2017年12月21日 第51号

モントリオール・ホロコースト博物館とバンクーバー・ホロコースト教育センターでは、展示・講演・映画上映などを通して杉原ビザについて伝えている。

 

MHMにて、左から、エグゼクティブ・ディレクターのアリス・ハースコビッチさん、同館コーディネーターのマリー-ブロンシュ・フールカドさん、同コルネリア・ストリックラーさん、2017年6月(Montreal Holocaust Memorial Centreとあるが、現在の名称はMontreal Holocaust Museum)

 

■ 使命をもって活動

 「ホロコースト」とは、1933年から45年までのナチス政権とその協力者による約600万のユダヤ人への迫害および殺戮のこと。

 モントリオール・ホロコースト博物館(MHM:Montreal Holocaust Museum)と、バンクーバー・ホロコースト教育センター(VHEC:Vancouver Holocaust Education Centre)は、カナダの東西主要都市にあってホロコーストを伝える国内基幹施設として活発な活動を続けている。

 使命は、ホロコーストについて広く人々に伝えること。同時に、反ユダヤ主義・人種差別や偏見・不正への無関心・集団殺戮などに対し注意を喚起し反対すること。そして、人権擁護・社会正義・多様性尊重の促進に向けての考えや行動を啓発すること。

 MHMでは常設展示を、VHECでは企画展示を施設内で行い、ユダヤ系記念日・講演会・映画上映・出版記念会などを通年開催。多くの人々が集っている。

 

■記憶を保存し伝えること

 ホロコーストの記憶を残すため、両施設ではホロコースト生存者による証言の保存が続けられてきた。MHMエグゼクティブ・ディレクターのアリス・ハースコビッチさんは、「当館には800以上の証言が保存されている。そのうち650以上は当館が録画したもの」と言う。その中から二人の杉原ビザ受給者の証言ビデオが当連載の執筆に役立った。

 一方、ホロコーストを伝える強力な方法は、生存者自身が話すことだ。MHMでもVHECでも、生存者による講演会や、生存者がコミュニティーや学校へ行き話す機会を設けている。VHECエグゼクティブ・ディレクターのニナ・クリーガーさんは、「昨年度は、バンクーバーと近郊都市を中心にブリティッシュ・コロンビア州で1万6千人以上の学生たちへの出張講演があった」と言い、寄せられた感想を紹介してくれた。

 「生徒も先生もホロコーストの痛ましい写真を見て、また、愛する人々と再会できなかったことを知って愕然とした。この講演を聞けば考え方や人生が変わる」

 「ホロコーストが二度と起きないようにしなければならない。私たちは、生存者の証言を聞いた証言者だ」

 

■あらゆる来館者を歓迎

 MHMのハースコビッチさんは、「カナダの日系コミュニティーからの来館者はもちろん、日本からの旅行者も歓迎します」と言い、「当館への個人での来館の半分以上は旅行者」と教えてくれた。カナダ国内のみならず、海外からの来館者もある。

 同館の常設展示では、ホロコースト生存者による証言や当時の生活用品、写真や歴史説明を通して、ユダヤ系の人々の生活をホロコースト以前から追うことができる。また、ホロコーストの間、カナダ政府がユダヤ系避難民の救援にどのように関わったのか、あるいは関わらなかったのかや、生存者らのカナダでの生活再建の紹介は、カナダのホロコースト博物館ならではのもの。

 「偏見・反ユダヤ主義・憎しみが何をもたらしたか。同時に、たとえ失望や破壊の中にあっても、希望・心身の強さ・団結が生きることを可能にする。このようなことを理解してもらうための教育や助けになればと思います」。こうハースコビッチさんは語った。

 

■ これからのホロコースト教育 

 VHECのクリーガーさんは、「多様な文化や異なるコミュニティーの人々と共に歩んできたことは当センターの自慢。日系コミュニティーの方々も歓迎です」と言う。

 「バンクーバー・ホロコースト教育センター」という名称にあるように、「教育」を通しての活動を中心に据えている。年齢や知識の深さに応じ、学生向け、教師向けと、どのレベルからでもホロコーストを知り関心を持ってもらい、今世界で起こっている出来事にも投影できるようなプログラムや展示を企画してきた。

 同センターは現在、2018年春の完成を目指し改築中。今後の活動についてクリーガーさんはこう説明する。 

「最強の先生であるホロコースト生存者が、時間の経過と共に減ってきているのが現状。来年、装いを新たにする当センターでは、これからのホロコースト教育のための画期的な方法を模索していきます。ウェブサイトでは、BC州ゆかりの生存者による証言を聞いたり、当時の生活用品、書類や写真などを併せて見たりできるようさらに充実させていきます」

 

■杉原千畝を語る意義

 MHMではこれまで、杉原千畝に関する展示会や映画上映会を開催してきた。また、杉原の写真と説明が常設展示の中に含まれている。ハースコビッチさんは杉原への思いをこう語る。

 「チウネ・スギハラをはじめとし、ユダヤ人を助けるため自らの命の危険をかえりみず抵抗と勇気を発揮した人々の行為は当館が伝えることの一つ。彼らの偉業は、偏見・弱者への迫害・人権侵害・集団殺戮に対して立ち向かうようにと私たちを鼓舞してくれる。モントリオールをはじめカナダを新しい生活の場とした杉原ビザ受給者と彼らの子孫らは、さまざまな領域で多大な貢献を行ってきた。これは、一つの勇気ある行為がもたらした数多くの実りです」

 VHECのクリーガーさんは、バンクーバーと杉原ビザとの関係をこう結び付ける。

 「多くの杉原ビザ受給者がバンクーバーからカナダに入国しました。ここに住み人生を再スタートさせた人々もいる。彼らは、子孫も含め、当地のユダヤ系コミュニティーで活躍し、当センターの活動にも深く関わってきました」

 VHECでは、1996年、『命のビザーチウネ・スギハラ』と出した展示会を開催。2009年には、バンクーバーに住んだ杉原ビザ受給者の娘バーバラ・ブルマンさんの著書『I Have My Mother's Eyes』を出版した。

 クリーガーさんは、「難しい状況下でのスギハラの決断は、ホロコースト教育にとって基本的な学び。同時に、スギハラの遺産とも言えるビザ受給者と子孫らの存在は、ホロコーストの記憶を現在の私たちに伝える架け橋」と話す。

 「ホロコースト」は終わった。しかし、世界では新たな危機が引き続き起こっている。複雑な事情が絡まる中で判断や選択を迫られる時、歴史を振り返ることが指針になるかもしれない。

 カナダのホロコースト教育施設が、杉原千畝と彼が救った多くの命について、これからも語り続けてくれるようにと願う。

(取材 高橋 文)

 

 

両親が杉原ビザ受給者のジュディス・ラーマー・クラウレイさん(当連載5回)。MHMにて、杉原千畝の写真と説明の前で、2017年6月。杉原の写真の下は、ラーマー家の安導券と関連写真。杉原の左隣は、杉原ビザ発給の名目となるキュラソー島上陸ビザを発給したオランダ名誉領事ヤン・ツバルテンダイクの写真と説明

 

VHECにて、エグゼクティブ・ディレクターのニナ・クリーガーさん、2017年9月。手に持っているのは同センターの季刊誌ZACHOR。一番手前は、日本からカナダに向かう船上のユダヤ系避難民の写真を表紙に使い杉原千畝に関する記事を掲載した2015年秋号

 

小学校で話をするホロコースト生存者ロビー・ウェイズマンさん(VHEC提供)

 

 

 

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