2018年1月18日 第3号

2018年一月某日

サーロー節子様 

 お久し振りです!

 まずは昨年暮れの国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(I Can)のノーベル平和賞の受賞を心からお喜び申し上げます。

 メディアを通してお姿を拝見する限りでは、お元気なご様子で何よりです。しかし、受賞以来どれ程ご多忙な日々をお送りになっていらっしゃるかを想像するにつけ、どうぞお体を十分においとい頂きたいと心より願っております。

 思い起こすと、2015年度全カナダ日系人協会(National Association of Japanese Candaians-NAJC)のコンファレンスが行われたビクトリアのホテルロビーで、バッタリお目に掛かったのがすでに2年半以上も前のことになります。その時はお体の不調を多少嘆きながらも、杖を片手に変わらずに精力的に活動しておられるのを目のあたりにして、とても感銘を受けたのを覚えております。

 私が問わず語りに一年程前(当時)にトロントから西海岸に夫と共に国内移住し、ビクトリアに居を構えたことをお伝えしました。それに対し「ここの生活はいかがですか」とお聞き下さり、私は「トロントに比べ冬がとても暖かいのは嬉しいです」と日常生活を語った後に、「でも物書きとして、ここならではの何かを発見したいと思っている最中です」と申し上げました。

 そして「トロントに比べての一番の違いは、当地に残る日系カナダ人の歴史の深さです。地理的に見て日本からの移民たちがまずここに一歩を印したのは分かるのですが、その史跡が140年も経た今もそこここに残っているのにとても驚いています」ともお伝えしました。加えて「ここにお住まいのある白人の歴史家ご夫妻が書いた日系カナダ史『Gateway to Promise』の翻訳を考えているのです」等と、まだ漠然とした夢でしかなかった夢を、ふと口に出してしまったことに自分でも驚きました。

 その一歩をどこから始めるか、どうやって始めるか、まだアウトラインすらできていないのに軽率にも口にしてしまった自分を反省しました。でもそれが引き金になって、まずは資金の調達のために、会場でNAJC会長に「今こんな翻訳を考えているのですがグラントを貰えないでしょうか」と相談を持ち掛けたのです。

 そうなんです、全てはそこから始まりました。

 有難いことにその約半年後にはNAJCからグラントを頂き、またその他多くの公共機関や友人知人たちからの甚大なるご協力の元に、二年後の昨夏2017年8月に440頁の日系カナダ史の訳本『希望の国カナダ…、夢に懸け、海を渡った移民たち』を上梓しました。

 ここにご送付した一冊をご覧頂ければお分かりのように、この分厚い翻訳本はまるで西海岸を中心とした日系カナダ人史の百科事典のようです。くれぐれも440頁もの本を一気にお読みになるなどのご無理はなさらないで下さいませ。まずは目次だけをじっくりとご覧頂き、将来関連の事柄で詳細を知りになりたいことが起こった時に、何度も紐解いて頂ければと思います。

 しかしその時に16人の翻訳者と、その他諸々の協力を申し出て下さった方々のチームワークによって成し遂げられた一冊であることを思い出して頂ければ、これに勝る喜びはありません。

 私の方のことばかり書いてしまったことお許しください。ただあの時の節子さんとの会話が、私の背中を押して下さったことをお伝えしたかったのです。

 そしてもう一つ、ビクトリアでお目に掛かった時の心に残る思い出があります。それはコンファレンス後の会食で、世界平和を願うご自分の活動に触れて力強いスピーチをなさった後、満場の拍手と共に贈られたファーストネーションの置物を手になさいました。 カナダに住む日系人として私たちがどれ程節子さんを誇りに思っているかを感じて頂いた瞬間だったと思います。

 その時の私はまだ詳細は知らなかったのですが、すでにノーベル平和賞云々が話題に上っていたのをふと思い出し、急遽MCにその旨を伝えました。ざわざわした会場ではありましたが、彼女が一言言及してくれたことが二年後に現実のものとなったのですね。

 「核兵器は絶対悪」ではあっても裏に多くの思惑が絡む核廃絶問題は、一朝一夕に片づけられません。まだこれからも長い道のりを歩かなければならないことと思いますが、どうぞお体をご留意なさり末永くご活躍下さるよう心よりお祈り申し上げております。

かしこ

サンダース宮松敬子
ビクトリア市にて

 


サンダース宮松敬子氏 プロフィール
フリーランス・ジャーナリスト。カナダ在住40余年。3年前に「芸術文化の中心」である大都会トロントから「文化は自然」のビクトリアに移住。相違に驚いたもののやはり「住めば都」。海からのオゾンを吸いながら、変わらずに物書き業にいそしんでいる。*「V島 見たり聴いたり」は月1回の連載です。(編集部)

 

 

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