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大金星!スレッジホッケー日本代表、カナダを倒す!!
     ホッケーの聖地に日の丸を掲げる


試合終了3秒前。3…2…1…。その瞬間、祈りは歓喜の雄叫びに変わった。アイススレッジホッケー日本代表が、王者カナダを敗るという大波乱の激震は、少数派の日本代表応援団の歓声とカナダファンの溜息が入り混じり会場中に響き渡った。


「カナダを倒しての銀メダル」に色以上の価値がある。この地で日の丸を揚げられたことが何よりもうれしいと選手たち。

 

準決勝 日本 3-1 カナダ

 決戦の日は3月18日。Bグループを1位で通過したカナダとAグループ2位の日本がぶつかった。大方の予想は圧倒的にカナダ優位。試合後、遠藤隆行主将は「カナダ嫌だな」と少し弱気になっていたと試合前の気持ちを打ち明けた。
 しかし、1点をリードされて迎えた第2ピリオド。同点ゴールを決めたのは遠藤だった。自らパスカットし放ったシュートは相手ゴーリーの左下を抜けた。「あれは完全に相手のパスコースを読んでいました。我ながらよかった」と笑った自画自賛のシュートだった。この主将の1点で完全に日本のペースになった。
 緊迫する第3ピリオド、均衡を破ったのはエース上原大祐。試合終了まで残り1分13秒、「これで勝つと思った」という上原の放ったシュートは、日本ファンの願いを乗せてネットと吸い込まれた。
 終わってみれば3-1と王者カナダに快勝。スレッジという枠ではなく、日本アイスホッケー界にとって歴史的な一勝となった。


第2ピリオド、遠藤、自画自賛の同点ゴール!! (写真 丸山勧)


守護神#39、永瀬ネットを死守

 この試合、永瀬はまさに守護神だった。再三のスーパーセーブでカナダは完全に調子が狂った。この日は試合前から15年のホッケー人生の中で精神的にも肉体的にも最高な状態だったという。「試合前から心の中はすごく静かでしたね」。
 遠藤は「(永瀬は)本当によく頑張った。やつのテンションがこっちにもビンビン伝わってきた」と語った。
 カナダのシュート数は20。うち19本を止めた。「でも向こうはたぶん40本くらい打ってて、うちのディフェンスが半分くらい止めてくれているんですよ」。今大会、日本はDFを遠藤、須藤、石田の3人でまわしていた。この試合3人の平均IOTは30分。「ディフェンスもしんどかったと思うけど」。記録には残らないチーム一丸の好守を勝因に挙げた。
 守護神#39と言えばカナダにとっては悪夢の再来だった。長野五輪、#39をつけたハシェック率いるチェコに準決勝で敗退。ウェイン・グレツキー擁したカナダが4位に終わった。「試合前ちょっとそのことを思い出しましたね」と永瀬。日本の#39がこの日はひと際大きく見えた。


カナダ相手に1失点に抑えたGK永瀬。スーパーセーブの連続でチームを奮い立たせた。 (写真 丸山勧)

 

実力で勝ち取った『氷上の奇跡』

 翌日、地元紙では一面に“Miracle on Ice”という文字が躍った。 
「明日のカナダの新聞を見てください」とカナダ戦後に嬉しそうに言っていた永瀬の予想通り、地元紙は大きく取り上げた。
 中北浩仁監督はカナダ戦の前、「9999回負けてもいいからこの1戦だけは勝て」と選手を鼓舞したという。これまでカナダには12連敗。監督就任後一度も勝っていなかった。しかしこの日は違った。選手も監督も「いける」と確信していた。
 思い通りに試合が運ばないカナダに焦りが見えた。「最低でも金。ホッケートリプルゴールド」という重圧もあっただろうと永瀬は言った。「消極的なプレーだけはしないようにと心がけ、日本は冷静に自分たちのホッケーをした」と遠藤。それが相手のミスを誘った。永瀬が顔で止めたシュートもカナダの焦りを読んだ永瀬の読み勝ちだった。

