2018年11月22日 第47号

 人の名前が出てこない、財布をどこに置いたか思い出せない、知っているはずの漢字が書けなくなった…。最近、なんだか物忘れがひどくなったと感じていませんか?  

 物忘れが心配になったときに受診するのが、「物忘れ外来」。専門的な診断が受けられる診療科で、日本では、近年、その数が急増しています。岐阜県にある「物忘れ外来」もそのひとつで、そこには、日本全国各地からたくさんの人がやってきます。大脳心理検査、MRI検査などや、問診、診察などをもとに物忘れの原因を突き止めます。そこでは診断のために、認知症の物忘れを見分けるための3つのテストを行っています。「物忘れ外来」を取材した番組で、そこで実際に行われている、認知機能の障害の兆候を見分けるポイントを特集していました。

 まず、記憶の問題で生活に支障が出たことはあるかという質問で始まり、物忘れの内容を確認します。その後、さらに問診が進み、重要な質問に入ります。

 まず、1つ目は、「最近のニュースを覚えているか」。加齢でなく、認知機能に障害がある物忘れの場合、つい最近見聞きしたことや体験したことを覚えられない傾向が強くなります。ニュースの内容を覚えていないうえ、覚えていないことについて言い訳や取り繕いをするだけでなく、話題を逸らそうとするようであれば、加齢による物忘れというよりも認知症の物忘れの可能性が考えられます。

 その特集ビデオは、オリンピックが終わった頃に放送された番組のようで、「オリンピックで活躍した選手について、印象に残っているエピソードをひとつ教えてください」という質問をしています。その質問の意図は、認知症の記憶障害の特徴である「近時記憶」、つまり、つい最近のことを記憶しているかどうかを確認することにあります。この質問に答えられない場合、忘れてしまって答えられないだけでなく、それをどのように取り繕うかがポイントになります。認知障害がある場合、自分の記憶に問題がないことをアピールしようとします。例えば、先ほどのような質問には、自分はスポーツには興味がないとか、最近テレビは観ないとか、しばらく前からテレビが壊れているなど、質問に答えられないことを取り繕おうする言動があると、認知症がすでに進んでいる可能性があります。

 2つ目のポイントは、「手でキツネやハトの形を正しく真似できるか」。これは、医師が作る手影絵のキツネやハトの形を真似するだけのものですが、簡単なようで、実は認知症の早期発見の重要なポイントです。認知症になると、目で見た物の位置、形、方向などを認識する能力が衰えます。自分と外との位置関係を認識することが難しくなり、人が作った簡単な手の形を正しく真似できなくなります。実際に診療に来た人が真似しようとしますが、思うようにいきません。特にハトの形は、両手を合わせるところから戸惑ってしまいます。

 3つ目は、「簡単な引き算を連続してできるか」。計算そのものは簡単で、100から7を引いた数を答え、その答えから、もう一度、7を引き、その数を答えます。この暗算を何回か繰り返し、その都度、計算で出てきた数字を暗唱します。これは、「シリアルセブン」と呼ばれる計算で、単なる計算問題ではありません。100から7を引いたら93。では、93から7を引くといくつか、と質問するのでは、計算力を見ることにしかなりません。引き算の答えを保持し、さらにその答えから引き算をするという、2つの作業を継続してできるかどうかを見るためのもので、同席している人が手助けしては意味がありません。この計算は、認知症診断に使われる、MMSE(Mini Mental State Examination、精神状態短時間検査、通称ミニメンタル)の問題のひとつでもあります。

 こうしてみると、少し気にしていれば、専門医でなくても気付けそうなポイントです。自分自身だけでなく、家族や友人に、もしかしたらという兆候があったら、認知症の早期発見のためにも、医師の受診を勧めてみてください。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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