラブルを避けるために、親が元気なうちに、親に代わって自分が親の生活費を毎月おろすということを明言した公証文書を作っておくという方法もあります。また、引き落とした際の記録も残しておくと、その裏付けとなり、揉め事を防ぐことができるでしょう。

 暗証番号については、銀行などの金融機関だけでなく、ネットショッピングの口座や、オンライン版の出版物等の定期購読に必要な暗証番号およびIDなども把握できていると、もしもの時に備えることができます。

 また、ソーシャルメディアを利用している場合、アカウントを使わなくなった時に備え、アカウント情報を把握しておくに越したことはありません。ただし、そのアカウントを閉じる必要があっても、元々は自分のアカウントではないため、勝手にログインはできません。ログインしてしまうと、ウェブサイトの利用規約違反どころでは済まなくなる可能性があります。この件については、また後日、お話しします。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。