ロンドンパラリンピックに向け、課題と希望が見えた日本代表
第5回カナダカップは6月21日から23日にリッチモンドのオリンピックオーバルで開催された。参加国は8つ。全チームが今年ロンドンで開催されるパラリンピック夏季大会に出場することから、前哨戦として位置付けられている大会でもある。
日本代表は18日にバンクーバー入り。時差ボケ対策などを取りながら今大会に臨んだ。
予選3試合は、イギリス、フランス、アメリカと対戦。上位2チームが準決勝に進める中、日本は3戦全勝で1位通過した。
特に注目されたのはアメリカ戦。前半を終わって26—29と3ポイントをリードされる苦しい展開。第3クオーターで1ポイント縮めるものの、それでも2ポイント差。しかし、第4クオーターに驚異の追い上げをみせる。残り3分41秒で51—51の同点に追いつくと、残り2分で52—53と遂に逆転。息詰まる攻防は同点での残り10秒でボールを手にした日本が決勝ポイントを挙げ、56—55の逆転勝利。3大国際大会でこれまで2度しか負けたことのないアメリカに日本が大金星を挙げた。
今大会、日本はある意味注目されていた。日本がカナダカップに初参加したのは2006年。結果は8位。2008年には6位となったものの、2009年11月の世界ランキングでは7位だった。そして2010年。アメリカが不参加だったとはいえ、3位に食い込み表彰台。急成長を遂げ、世界ランク3位まで上がってきた日本に他チームが警戒していなかったといえばウソになるだろう。
そんな中で迎えた今大会でも予選全勝。優勝への期待もかかったが、準決勝でカナダに敗れ、3位決定戦では延長戦の末オーストラリアに惜敗し、4位に終わった。
相手は日本のエース池崎大輔を徹底マーク。その裏をかき仲里進もポイントを稼ぐものの、後半は疲れからか小さなミスから相手に得点機会を許し、両試合とも逆転負けを喫した。
カナダ戦の後、「体力がない、チーム力をつけなくてはいけない、組織力をつけなくてはいけないという課題が見えた試合だった」と池崎。同日午前中に行われたアメリカとの激しい試合の後で体力が回復していないのではとの質問に、「疲れは言い訳にならない」と答え、ロンドンまでにもっと精度を上げていきたいと語った。

ロンドンパラリンピックに向けて、狙うは金メダル
ロンドンの前哨戦ということで、課題と目標を持って臨んだ大会だった。主将の佐藤佳人は「初戦のイギリス戦でどう戦うか」を試したと語った。ロンドンでは完全アウェイで、しかも1試合目でイギリスと当たるという。「初戦の感触をつかむということも目的としていました」。結果は圧勝。課題をひとつクリアした。こうして、クリアした課題と見えてきた課題とを日本に持ち帰り強化する。
収穫もあった。なにより王者アメリカに勝ったことは選手たちの自信になったという。「今回、正直、アメリカに勝てたというのがすごい自信につながった大会」と佐藤。身になる試合が多く、確実にロンドンにつなげられる大会になったと総括した。
強化委員長でもある岩渕典仁監督は、アメリカに勝ち、オーストラリアと接戦を繰り広げたことで日本は確実に成長していると評価する。「今の日本はすごく強いと思います」と言い切る。ロンドンパラリンピックに向けて残り2カ月、見えた課題をどう修復、強化していくか。メダルはその先にある。
ロンドンの目標を聞くと佐藤は「金、取ります」と当然のことのように言った。岩渕監督も「金メダル取ります」と、頼もしい答えが返ってきた。
7位と低迷した北京パラリンピックが終わって以降、金メダルを取ることを目標にここまでやってきたと監督。国際大会で経験も積み、世界ランク3位まで登ってきた。そして今大会でますます「やれる」という自信をつけてロンドンに臨むのだろう。「金メダル」はその自信の表れに違いない。池崎との両翼で日本を支えるもう一人のエース島川慎一もロンドンまでにはケガから復帰するという。
ロンドンに向け、ウィルチェアラグビー日本代表の視界は良好のようだ。

今大会日本代表の結果

予選
58—46イギリス , 35—27フランス , 56—55アメリカ


準決勝
54—57カナダ


3位決定戦
59—63オーストラリア


順位
1位アメリカ , 2位カナダ , 3位オーストラリア , 4位日本

ウィルチェアラグビー
ウィルチェアラグビーとは日本語で車いすラグビーとも言われる。発祥はカナダ。ウィルチェアバスケットボールに変わる車いすスポーツはないかと探していた車いすアスリートたちによって1997年カナダのウィニペグで考案された。以後、アメリカに渡り、世界に普及。現在ウィルチェアラグビー人口は世界27カ国で3000人。
ウィルチェアバスケットボール、アイスホッケー、ラグビー、ハンドボールの要素を取り入れたこの競技は、迫力とスピードが魅力で、車いす同士の激突は見ている方が思わず息をのむほど凄まじい。バスケットボールと同じ広さのコートに選手は4人。全選手はそれぞれの障害の状態によって、0.5から0.5刻みに3.5までランク分けされ、コート内の4選手の合計が8以下と決まっている。
第1回世界選手権は1995年に開催。1998年に第2回が行われて以降は、4年に一度開催されている。パラリンピックは1996年アトランタ大会でデモンストレーションとして、2000年シドニー大会で正式種目として競われた。カナダカップは2004年に第1回が行われて以降2年に一度カナダで開催され、パラリンピックの年にはその前哨戦として重要な大会に位置づけられる。
この3大大会で王者として君臨するのがアメリカ。2002年世界選手権決勝と2004年パラリンピックアテネ大会準決勝でカナダに負けた2回以外は負けたことがない。その完璧なまでの強さを誇るアメリカを今大会で倒したのが日本。ウィルチェアラグビーの勢力地図を大きく塗り替えるかもしれない衝撃となった。
日本での公式発足は1996年。3大大会には2002年第3回世界選手権から参加している。パラリンピックへの参加は2004年アテネ大会から。結果は8位。前回北京大会は7位だった。
今大会終了後の国際ランキングは、1位アメリカ、2位カナダ、3位オーストラリア、4位日本となっている。

夏季パラリンピックロンドン大会
8月29日から9月9日開催。世界165カ国、選手4200人が参加し、20競技で争われる。夏季大会としては史上最大規模となる。


(取材 三島直美)

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