11月中旬、泣きながら混乱している友人から「僕はルナをどうしてやる事もできない………」「ルナ をしばらく預かってくれないか」という突然の電話を受け取りました。ルナとは、私が座禅の会で知り合ったその友人ビルが、分身とも言える程愛着を持ってい る(推定8歳)のメス猫です。

実はその3年前の夏、私が動物の治療をすると知ったビルがルナをちょっと診てと頼んで来たことがあります。ルナはもともとは、彼の借りている家のオー ナーが飼っていた猫でしたが、ビルがその家に移り住んだその日から彼のベッドを占領し、夜はずっと彼と一緒に眠るようになり、結局ビルがそのオーナーから 譲り受けたとのことでした。ところが、のどをゴロゴロ言わせビルにすりよって甘えて撫でてもらいたがるルナは、実際彼が撫でてやると、その途端に牙をむき 出して、爪で鋭く彼の腕を引っ掻き、彼の腕は傷だらけの状態でした。しかも、ルナは人間嫌いで、ビル以外の人間を全く寄せつけないため、心理的なトラウマ があるに違いないと彼は思い、私に連絡をして来たのでした。

電話で行く日を告げ、その日の夕方車を降りて彼の家に向っていくと、大きな白い猫が、既にゲートでキチンとお座りをして待っていました。「ルナ?」と聞 くと、「ミャーオ」と返事をしながら、階段を駆け上がり彼の玄関に案内してくれました。バルコニーからそれを見ていたビルは嬉しそうに、「ルナは君が来る のをわかっていたんだ、すごく賢い猫だからね」と親バカぶりを発揮。

Animal Talk(註1)のセッションを、早速始めました。いつも不思議に思う事なのですが、身体、あるいは心に変調を感じている動物は、すぐぴったりと寄って来 て治療が済むまでずっと私とオーナーの側を離れる事はありません。そして、治療が済み楽になった途端に、さっとオーナーの膝を飛び下り、走って行ってしま います。このときのルナは、とにかくオーナーの彼と初対面の私との間にべったりと寝そべり、「なんとでもして頂だい」とでもいうようなリラックス状態。筋 反射テストで聞いていって分かった情報は、Active Memory(ネガティブな感情記憶)という傷ついた体験が過去にあり、それは2001年の夏に遡るというものでした。さらに、そのことに関係した人は、 勿論その当時はまだこの家に住んではいなかったビルではありませんでしたし、さらに当時のルナの飼い主であった家のオーナーでもありませんでした。それは 子どもで、7人のグループとの情報が得られました。私もビルも、何か狐につままれたような感じでしたが、とにかく筋反射テストから得られた情報は先ず尊重 しなければなりません。ルナがその時に受けたのは「恐怖」という心理的な苦痛だけでなく、同時に身体的なダメージ(左前脚と左肩、腰、鼻孔)である事がわ かりました。ビルが「そういえば、首筋から撫でていって腰の方に降りていくと必ずひっかかれた!」と思い出したように言いました。また、「左前脚は絶対に 触らせない」と言います。「でも、鼻って一体何だ?」と。

治療はその傷ついた心理的な体験、恐怖という感情体験を明確に追体験して、その恐怖を完全に解放するためにEMDRという眼球運動の方法を用います。ま た、身体が記憶している体験は、脳の頭頂葉と身体のその箇所のタッピングで解放します。何故なら、例え身体的な外傷であっても、脳(最近の研究では、人間 の場合、心理的外傷は感情を司る脳―辺縁系の中の扁桃体あるいは海馬に記憶されるといわれている)は記憶をとどめ、さらに傷ついた身体部位の細胞はその傷 ついた体験をしっかり記憶にとどめているのです。そのために、そのネガティブな記憶を解放しない限りは、心と身体は、永久に傷ついていると思い込み続ける のです。

