『社長の脳〜ゼロからでも起業できる!』

D&R Dental Ceramic (2007) Ltd., BIOCAD Dental Laboratories Ltd. 松下秀弥さん

歯科技工士とは

歯科技工士の仕事は、歯科医師の書いた指示書に従い、入れ歯、矯正装置、クラウンなどの歯科技工物を作ることだ。松下さんの会社では、主にクラウン、ブリッジ、ベニアを作っている。歯科医師と比べると、一般にはあまり知られていない歯科技工士の仕事だが、歯科技工物によって患者の口の中の機能、噛み合わせ、審美を改善し、生活の質を向上させるという重要な役割を担っている。専門性が高く、技術の習得には時間がかかるが、座ってできる仕事であり、一度技術を身につければ育児休暇後に復帰することも容易な、女性にもやさしい職業だという。
歯科技工士に影響を与える近年の傾向としては、歯科医師やローカルの歯科技工所がコスト削減や利益向上のために歯科技工物を海外発注したり、患者自身が 安く歯の治療を受けるために海外へ「デンタル・バケーション」に出かけたりする例が増えていることが挙げられる。これらに関しては品質に懸念がある場合もあるため、松下さんは、「皆さんが治療を受ける際は、ご自身の口の中に入るものが、どこで誰によって、どんな材料を使って作られているのか、信頼のおける専門家にアドバイスを受けることをお勧めします」と語った。

女性起業家としてスタート〜手探りの経営

看護士だった祖母の勧めで、手に何か職を付けようと思い歯科技工士になった松下さんは、卒業後、22歳で来加。カナダの歯科技工所で働いていた時、同僚だった夫と知り合い、一緒に起業することになった。なんと彼と知り合ってからわずか一年半ほどで、結婚、移民、起業のすべてを決めたという。しかし、夢と希望を持って起業しても、当初は技術も未熟で、なかなかうまくはいかない。1999年には長女、2001年には長男が生まれ、育児と仕事を両立しなければならない日々。ベビーシッターが見つからない時には、朝4時から仕事をし、その後、家に帰って子供の面倒をみたという。
しかし、一生懸命働いていたにもかかわらず、気がつけば、赤字になっていた。営業を続けるほど借金が増えていった理由は、「毎日、子育てと目の前の仕事に追われて、全然ビジネス全体のことを考えていなかったからです」と、松下さんは語る。その後、会計管理や製造プロセスを改善し、経営を建て直した。

「社長の脳」〜将来から現在を考える

ビジネスで大きな成功を収めた松下さんの義父は、松下さんと夫がビジネスを始めるにあたって、「どの地位につくかによって、脳を使い分けなさい」とアドバイスしたという。これはつまり、社長の地位にいる場合は、社長の考え方をすべきだということだ。「社長の脳」を持つことは、会社の将来から現在を考えることができることだという。まず、将来のビジョン、夢、目標があり、それを踏まえて、今取るべき行動を考える。人材の確保、市場の分析、社会貢献など、やるべきことは多い。自分のビジネスだけに気をとられて偏った考え方をするのではなく、一歩下がって冷静な判断をすることも大切だ。この「社長の脳」は、知識の習得や訓練を通して、誰でも持つことができるものだと松下さんは語った。

「スキマ時間」を活用して、自分を磨く

精神的な強さは、困難を乗り越えてこそ得られるものだ。自分が心地良いと感じる場所(comfort zone)から出て、挑戦する勇気を持つこと。自分への挑戦として、松下さんは2003年に、BC州の歯科技工士の免許を取得した。幼い子供を抱えての試験準備は大変だったが、この時、活用したのが「スキマ時間」。子供を預かってくれるスポーツジムに通い、エアロバイクに乗りながら教科書を読んだ。運転中に子供が眠ると、車を道路脇に止め、子供が目を覚まして泣き出すまで勉強した。こうしたスキマ時間を最大限に活用することで、無事に一回で試験に合格したそうだ。
趣味のマラソンにも力を入れている松下さんは、ランニング・グループに所属して定期的に走っている。日頃の努力の成果を発揮し、今年2月には東京マラソンの10キロ一般女子の部で、見事5位に入賞した。走ることが体に良いのはもちろんだが、ストレス解消になり、自信もつくので、精神的な健康にも良いそうだ。
松下さんは、最後に「礼記」学記の、「玉琢かざれば器を成さず、人学ばざれば道を知らず」(生まれつきすぐれた才能を有していても、学問や修養を積まなければ立派な人間になることはできない)という言葉を紹介し、講演を締めくくった。

