2018年5月31日 第22号

 毎年6月15日は、国連が制定した「世界高齢者虐待啓発デー(World Elder Abuse Awareness Day)」です。

 世界各国、特に先進国で、高齢者人口が増え続けています。高齢者人口の増加とともに、高齢者虐待の数も増加することが予想されます。これまでタブー視されてきた高齢者虐待の問題が、注目を浴びるようにはなりましたが、現在でも、最も調査報告事例の少ない暴力であるだけでなく、国家実行計画として取り上げられることが最も少ない問題のひとつでもあります。

 日本やカナダでも、高齢者虐待の事件がクローズアップされてきています。虐待者は、 虐待の被害を受ける高齢者が信頼する立場にある人たち、つまり、介護施設や医療施設の職員や介護をする家族という例がその多くを占めています。ニュースとしてよく取り上げられるのは、介護施設での職員による虐待ですが、実際は、介護施設での虐待より、在宅で介護をする家族による虐待の件数が多いということはあまり知られていません。虐待に至るリスク要因として、介護からくるストレスやうつ、アルコールや薬物への依存・乱用、高齢者介護の知識不足が挙げられます。これに加え、在宅介護の場合、社会的支援の欠如、地域社会からの孤立、心理的または経済的な高齢者への依存等も、虐待のリスク要因となります。

 世界保健機関(WHO)は、2017年に、世界28カ国・地域における高齢者虐待についての調査・報告をしています。それによると、60歳以上の人の6人に1人が、何らかの虐待被害を受けた経験があることがわかりました。特に、精神的な虐待が深刻と考えられ、加盟国各国に対し、介護従事者の研修や電話相談などの対策強化を求めています。また、WHOは、 虐待は世界的に増加していると指摘しており、このまま高齢者虐待の増加が進めば、高齢者が20億人に達するとされる2050年には、3億2千万人が虐待被害を受けるとしています。

 WHOのウェブサイトを検索してみると、高齢者虐待のデータとして様々な数字が提示されています。まず、16%の高齢者が前年1年間に虐待を経験しています。特に、認知症の高齢者の場合、虐待を受けるリスクは高くなり、 3人に2人が虐待を受けています。ただし、高齢者虐待は、体が弱っていたり、病気があるから虐待が起きるのではなく、高齢者の誰にでも起こり得ます。しかし、虐待の事実が報告されているのは、全体のほんの4%に過ぎません。虐待を受けている当事者が、虐待の被害を通報しない理由として、通報したことへの仕返しを恐れたり、虐待者がトラブルに巻き込まれることを心配したり、虐待を受けたことを恥じていることが、主な理由として挙げられています。身体的な障害や、認知機能の低下などにより、自ら通報できない場合もあります。

 高齢者虐待はどこでも起こりますが、その90%は、在宅介護で同居する家族による虐待です。成人した子供、配偶者やパートナーによるもので、最も多いのが息子による虐待、次いで、夫、娘による虐待です。介護者の他に誰もいない所で起きるため、 周囲の人が気づくまで虐待は続きます。この場合、通報するのはケアマネージャーなどの介護支援専門員が最も多く、介護者でない家族・親族によるものがそれに続きます。介護施設の居室など、周りの目の届かない所で起きる虐待も、その事実がなかなか表面化せず、むしろエスカレートしていきます。何かおかしいと気付いた家族が、カメラやモニターを設置して初めて、職員による虐待の事実が明るみに出るのはこのためです。

 高齢者虐待は、高齢者の身体的・精神的な健康と人権を侵害する、世界規模の社会問題です。虐待のサインを見逃さず、様々な理由で声を上げられない高齢者を代弁する。また、自らが虐待者にならないために、リスク要因になる状況を排除・改善する。私たち一般市民にも担える役割はあるはずです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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