治療後一週間程して、「もうルナが噛み付いたり、引っ掻いたりしなくなったよ!」という、ビルからの明るい声の電話をもらいました。

そして、さらにその一カ月後、ビルが教えてくれたルナの2001年の夏の体験とは、動物治療を始めたばかりの私にとっては、本当だったのだ!と再確認す るような衝撃的な事実でした。というのは、治療をした時、家のオーナーは仕事の出張で不在のため、2001年の夏に何が起こったのか私たちは確かめること ができませんでした。そして、そのオーナーが帰って来たため、ビルが状況を聞いたそうです。最初はそのオーナーも、何年も前のことなのですぐに思い出す事 が出来ませんでしたが、子どもたち7人のグループと聞いた時、「ああー、あれだ!」と思い出したそうです。それは、やはり、オーナーがアメリカに出張で長 期不在の時のこと。夏休みだったのでその家はオーナーのテイーン・エージャーの息子の仲間達のたまり場になっていたそうです。そして彼等は、アルコール、 タバコ、マリファナに浸り、その度にルナが苛めの標的になっていたそうです(身体的な虐待とタバコとマリファナを顔、鼻に吹き掛ける等)。近所の人が見る に見かねて止めに入ったこともあったそうでした。そのオーナーも出張から帰宅した時に隣人からの苦情で初めて知ったことだったのですが。さらに衝撃的なこ とは、ルナはオーナーが帰ってきたのを知ると、忽然と姿を消してしまったのです。オーナーが探すのをあきらめたその約2カ月後、汚れきりぼろぼろになり骸 骨のように痩せこけたルナがひょっこり帰って来たそうです。オーナーは本当に可哀想に思い、生まれたばかりの赤ちゃんを世話するように、お風呂に入れてや り、タオルにくるんでミルクをやって介抱して、なんとか元気なルナに回復させたということでした。

そんな経過をたどって、ルナはビルの元に来たのでした。そして、また、今回ビルが新しい仕事に就き長期の出張が重なったため、母親の元に預けていた所、 ビルの不在中ルナは全く食欲を失くしてしまいました(というより、食べることを拒否してしまっていました)。その結果、元々肥満傾向があったため肝臓肥大 を起こし、頚部を切開して管を通し、そこから流動食と薬剤を注射器で注入する処置がとられていました。それも一日3回ずっと継続し続けないと、ルナは生存 していくことができないといいます。しかも、ビルは来週にはバンクーバーを離れなければならないとのこと。母親は病んでいて、一日3回毎日流動食を作り注 射を施し続けることはできないと言い、ビルは窮してアルバイトの学生を雇い一日3回来てもらっているのでした。さらに里親を探すため、AASなどにコンタ クトをとっているのですが、病気を抱えている猫を引き取る家庭を探すのは非常に難しい状態でした。

ビルの依頼は、「自分は仕事で海外に移り住まなければならない、そこは4カ月経ないとペットを持ち込むことが許されないので今ルナを連れて行く事はでき ない、だから彼女の食欲を取り戻させ、少なくとも4カ月持たせる方法はないか、獣医との話し合いでは、安楽死がもちあがっている」と、再び泣きながら、何 か治療をということでした。ビルがルナに話し掛けソファに座らせようとすると、彼女はものすごく怒りだしすぐさま、ソファから飛び下り椅子の影に隠れてし まいました。その側に近づき、筋反射テストで聞いていくと、ルナの答えは「もう何もすることはない」というものでした。彼女の私に向けている丸まった背中 は「もう生き延びようとは思わない!」という強烈なメッセージを私に伝えていました。

ビルに言いました。「ルナの問題ではなく、あなた自身の問題じゃないの?」「ルナを本当に大切に思い、ルナの側にずっとにいてあげたいと思うならば、あ なたは仕事ではなくここでの生活を選らばなければならないし、でも自分の新しい人生を選びたいと考えているのだとしたら、ルナとは暮らせない。その決断は あなたが自分でするしかないし、私もルナにもそれを代わってすることはできないと思う」


私たちの住むコンドはペットを飼うことを許されてはいませんでした。私には、何もできませんでした。翌朝早く、サンフランシスコの従兄妹を訪ねることになっていたので、私は後ろ髪を引かれる思いで、ルナと別れたのでした。

luna
賢く誇り高いルナ

<この内容は、プライバシーを考慮し、氏名、年月、状況などは、治療のプロセスの説明のための正確さを損なわない限りの、最小限の修正を加えてあります。>

 

註1)筋反射テストを用いて動物の治療を行うBodyTalkの技法。
関心のある方は、
BodyTalk の Website:BodyTalksystem.com
あるいは私のweb site: www.equinespirit.ca
を御参照下さい。



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Holistic Work Counselling & Consulting
Dr. Naoko Harada, Ph.D., R.C.C.
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