II  輪廻転生 −前世を記憶する子どもたち−

Dr. Brian Weiss の前世療法に出てくるクライアントは、催眠退行の治療の過程で、自分の前世のヴィジョンを持つのですが2)3)、では、前世の記憶というのを、前世退行の治療の過程とは関係なく、現時点で記憶しているということはあるのでしょうか?それについては、多くの研究者たちが、子どもたちの例として、報告をしています。
その報告の紹介の前に、再度チベットでの話に戻したいと思います。ブラッド・ピット扮するオーストリアの登山家ハラーと、若き日のダライ・ラマ4世との魂の交流を描いた映画「セブンイヤーズ・イン・チベット」をご覧になった方は多いかと思います。その中で、既に死去したダライ・ラマ13世の生まれ変わりを探すシーンがありました。様々なお告げと慎重な捜索の結果、北東にその生まれ変わりがいるとの確信を持ったチベット政府の使者が、ラモ・ドンドゥプという名づけられていた3歳の子ども(後のダライ・ラマ14世)の家を探し当てます。すると、ドアの陰から出てきたその子どもは、捜索隊の中に身分を隠し貧しい服装でまぎれていた使者セラ僧院の高僧をすぐさま見つけ出し、会ったこともない彼に向かって「セラ・ラマ」と呼びかけます。また、使者がいくつかのテストとして、ダライ・ラマ13世の遺品と、それそっくりの偽ものや、子どもが飛びつきそうなお菓子・おもちゃなどをテーブルの上に並べ、「どれが一番好き?」と聞くと、その3歳の子どもは即座に真正の遺品を選び「これ、ボクの!」と叫ぶ可愛いシーンがありました1)5)。そして、この子どもが、真正ダライ・ラマの化身、第13世ダライ・ラマ・転生と認定されることになるのです。
余談になりますが、このダライ・ラマ13世の遺品については、後日談があります。ダライ・ラマ14世自身も自伝に書いておられることですが5)、幼い少年ダライ・ラマ14世は相当の腕白坊やだったようで、これらの遺品のひとつである貴重な(13世がずっと使用されていた)ステッキが、ポタラ宮殿に入った幼い少年ダライ・ラマ14世の大のお気に入りのおもちゃとなり、毎日それを振り回して遊んでいて、兄に大怪我をさせてしまったと語られています。
それはさておき、チベットでは代々ダライ・ラマは転生活仏(てんしょうかつぶつ)と考えられ、先代が崩御すると政府がその生まれ変りを捜す大きな役目を担います。ここで述べられたように、北東にその生まれ変わりがいるとの確信を持ったチベット政府の使者が、ラモ・ドンドゥプという名づけられていた3歳の子ども(後のダライ・ラマ14世)を見出す過程、ここには、子どもが前世の自分を記憶しているという大きな前提があります。こうした考えは、アジアの多くの国で古くから一般の人々にも信じられているいる考え方のようです。
しかし、その一方で、このような「転生」「生まれ変わり」という考え方、あるいは子どもたちが前世を記憶しているなどということは、現実的ではないと退ける立場の人々も多いのは事実です。それは、「転生」「生まれ変り」が揺るぎない事実であるという証明が必要だとする「科学」信頼の立場とも言えるでしょう。こうした疑問に立ち向かい、子どもたちの前世の記憶の例を「科学的」「学問的」なリサーチとして証明した精神科医がいます。
次回は、そのカナダ人の医師。Dr. Ian Stevenson 4)の研究を紹介したいと思います。

 

引用文献
1)Andrew Crowe, “The Dalai Lama Story”, Longacre Press, 2007
2)Brian L. Weiss, M.D.,  “Many Lives, Many Masters”, Fireside, 1988( 『前世療法―米国精神科医が体験した輪廻転生の神秘』ブライアン・ L.・ワイス〔山川 紘矢、山川 亜希子訳〕1991)
3)Brian L. Weiss, M.D., “Through Time into Healing”, Fireside, 1992
( 『前世療法2―米国精神科医が挑んだ、時を越えたいやし』ブライアン・L. ・ワイス〔山川 紘矢、山川 亜希子訳〕1993)
4)Ian Stevenson, M.D., “TwentyCases Suggestive of Reincarnation”, University of  Virginia Press, (Second edition) 1974
5)Tenzin Gyatso (His Holiness the Dalai Lama), “The Path to Freedom-Freedom in Exile : The Autobiography of the Dalai Lama-“,  Abacus, 1992
( 『ダライ・ラマ自伝』  ダライ・ラマ〔山際素男訳〕、文春文庫)

 

2011年11月3日号(#45)にて掲載

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