昨年は「現地の人のあけ方を試したりして迷いがあった」という鎌島典子さん。今年は「自分のやってきたやり方で勝負!!」と、出身地赤穂にちなんで義士装束の出で立ちで登場。唯一の女性選手で、天真爛漫で笑顔を絶やさず競技する姿に、多くの声援を受けていた。

 

 

さて、今年で3回目となるこの牡蠣の早あけ世界大会。アメリカから2人、スウェーデンから1人、デンマークからはヨーロッパ大会の覇者でもあるシモン・トーエンセイジャーさんが参戦。カナダ国内では、トロントから第1回覇者のイーモン・クラークさん。バンクーバーから第2回覇者の通称オイスター・ボブと呼ばれるロバート・スキナーさん。さらにはオタワやモントリオールからも参戦者が相次いだ。

 

 

そして牡蠣の本場、日本。
牡蠣のむき身を作るという意味では、世界で最も多くの牡蠣あけ職人がいるのが日本ではないかと思われるが、日本のオイスター協会には『彩速の十戒』と呼ばれる牡蠣あけ職人の目指す目標が非常に高く設定されている。その目標は『それはお客様の目の前でダース(12個)の美しいプレートを1分で創りあげること。たとえそれが多種多様入り混じる混合プレートであっても。そして、なにより美しくなくてはいけない。速いだけではダメだ。つまりは「彩速」。1個5秒。それはショーであり、マジックであり、最高のエンターテイメントである』。
昨年の優勝記録が1個平均6秒ぐらいであったことを考えれば、これを体現できれば間違いなく世界一である。
日本の予選では、海水をこぼしてしまいがちな事以外は、特にペナルティーがなく、大会当日までにその点を補いさえすれば、十分世界と渡り合えるタイムで、もっとも「彩速」を体現できる技術をもった赤穂市坂越の水産加工会社役員であり、日本オイスター協会が認定する牡蠣のソムリエ『グランドオイスターマイスター』の資格を有する鎌島典子さんが2年連続で参戦した。
迎え撃つ地元ベアフットビストロ・レストランからはブラッドリー・ガーラントさんが参戦し、招待選手13人のそうそうたるメンバーで、牡蠣の早あけ大会としては異例の高額賞金、1位5000ドルをめぐる第3回世界大会が開催された。

 

 

また、会場ではケテルワンウォッカを使ったブラッディーシーザーバトルが同時に開催されていて、シアトルやバンクーバー、地元ウィスラーのレストランや、ベアフットビストロのクリストファー・ホイさんら6人の名だたるバーテンダー達が、賞金5000ドルをかけ、腕を競い合った。

 

2時にオープンしたレストラン会場には、この豪華な「セレブレーション」を楽しもうと、ドレスアップした観客が次々に入場。
会場はDJによる音楽が流れ、ブラッディーシーザーバトルのカクテルやワインを飲みつつ、BC州ソーミル・ベイ・シェルフィッシュ・カンパニー提供の、次々にあけられる新鮮な生牡蠣を食しながら、ベアフットビストロのシェフによる創作料理を楽しんだ。
また会場では、地元アーティストの作品、レストラン提供のワイン、ウィスラーの色々なアクティビティーなどのサイレントオークションも開催され、500人を越える観客が地下のワインセラーから外のパティオまで溢れかえった。
昨年同様バンクーバーの辻ゼンさん、ジュンコさん夫婦やこの日のために来加した友人の寺本怜子さん、治療方法の確立していない難病と闘いながら、HIPPOという車椅子で富士山登頂を成し遂げるなど精力的に活動し、バンクーバーで地元企業のコンサルティングと支社設立準備のために滞在しているフリーバイフリープロジェクトの中岡亜希さん、今月にオイスターバーをオープンされたばかりの葉っぱ居酒屋レストランのシェフ岩井利之さんが中心となり応援団を結成するなど、多くの日本人がこの大会に駆け付けた。

 

 

昨年、大漁旗をあしらった衣装で会場を大いに沸かせた鎌島典子さん。今年は出身地を印象付けようと赤穂浪士の義士装束で登場。
現在、世界の牡蠣市場の80%は日系の真牡蠣が親とのこと。類いまれなる繁殖力・成長力・生命力で世界最強といわれ、世界中の生産者に愛されているが、外国産の牡蠣は、日本の牡蠣に比べ殻が堅いため、各国の代表は屈強な大男ぞろい。またあけ方も兆番側からパワーに任せてあけていくやり方が主流。
そんな中、鎌島さんは「昨年は、現地のやり方を試したりして迷いがあったが、今年は私は兆番を保存して、反対側からいれて、先に貝柱をきゅっと切っちゃう。むき身を作るやり方がそれで、いかに傷がなくて綺麗に早くむけるかというやり方がそれですね。私はそのやり方でならってきたから」と、現地の人から見たら、まるで手品のようなあけ方で真っ向勝負。
予選は、昨年の覇者オイスター・ボブさんや昨年2位のイアン・ベックさんと三つ巴の対戦というまるで決勝戦のような組。しかしながら鎌島さんはタイム的には昨年覇者のオイスター・ボブさんを上回るタイムで3種類30個の牡蠣をあけるという偉業を達成。
これにあけた牡蠣の外観、身のカット状態、身の入っている殻が壊れていないかなども審査されタイムに加算されるので、大いに決勝進出が期待されたが、決勝に進出したのはタイム的には3位だったオイスター・ボブさんだった。予選の組み合わせによっては間違いなく決勝に進出していたはずなので、本当に惜しいところであった。実際に成績は今年の優勝者とも僅差だったとのこと。
鎌島さんも「前年度の優勝者よりタイムは速かったのはすごく嬉しかったです。また来年出られたら決勝に残りたい」とコメント。是非来年に期待したい。

 

 

第3回牡蠣の早あけ世界大会の優勝者は、第1回大会覇者でもあるイーモン・クラークさんに、2位はダニエル・ノトキンさん、3位は第2回大会覇者のオイスター・ボブさんとジェイソン・ナギーさんが分け合った。
そしてブラッディーシーザーバトル優勝はスコット・カリーさんに贈られた。

 

 

また、大会の収益金は、第1回大会が東日本大震災の被災地に、第2回大会がBCチルドレンズホスピタルに送られたが、今回の第3回大会では、アフガニスタンなど戦地被災地の子供たちのために、プレイグラウンドを作ることを通して希望や平和を願う「プレイグラウンド・ビルダーズ」と、「ウィスラー・アニマル・ガロア」へ寄付された。

 

主催者であるリステルカナダ社副社長の上遠野和彦さんは、「3年目となる今年も大会に賛同頂いた多くの皆様のおかげで前年を上回る盛り上がりとなり感謝しております。世界各国から集う牡蠣あけ職人の究極の技を目の前に、BC州自慢の新鮮なオイスターとワインに舌鼓を打つ、しかも慈善活動にも貢献できる、というのは体験とチャレンジの場であるウィスラーの夏のイベントならではだと思います。日本オイスター協会のご協力のおかげで、日本でもこの大会が認知されてきており、来年は日本代表選手応援ツアーという話も上がり、オイスターを通じて日本とカナダの関係が今後更に深まる一助になればと願っております」と語った。

 

(取材 野口英雄)

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