 

『プラス思考で人生アップ』

Zest 酒楽 片岡以織さん

経営の知識なしで飛び込んだ飲食業界

1988年に語学留学のため来加した片岡さんは、1990年、元の夫と共に、バンクーバーで日本食のレストランを開業することになった。しかし、当初は「経営の知識、英語力、資金、すべてなかった」と語る。資金調達のため、銀行にビジネスプランを持ち込みたくても、書き方がわからない。インターネットはなかったので、図書館に通い、猛勉強した。試行錯誤の日々が続いたが、幸い、当時バンクーバーにあった日本食のレストランは高級な店が多かったため、「早くて安い日本食」というコンセプトが人気を呼び、店は繁盛するようになった。

「Zest」と「酒楽」の誕生〜人生は経験あるのみ

その後、結婚し、出産後はしばらく主婦業をしていた片岡さんだが、離婚を機に日本へ一時帰国。しかし、その一年後の1999年には、レストラン業務と借金を引き継ぐことになり、再度来加。シングルマザーの店主として再出発することになった。思いがけない展開だったが、この時片岡さんは、「私はラッキーなんだ」と考えたという。借金はあっても、店と顧客はすでにいる。あとは自分次第だ。買い出し、水道の修理、サーバーの仕事まで、できることはすべて自分でする「節約クイーン」となり、二年で見事に借金を返済した。
そして次は、「安かろう早かろう」を売りにするだけではなく、「お客様も自分自身も楽しめるお店」を目指し、2005年、アッパーキツラノに「ワインと日本食」をテーマにした「Zest」を開店した。そして2008年には、「美味しい日本酒」をテーマにした「酒楽」をダウンタウンに新装開店。どちらの店も、レストラン・アワードやワインリスト・アワードなど、数々の賞を受賞している。多くの人に支えられながら、片岡さんが失敗もプラス思考で乗り越えたからこそ、バンクーバーで人気の二つのレストランが誕生したのだ。

言葉のパワーを使ってプラス思考に

プラス思考になるためには、まず、ネガティブの思考を大掃除しよう。実際に自分の発する言葉をチェックし、「多分だめだろう」、「運が悪い」など、ネガティブな言葉を、まずやめる。このような言葉は脳の思考回路を否定的にし、その人の考え方や行動を消極的にしてしまうからだ。
言葉には言霊が宿る。万葉集にも記録があるように、声に出した言葉は、現実の事象に対して何らかの影響を与えるのだ。他人に対しても、自分に対しても、プラスの言葉を使ってみよう。何事にも、言い方は複数あるはず。例えば、「臆病」は「慎重」、「神経質」は「よく気がつく」、「飽きっぽい」は「好奇心旺盛」と表現することができる。良い言葉を使うことが、プラス思考の始まりだ。

ネガティブな考えは、自分の一部ではない

それでも、どうしてもネガティブになることがあれば、50年前からある「セドナ・メソッド」を使うことを片岡さんは推奨した。まずペンを一本持って、手を上に向け、ペンを握り締めながら自分が持っているネガティブな考えをその中に託す。その後、手を開き、ひっくり返すと、ペンが落ちて、自分から離れる。このエクササイズをすることで、考えや感情は真実でもなければ、自分の一部でもないことを実感できるだろう。ネガティブな考えは必ず切り捨てることができるのだ。

プラス思考の人たちと交流しよう〜笑うことが大切

プラス思考の人たちと交流し、その人たちから良い刺激を受けることも重要だ。好きな音楽を聴いたり、ペットや子供と過ごすのも良い。そして、片岡さんが特に勧めるのは、笑うこと。与えても減らず、与えられて豊かになる。笑うことで、人は疲れを癒し、悲しみを和らげることができる。
一つ注意したいことは、プラス思考は、ノーテンキとは違うということ。ノーテンキは、何も考えず、問題があっても何の処置もしないことだが、プラス思考は、目的を持ち、課題に対して前向きな態度で取り組むことだ。
ビジネスのためだけでなく、良好な人間関係を築き、豊かな人生を送るためにも、プラス思考は大いに役立つだろう。

 

若いが経験豊富で、話術に優れた松下さんと片岡さんの講演に、参加者は時折笑いの渦に巻き込まれながら、熱心に聞き入っていた。
困難を苦労だと考えず、常にプラス思考で行動することで、楽しみながらたくさんのことを成し遂げてきた松下さんと片岡さん。明るくパワフルな二人の女性起業家から、多くを学んだ講演会だった。

 

(取材 船山祐衣)

 

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