2018年11月29日 第48号

 ブリティッシュ・コロンビア州の公立校で19日、授業の教材として教室に掲げられていた旭日旗が、同校の韓国人生徒が始めた抗議によって目立たない場所へ移動させられた。しかし学校側は、旗はあくまでも20世紀の歴史の授業の教材であることを強調している。

 この学校は、メトロバンクーバーのラングレー地区にある公立校、ウォールナット・グローブ・セカンダリースクール。同州の12年間の義務教育(7・5制)の後半を受け持つのがセカンダリースクールで、8年生から最高学年の12年生までが通う。

 同校の歴史教室の壁に旭日旗が掲げられていたことに抗議を行ったのは、同校9年生の韓国人生徒B・J・ムン(B. J. Moon)さん。インターネット上で抗議の参加者を募ったところ、週末だけで1万人を超える賛同者が集まったと、ムンさんは抗議サイトに書き込んでいる。

 この抗議を受けて、同校が旭日旗を移動したことについてムンさんは「学校は迅速かつ適切な対応を取った」と称賛、自分たちの勝利だと高らかに宣言している。ムンさんや抗議に賛同した韓国系生徒らは、旭日旗は戦前・戦中の大日本帝国の黒歴史を象徴していると主張している。

 さらに自分たちの祖父母の世代が舐めた辛酸のことを思うと、旭日旗に非人道性と非倫理性を見出さないで(教室に掲げるような)人間(教師)がいることが信じられないと続けている。また、旭日旗が掲げられることは、大戦中に命を落とした兵士によって守られた、基本的人権の神聖さを信じるすべての人々にとっても重大な問題になっていると述べている。

 しかし、このムンさんらの抗議に対し、旭日旗を教室に掲げた社会科の教師を代弁したラングレー教育委員会のケン・ホフさんは、この社会科教師はベテランで多くの人の尊敬を集めてきていると、弁護するコメントを発表している。

 「この旗は、他の多くの教材と同じように、20世紀に起きた出来事を学び討論するための教材である」と説明、さらに「この旗は戦争や騒乱の中で作られ利用されてきた物のひとつであり、ある特定のグループや生徒に怒りや不快な思いをさせるために掲げられたのではない」と断言。あくまでも会話の端緒として扱うべきものとの意見を述べている。

 またホフさんは、ムンさんやその仲間が、歴史を学ぶという高い次元から旭日旗を捉えることができなかったことは不幸だったと語っている。こうした旗などのシンボルが、世界の中の異なる立場の人には違った意味合いを持つということを学ぶためにも、必要なものだと指摘している。

 歴史授業は11年生と12年生の科目だが、同校でこの授業を受けた多くの生徒は、そうした教材を用いた討論が学習に有効だったと、取材に答えている。11年生のブロックさんとラージェンさんは、授業で旭日旗が取り上げられて初めて、その旗の持つ意味を知ったと語っている。ブロックさんは「この旗は教材だと思う。確かにあるグループの人に対しては許しがたいものなので、撤去した方がいいのかも知れないが、歴史を学ぶという観点からはそれが必要だ」と取材に答えている。なお、抗議を始めたムンさんは歴史授業を受けていたわけではなく、たまたま廊下から教室内の旭日旗を見かけたことがきっかけで、抗議活動を始めている。

 ホフさんはさらに、ムンさんや他の生徒たちが旭日旗を見つけるや否や、学校側には何も相談せずいきなりインターネット上で騒ぎ始めたことも残念だと述べている。また旭日旗の教材としての役割を強調、史実を検閲したり修正したりすることはできないと指摘している。「真実は時に不快なこともあるが、授業の中ではそうしたことについての討論が重要な意味を持つ」と教育上の観点から、一方を排除するような行為を暗に批判していた。

 

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