2017年3月9日 第10号

 

 

 

数あるボクシング映画の中でも初期の金字塔と言える『Body And Soul』(1947) の監督・ロバート・ロッセンは元ボクサー。その社会派ロッセンが7部門でアカデミー賞にノミネートされ、最優秀作品賞他3つのオスカーに輝いたのが『オール・ザ・キングス・メン』で、2006年にはショーン・ペンの主演で再映画化された。

★ 政界の内幕を描く同作からセリフを拾ってみると… 「皆さんのお金(税金)を盗む議員や役人たち盗っ人は、私腹を肥やす」、「福祉は嘘。実際は役人の福祉の向上」、「癒着企業の経営者は役人の親戚」。

★ やられ放題の市民に関しては… 「田舎者には良識がない。田舎者諸君、役人になめられてるよ」、「市民の意思が法になるべき。要望は正義に」、「闘う勇気を持ち、権利と意思を阻む悪は叩け」。

★ マスコミは… 「真実を書かない。クビになるから」、「民衆が賢くなると困る」、「マスコミは政府のペットだから、役人の悪事は隠される」。

★ 腐敗に挑む男は… 「報道を曲げる連中と役人達を一掃する。彼らがブタのようにわめいても市民のために」、「金持ち連中の脂肪を吸引してやる」、「苦しむ人達の誰もが利用できる病院を作る。治療は無料」、「生産物を市場に運ぶ際、通行料は無料」、「貧しい民から土地や農場を没収しない」、「人の希望を奪わない。それが真の権利だ」、「子どもには正しい教育の権利を」。

★ 貧困について… 「貧困の苦しみが現実だ」、「貧しい人を救うのは貧しい人だけ。金持ちや役人じゃない」。

★ 公務員をサッサと辞める教員は… 「人から盗んだお金で建てた学校では教えたくないの」と稀有な正義のセリフ。現実は全員そこに寄生。

★ 善人ぶる一般市民には… 「善人なら、真実を隠さないはずだ」と真実を隠しまくる大衆の嘘っぱちぶりを指摘。

 こうした民主主義のごく当然なことがセリフに並ぶと、アカデミー最優秀作品だろうが非民主主義地帯(日本列島)では上映禁止。かろうじて、1976年に岩波ホールで人知れず細々と上映。

 ブロデリック・クロフォードが主演男優賞を獲得。クロフォードやアーネスト・ボーグナイン(1956)やアート・カーニー(1975)のように売れっ子じゃない役者が賞を得る時はアカデミーもちゃんと選んでる。ベトナム戦争他の侵略戦争を支持したタカ派のジョン・ウェインは、最初にこの主役オファーを受けた時に「アメリカ的な役じゃない」と蹴っていたから、地味なクロフォードがアカデミー賞に輝いたのが、たいそう悔しかった。その後、オスカー獲りに躍起になったジョンは多くの空振りを繰り返した。印象深いマーセデス・マッケンブリッジは助演女優賞を得たが実人生は散々。硬派監督ロバート・アルドリッチが助監督を務めていて、アルドリッチ独特のカラーがここからスタートしている。

 黒澤明監督作『悪い奴ほどよく眠る』(1960)が本作の影響を受けている気がするが、非公開作品を黒澤さんが観ていたかどうか。傑作『悪い奴ほどよく眠る』のように政治腐敗を暴く作品が日本にはほとんどなく、無意味かつ軽薄なナンセンス映画がドッサリ大量生産される。人の羊化はアッサリ成功し、タンマリ搾取。『オール・ザ・キングス・メン』(「みんな王の子分」の意)の題名の如く、市民はマンマとダマされ、税金ドロボーは好き放題、やりたい放題。おちょくられてる市民はひからびるまで搾り取られる。『オール・ザ・キングス・ペット』社会は長期安定、順風満帆。

(Lucky Day)

 

 

著者近影:Lucky Day 元プロボクサーで映画作家のコラムニスト

 

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