2016年12月1日 第49号

皆さん、こんにちは。先月は不動産王トランプ氏が米大統領選で当選し、世界各国のメディアで話題になっていますね。私たちが住んでいるカナダでは44歳のジャスティン・トルドー首相率いる自由党政権となり約1年が経ちました。ことし最後のまるごとカナダでは、我らの首相、ジャスティンについて話したいと思います。

 

◆華やかに見える子供時代

 ジャスティンが生まれ育ったのはカナダで最も有名な住所24 Sussexの首相官邸。ご存知の通り父親は故ピエール・トルドー元首相です。小さな頃から自宅には国内外から政界関係者らが出入りし、また父親の出張に連れられ海外のリーダーたちに会ったりと、父親がどのように国を動かしてきたのか実際に見て育ってきたようです。それだけ聞いたら華やかな子供時代だったんだなーと思ってしまいますが、同時に悲しいこともたくさんありました。30歳も年が離れていた両親の結婚生活は長続きせず、自宅である首相官邸では家庭内別居。母親が自分たちを置いて頻繁に家を留守にすることがあったとか(母親マーガレットさんの自伝には当時ニューヨークやロンドンなどへ数週間行ってパーティー、ドラッグ、セックス三昧だったと語っている)、母親が久々に自宅に戻ってきた際には喜ばせようと子供なりに努力したとか、母親のスキャンダラスな行動(当時のマーガレットさんはセレブ扱いでメディアでよく取り扱われていた)から学校の友達から嫌なことを言われることがあったとか、外から見れば華やかに見える生活の陰にはこんな辛い現実もあったようです。

 

◆バンクーバーでの20代

 首相官邸で育ったことも関係し、物心つく前から政界に興味があったんだろうなと勝手に推測していましたが、「全くなかった、それどころか拒否していた部分も」とジャスティンは自伝の中で語っています。20代初期はウィスラーで日中はスノーボードインストラクターとして活動し、夜はナイトクラブのバウンサーとして働いていたなど、意外な一面も。ウィスラーでみる若者たちとなんら変わりのない生活をしていたようですね。インストラクターの仕事から子供たちに教えることの喜びを覚え、その後UBCで教育学を学びポイントグレーで教師になります。それから弟の死、父親の死に直面し、30歳の頃モントリオールに戻ります。30歳といえば人生の節目です。自分の将来について再吟味し、再度大学に戻ることに。そこで現在の奥さんであるソフィーさんと出会ったのですが、まだ政界に入ることなんて考えてもいなかったようです。実際に政界に足を踏み入れたのは意外と最近のことで自由党が保守党に敗れスティーブン・ハーパー氏が政権を握った2006年あたりです。

 

◆いざ政界入り

 歴史に残る故トルドー元首相の息子だから簡単に政界入りしたのでは?と思っていましたが、自伝を読む限り、だからこそ大変なこともたくさんあったようです。「父がトルドーだからと言って調子に乗るな」的な目でみる政治関係者もいれば、「故トルドーが嫌いだった」と言って相手にしてくれない人たちも。もちろん政治関連の知り合いはいたので助けてもらったこともあったようですが、トルドーという名前だけで、簡単に現在の立場まで登り詰めたわけでもないようです。カナダが好きだから、カナダをさらに良い国にしたいからという気持ちで、直接市民の声を聞こうと、自分の選挙区を朝から晩まで歩いては、人が集まるところへ赴いたり、コミュニティーイベントやボランティア活動に実際に参加することで、徐々に信頼を得たようです。確かにジャスティンのイメージは「ご近所のジャスティンさん」と身近に感じれるものがありますよね。

 「自分の仕事は国民の声を聞き、優れたアドバイザーたちの助言に基づいてカナダにとっての最善策を練り出し、社会に適用することだ」と自伝で語っているジャスティン。彼の2017年のリーダーシップを期待したいと思います。

(小倉 マコ)

参照:Trudeau, Justin− Common Ground : HarperCollins Publishers(2014) Trudeau, Margaret− Consequences : SealBooks (1980)

 

  

 


 ■ 筆者プロフィール

カナダ在住ライター。新聞記者を始め、コミックエッセイ「姑は外国人」(角川書店)で 原作も担当。

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