2017年6月1日 第22号

 認知症の症状には、認知症の種類や進行の度合いにより、かなり個人差があります。巷では、介護者による介護虐待・殺人が取り沙汰されますが、認知症の症状で、性格が変わったり、暴力的になったりしていると、介護者や周囲の人たちが危険な目に遭うことや、事件や事故に繋がるケースもあります。

 認知症の介護の鉄則として挙げられるのが、怒らず否定しない介護です。しかし、「言うは易し行なうは難し」。実際に介護をしていると、思い通りにならないことはたくさんあります。介護からくる疲労やストレスで、持って行き場のない怒りが込み上げてくることもあるはずです。しかし、認知症が原因で善悪の判断ができなくなっていると、怒られても反省には繋がらず、怒られた時の負の感情だけが残ります。否定されると、自分の言うことを信じてもらえないと感じ、不信感が募ります。怒られてばかりいると、家の居心地が悪く家を出て行くようになり、自分が信じられていないと感じることが、介護拒否に繋がり、余計に介護がしづらくなります。

 認知症の人を介護する時、言葉だけで指示するよりも、身体言語(ボディーランゲージ)や行動で表現することが効果的だと言われています。具体的に何をすればいいのか戸惑うところですが、次のようなことに気をつけると、介護がしやすくなるでしょう。

 まず、認知症になっても、人はプライドを失いません。名前を呼んでもわからないと判断し、呼びかけをせずに身の回りの世話をしがちですが、名前を呼ぶということで、その人に敬意を持って接していることが伝わります。また、認知症でも会話ができる人にまで、わからないだろうと、「はい」「いいえ」で答えられる質問をしがちです。しかし、開かれた質問、例えば、「何が?」、「なぜ?」などで始まる質問に答えることが会話に発展し、心の内を垣間見ることができます。さらに、認知症になると何もできなくなるという誤解から、介護者が何でもしてしまう傾向があります。できることが限られ、時間もかかりますが、他の人が手伝いすぎると、できることもできなくなります。身の危険が伴わない限り、手伝わないようにします。

 認知症の症状のひとつに、自宅や入所している施設から「家に帰りたい」と訴えること(帰宅願望)があります。その言葉の裏に、昔住んでいた家や、さらに時間を遡った子供の頃の記憶にある、親が待っている家に帰ろうとしていることもあるようです。話の辻褄が合わなくても、その人にとっての「今」が事実です。共感するような言葉をかけることで、本人の気持ちは随分と落ち着きます。介護者が話の登場人物を演じることで、認知症の人の心が静まるのであれば、なりきって演じてしまいましょう。

 認知症の人が一番安心するのは、居心地のいい場所で、誰かが一緒に何かをしてくれることです。わかっていても、特にひとりで介護をしている場合、なかなかそんな余裕はありません。それでも、居心地のいい空間を作ることで、問題行動と考えられる症状が和らげば、介護も少しは楽になるはずです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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