2017年5月25日 第21号

 ブリティッシュ・コロンビア州リッチモンドで20日、浮き桟橋に近づいてきたアシカが、桟橋のへりにしゃがみこんでいた少女のスカートをくわえ、海中に引きずり込む事故が起こった。

 事故が起こったのは、同市南西角にある漁港スティーブストン。同港は、浮き桟橋に横付けした漁船から新鮮な魚が買えることで有名。連休初日の当日も、好天に恵まれ多くの人でにぎわっていた。

 その桟橋のすぐそばにアシカが現れるとすぐに人だかりができ、中にはパンなどを与える人もいた。アシカは桟橋や漁船の間を泳ぎ回っていたが、そのうち上半身を海中から突き出し、桟橋にいた人にエサをねだるようなしぐさをし始めた。

 その直後、桟橋のヘリに少女が海を背にしてしゃがみこむやいなや、再び身を乗り出したアシカは、そのワンピースのスカート部分をくわえ少女を海中に引きずり込んだ。すかさず同行していた、少女の祖父と思われる人物が飛び込み、少女をアシカから引き離し、桟橋にもどした。

 たまたま、その様子を撮影していた、サイモン・フレーザー大学の学生マイケル・フジワラさんも、男性の手を引っ張り桟橋に這い上がるのを助けた。彼によると、少女の家族はショックを隠し切れないまま、足早に現場から立ち去ったという。

 この動画を見たバンクーバー水族館の水棲哺乳類飼育長ダニエル・ハイソンさんは、見物客がエサを与えないことに対し、動画の中でアシカが刻々と攻撃的になってきている様子を指摘している。少女を引きずり込む前、アシカが海中から身を乗り出し、短く息を吐きだした行動は、アシカがストレスを感じていることを表す、攻撃の前兆だとハイソンさん。アシカがこうしたしぐさを見せたら、すぐに安全な距離をとることが重要だと説明する。

 また、ブリティッシュ・コロンビア大学の海洋哺乳類研究部部長のアンドリュー・トライテスさんは、このアシカは人からエサをもらうことに慣れているように見え、この場合少女の白いワンピースをエサと勘違いしたのではないかと指摘する。いずれにしても、アシカの行動は非難されるべきものではないとしている。

 スティーブストン港湾局は、アシカなど海棲哺乳類にエサを与えることがいかに危険か、メディアを通じて警告している。こうした海獣に対する「餌付け」は、プリンス・ルパートからコモックス、ビクトリアまでのBC州沿岸地域で広く見られ、多くの問題を引き起こしているという。

 これが山だったら、わざわざグリズリー・ベアに近づいて、ハムサンドを与えるような行為は危険だと誰でも知っている。それと同じように、体重が200キログラムにもなる海獣にパンを与えることも危険行為だということを肝に銘じてもらいたいと、局長のロバート・キースマンさん。

 またアシカが一度、この少女を噛もうとしたにもかかわらず、彼女を桟橋から遠ざけるどころか、スカートの裾が海側にたれるように少女を後ろ向きでしゃがませた家族の行動を「無謀」だと強く非難している。この一件の後、港湾局は日中の見回りを強化するとともに、海洋哺乳類の生態系を乱す行為には、最高で10万ドルの罰金が課せられると警告する看板を増やした。

 また看板には、アシカによるけがは深刻な感染症を引き起こし、四肢切断や死に至る危険があると警告している。アシカの口腔内のバクテリアは特定の感染症を引き起こすため、それにあった処置をする必要があるという。水族館のハイソンさんは、今回のようなケースでアシカに噛まれ、皮膚に裂傷を負ったら水族館に連絡をするようアドバイスしている。けがの治療をする医師に、水族館から適切なアドバイスを行うことができるからだ。

 

 

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