2014年ソチ冬季五輪フィギュアスケート、カナダ男子代表のケビン・レイノルズ選手。昨年5月からは、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)に通い、会話と読解の上級レベルの日本語の授業もとっている。UBCの小泉桂子先生に許可をいただき、授業中のケビンさんを日本語でインタビューして、日本語で答えてもらった。

 

ケビン・レイノルズさん

 

〜フィギュアスケートを始めたきっかけを教えてください。カナダでは、男子はアイスホッケーのほうが人気かと思いますが、なぜフィギュアを?

「4歳のときにスケートを始め、最初はアイスホッケーをしていました。フィギュアスケートは、アイスホッケーのスケート技術の練習として始めました。後ろに滑ることがうまかったので、ディフェンスをしていました。本当はゴールにシュートするのが好きだったんですけど。13歳まではフィギュアスケートとホッケーの両方をしていましたが、僕はあまり背が高くなかったですし、両親も背が高くなかったので、ホッケーは向いていないかなと思いました。ホッケー選手は大きくないと不利ですから。フィギュアスケートのノービスのカナダ選手権で優勝したのを機会に、ホッケーはやめて、フィギュアスケート一本に絞ることにしました」

 その後、ケビンさんは、2005年のカナダ男子ジュニアでパトリック・チャン選手に次いでの2位。2010年のカナダ選手権では惜しくも3位で、バンクーバー五輪代表の座を逃したものの、同年10月にはスケートカナダのショートプログラムで、 男子選手として初めて2つの4回転ジャンプに成功している。また、2013年の四大陸選手権では3本の4回転ジャンプに成功して優勝、2014年のソチ五輪ではカナダ男子代表として出場して、カナダの団体としての銀メダル獲得に貢献。カナダのみならず世界フィギュアスケート界の中心人物として活躍してきた。アイスホッケーでは、夏の一カ月は練習を休めることがあるそうだが、フィギュアスケートの場合、一年間ほぼ休みなしで練習するようだ。ケビンさんは10歳のころから、ずっとそのように練習を続けてきた。

 そんなケビンさんに悪夢のような日々が訪れる。昨年1月、カナダ選手権の最中に以前から痛めていた腰のケガが悪化し、ショートプログラムの後、棄権せざるを得なくなったのだ。そして、手術をすることになったそうだが、その時のことについて聞いてみた。

「去年、手術をしたときは、本当につらかったです。4歳のときからスケートを続けてきて、やめたいなんて考えたこともありませんでしたが、去年はもうやめようかと思いました。カナダ選手権が1月にあったのですが、その時はなんとか歩くことはできても、痛くてスケートはできない状態でした。選手権は棄権しました。4月に手術を受けたんですが、そのころは、もうスケートをやめようかと悩んでいました。でも、リハビリがうまくいって、9月からスケートの練習ができるようになったんです」

〜それだけに、ことし1月のカナダ選手権で3位に入賞したときは、喜びもひとしおではなかったでしょうか。さて、昨年5月からUBCに入学したそうですね。25歳になった今、大学に入ろうと思った理由を教えてください。

「昨年、手術をすることになってスケートができなかったことで、考える時間がたくさんできました。大学を出ておいたほうが自分の将来のためにいいなと思ったためです。専攻は『国際関係』にしたいと思っています」

〜小泉先生のお話では、授業に遅刻することもなく、宿題なども期日までに提出しているそうですね。試験勉強もあるでしょうし、現役選手としての生活と、大学の勉強との両立は難しくはありませんか?

「宿題や課題は週末が中心です。月、水、金はクラスがない日で、正午から午後6時まで練習します。そのときは午前中に勉強をします。火曜と木曜は大学で勉強し、午後5時から7時半まで練習します。大会などで、クラスを休まなければならなかったときは、クラスメートにノートを見せてもらったり、教えてもらったりしています」

〜練習で疲れて、「眠いな...」と授業中感じたり、「遅刻しちゃおうか」「さぼっちゃおうか」と思ったりすることはありませんか?

「僕はコキットラムから通っていて朝、遅くなると渋滞で大変なので、寝坊はしません。大学の授業をさぼろうかとか、眠いということもありません。スケートの練習中、眠くなったことはありますが(笑)」

 小泉先生によると授業中は、怖いくらいに真剣に勉強しているそうだ。

〜日本語の勉強を始めようと思った理由を教えてください。

「NHK杯で日本に行って、とても優しいファンの人たちに会ったのがきっかけで、日本文化に興味を持つようになりました」

〜スケートで、例えば今シーズンのショートプログラムはテレビアニメ『カウボーイビバップ』の『Tank!』、昨シーズンのフリースケーティングの『ゼルダの伝説』など、日本のゲームやアニメの楽曲を使っていますね。日本のゲームやアニメはお好きですか?

「好きです。当時は気づいていませんでしたが、僕がプレイしてきたゲームはほぼ全て日本のものでしたし、今、思うと日本語を勉強しようと思った理由のひとつだったような気がします」

〜将来の目標を教えてください。

「外交官のような仕事につけたらいいなと思います」

〜五輪代表のフィギュアスケート選手なので、将来もスケートと関係する仕事を考えていらっしゃるのかと思っていました。

「外交官になりたかったこともあり、大学に入ることにしました。日本語も、外交官になるという夢に役立つのではないかと思っています」

 インタビューの際のケビンさんの印象はとても真面目な好青年。とても真面目だが、笑うと印象がガラッと変わる。 「氷の上ではなくても、回転ジャンプできますか?ジャンプをしてみてください」といったリクエストにも、ニコニコしながら応えてくれた。普段はどうなのだろう。クラスメートの皆さんに教室でのケビンさんの印象を聞いた。

・やさしい、とても良い人です
・話をちゃんと聞いてくれます
・シンパシーとエンパシーの両方を備えた人で、相手の気持ちに寄り添ってくれます

など。小泉先生はとても礼儀正しいと付け加えた。クラスメートとのやりとりを聞いていると、すっかりクラスになじんでいるようだ。スケートの話は自分からはしないという。カナダ選手権で3位に入った、あるいはスポートランド杯で優勝した話も自分からクラスでしなかったという。「スケートと大学の勉強は別ですから」。ケビンさんは、きっぱりとした表情で語った。

 ケビンさんは今、毎日のスケートの練習、大会出場(ことしに入って、1月にはハリファックスでのカナダ選手権、2月は台北での四大陸大会、3月にはブタペストのスポートランド杯)、大学で4コースをとる、といった多忙な日々を過ごしている。一時は引退まで考えたケビンさんにとっては充実した日々なのではないだろうか。

(取材 西川 桂子)

 

クラスの皆さんと

 

ケビンさんは日本のアニメ、ゲーム以外にも、AC/DCやレッド・ツェッペリンのロックの名曲をスケートプログラムに使っている。「クラシックを使う人が多いので、僕らしさを出すために選んでいます」

 

リクエストに応えてジャンプ、ポーズをしてくれたケビンさん

 

リクエストに応えてジャンプ、ポーズをしてくれたケビンさん

 

リクエストに応えてジャンプ、ポーズをしてくれたケビンさん

 

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