2016年9月1日 第36号

 オンタリオ州トロントの西隣ミシサガ市の女性が28日、空手の最高段位、黒帯を授与された。

 今年72歳になるグロリア・スミスさん、実は8年前に乳がんを患い、摘出手術と化学療法を受けた経歴がある。闘病生活から学んだことは、「やりたいと思ったことは、やってみること。そのチャンスは2度と巡ってこないかもしれないから」だった。

 65歳で教職からリタイアしたスミスさんが最初に興味を持ったのは、太極拳。2年間これを習ったが、次第に空手に興味を持つようになり、アカデミー・オブ・マーシャルアーツの8週間体験コースに参加することにした。当然、これが彼女にとって初めての空手だった。しかし習い始めてみると、空手が単なる技の練習ではなく、礼儀、思いやり、尊敬といった人生そのものの鍛錬であることを知り、すっかり空手のとりことなった。

 以来ほとんど毎日、アカデミーに通い20代から40代の生徒に混じって稽古を続けてきたスミスさん。そんな彼女に対して、年甲斐もなくとか、無理をしないようになどと揶揄する人は皆無だった。それどころか、互いに切磋琢磨し助け合う姿勢を見せてくれたと、スミスさんは取材に語っている。

 スミスさんが通うアカデミーは、トロント郊外のブランプトン、ミルトンのほか、アメリカ・フロリダ州ネープルズにも支部を持ち、在籍生徒数約3000人を数える。しかしそれでも、スミスさんのように70歳を越えてから黒帯保持者になった人は、同校28年の歴史の中でも初めてだと、スミスさんのヘッドコーチ、イアン・ジェイさんは語っている。

 また、空手は若い人だけのものと勘違いされがちだが、どんな年齢の人でもできるものであり、スミスさんはそれを見事に示してくれたと、ジェイさん。さらに年を言い訳にしてしまうと、できることもできなくなってしまうが、何かをやろうとすることに遅すぎることはないことも彼女が体現してくれたと、付け加えている。

 日常的に関節炎の痛みに苛まれているスミスさんだが、それを言い訳に稽古を休むことはない。黒帯授与にあたり、これはあなたの今までの結果であり、ゴールではないとの言葉をもらったというスミスさん。本人も続けられる限り稽古を続けるつもりで、「習うのを止めた日が、自分が死に向かう日だ」と語っている。

 

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