 「自分にとってはやばいくらいのBig Win」とホッケー王国カナダで王者カナダを破った感想を遠藤はこう表現した。ホッケーを極めたいとオタワに3年間留学していた永瀬は「パラの準決勝でメダルをかけてカナダと対決できるなんて幸せです。ホッケーに誇りと尊敬を持っているこの国で、いい試合で勝てたのは最高。なんて言ったらいいかわからない」と声を詰まらせた。
 勝つことが当然だと思っていたカナダのメディアには「奇跡」に映ったのかもしれない。「ひとりひとりの選手の力はカナダが上かもしれない。でも俺たちはチームで勝った」と遠藤主将。この「氷上の奇跡」は紛れもなく日本がチーム一丸となって実力で勝ち取った大きな大きな1勝だった。


前日に全試合を終え、スレッジの応援に駆け付けた車いすカーリングチーム。(写真 野口英雄)

カナダのホッケーファンに敬意

 メープルリーフが会場中を占める中、カナダに負けないくらい大声援を送ってくれた日本の応援に感謝した。「いやぁ、もう、みなさんのおかげです」と遠藤。「いいねっ。途中からGo Canada GoがGo Endo Goに聞こえた」と笑った。「いっぱい国旗が見えたし、バンクーバー入りしてアウェイにいると思ったことは一切なかった」というのは永瀬。そして、王者カナダを倒した日本に対して称賛の拍手を送ってくれたカナダのホッケーファンにも「さすがカナダ」と敬意を表した。


今大会絶好調と監督に言われた伊藤(#59)と、この試合決勝点をあげた上原(#32) (写真 丸山勧)

(取材 三島直美)

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スレッジホッケー銀メダル
ホッケーの聖地に日の丸を掲げる


カナダのホッケー会場で掲げられる日の丸。「このために12年間戦ってきた」と自負した。

 

 カナダに快勝した日本は20日、アメリカと金メダルをかけて激突した。A組予選では0-6と惨敗。しかし悪いイメージはなかった。
 この日の1点目は第1ピリオド4:10。日本ネット前で両チーム入り乱れての攻防となった。そしてこぼれたところを米国がゴール。「あれは一度グラブに入ったパックを掻き出されてゴールされた」と永瀬。主審が違えばとっくにプレーが中断されている場面だったと振り返った。

 日本も第3ピリオドには猛攻を仕掛けたが、一歩及ばず0-2とアメリカに惜敗。銀メダルが確定した。

 「悔しい」と銀メダルを首にかけた選手誰もがそう第一声を発した。高橋和廣は「(永瀬が)神がかり的なセーブを連発していたので最後まであきらめずにいった」と振り返り、ただ「銀メダルという結果には満足している」と笑顔を見せた。

 表彰式でうれし涙を流したという遠藤隆行主将は「日本の旗が運ばれて来た時に込み上げるものがあった。ホッケー王国カナダでカナダに勝って日本の旗を揚げられたのはうれしかった」とチームの思いを代弁した。

 メダルをかけられている選手たちを見て「その後ろ姿がカッコよかった」と中北浩仁監督。10代の頃、このバンクーバーでホッケー人生を始めた監督は「カナダに恩返しができた」と繰り返した。ロッカールームで選手一人ひとりからメダルを首にかけてもらった時には15個のメダルの重さをかみしめて号泣したという。それを今度は監督からスタッフ1人ひとりにかけた。チームで勝ち取った銀メダル、「ほんとに(選手を)ほめてやりたい」と語った。

 長野大会から始まった悲願のメダル獲得はこのバンクーバーで集大成を迎えた。平均年齢36歳、出場チーム最年長チームは今後選手の獲得に力を入れる。永瀬は「講演に行って子供たちにこのメダルを見せたい。これがあるとないとでは説得力が違う」と笑った。今後は追いかけられる立場。バンクーバーの銀メダルは日本アイススレッジの新たな出発点ともなった。


試合終了後、恒例の「ニッポン、ニッポン、ニッポン」。選手たちも満面の笑み。

(取材 三島直美 / 写真 野口英雄)

 


この記事掲載は2010年3月25日第13号です