2018年5月3日 第18号

 妊娠初期は、“つわり”に悩まされる方が多くみられますが(勿論、全く悪阻の無い方も居られます)摂食量が少ないので、当然、排便回数も減少します。しかし、つわりは多くの場合4か月目に入る頃には、食欲は改善し、時には普通以上になって、過食傾向になる方も少なからず居られます。摂食量が増えたにも関わらず排便回数が少ない場合が問題になります。また、妊娠するまでは正常だった排便が、妊娠の経過中に、便秘症になってしまう場合も結構な頻度で、見受けられます。妊娠によって、腸全体の動きが抑えられている事が原因の一つですが、その原因は人其々で異なります。妊娠中の身体の変化(水血症、腸の働きの低下)がその原因として大きな役割を担っていることは容易に理解できます。これらは、妊娠によって必然的な事なので、避けることができません。排便を整えるには、どのような方法が採られるのでしょう。最初に思い付くことは、規則的な生活と食餌の事かと思います。睡眠や適度な運動、精神的安寧など心身を健康に保つことは勿論必要ですが、食餌(食事)の内容も要注意です。カロリーばかりでなく、バランスのとれた食事にも注意を払いたいものです(便秘改善の為の食餌の工夫も含めて)。それでもうまく行かなければ、場合によっては薬物治療が必要となります。主治医の指示や、薬剤師、栄養士さんなど専門家の意見が必要となる場合も有ります。妊娠中ですと、使用薬剤にも、制限が加えられる場合が有りますので、“便秘ぐらい大したことはない”と軽く見ないで、妊娠の定期診察の時などに、赤ちゃんの経過ばかりでなく、ママの困ったことを伝えましょう。

 次に、便秘症を東洋医学的に見てみたいと思います。西洋医学とは異なった診断・治療がなされます。いつでも、診断・治療を行うときは、東洋医学に独特の診察・診断法である四診(ししん)と弁証(べんしょう)(後述)が行われます。これらの過程をふまえた上で、その方の治療法が決定されます。文字表現ですと、とても回りくどい、メンドクサソウな感じがすると思いますが、もう少しだけ、メンドクサソウな続きを読み進んでみて下さい!!

 便秘症を弁証(患者さんを診察した所見から病名診断を導き出す過程)する場合、多くは、八綱弁証(はちこうべんしょう)(後述)で表現されます。(一風変わった診断方法と思って下さい)。

 参考までに診断名の一部を書きますと…気虚(ききょ)便秘、陽虚(ようきょ)便秘、熱結(ねつけつ)便秘、血虚(けっきょ)便秘、気滞(きたい)便秘、…等々が挙げられますが、これら診断名が確定すれば使用薬草の種類が決められます。しかし、どの薬草を組み合わせるか、組み合わされた薬草の必要量を決めなければなりませんが、それらは、妊婦さんの状態によって決まります。言い換えれば、貴女にだけ処方されるオーダーメード(テーラーメード)の治療薬となります。とても複雑な経過を辿って、やっとのことで処方薬に行き着くのです。お腹の中の赤ちゃんに、最大の敬意をはらって、かけがえのない生命をはぐくみ、育てる事は、人類共通の、普遍的な思いだと思います。妊婦さんは赤ちゃんの生命をひと時も休まず、溢れる愛情を注ぎ、育て、はぐくみます。でも、ご主人をはじめ、ご家族、ご友人、ご近所の方々ばかりでなく、道行く人たちも温かく妊婦さん(貴女)を見守っています。決して一人では有りません。医療関係者ばかりでなく、すべての人たちに見守られていますよ!!

 

●四診(ししん):望診(ぼうしん)、聞診(ぶんしん)、問診(もんしん)、切診(せつしん)

 望診(ぼうしん):顔色、表情、舌や舌苔、など視覚によって得られる所見

 聞診(ぶんしん):声、腸雑音、発語、など 聴覚によって得られる所見

 問診(もんしん):病歴、家族歴、既往歴、など質問によって得られる情報

 切診(せつしん):四肢、胸腹部及び脈の性状など、触診によって得られる所見

●弁証(べんしょう):四診(ししん)によって得られた所見によって、状態を合理的に説明できること。

 八綱弁証(はちこうべんしょう):陰陽、虚実、表裏、寒熱という8綱で弁証する方法

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。