2016年10月20日 第43号

豊富な魚の知識をイラストを交えてわかりやすく説明してくれるさかなクン。 全国各地の講演会、テレビや雑誌で引っ張りだこの人気者が、9月末「世界水族館会議2016」に参加するためバンクーバーを訪問。 さかなクンが見たバンクーバー水族館の魅力などをお伝えします。

 

東京海洋大学名誉博士客員准教授・さかなクン

 

 

 世界の水族館関係者、海洋学者などが会する『世界水族館会議2016 (IAC)』で、ひときわ目を引くハコフグの帽子に『Sakana-kun』の名札。

 先月末、東京海洋大学名誉博士客員准教授さかなクンは、バンクーバーで行われたIACに出席した。

 さかなクンは、『ご』を『ギョ(魚)』と言い換える『さかなクン』語と、魚への情熱のこもった話術で、子供から大人までに幅広い人気だ。

 「水産・海洋における学術、文化および国際交流の発展に顕著な功績」をあげたとして、昨年名誉博士の称号を授与された。難しい専門家の話が、さかなクンを通すと楽しいお魚の物語に。学術的な話を柔らかく噛み砕いて伝える語り口は、水産・海洋学の専門家からも賞賛されている。

 さかなクンがバンクーバー水族館の魅力を語ってくれた。

 「バンクーバー水族館に、すぐ近くの『足元の海』をイメージしている水槽があります。防波堤のくいがあって空き瓶とか空き缶が転がってるんです。すギョい(すごい)リアルに再現してあって、しかもこの空き瓶とかも海からとってきたそうなんです。だからフジツボとかイソギンチャクとかいっぱいついてるんです。

 イソギンチャクからも多分自然に増殖してるんですね。ゴカイの仲間とか。この水槽越しに中のバックヤード(研究室)が解放されて見えるんです。お魚達が生き生きと暮らしていて、ただお魚がいるというのではなくて、海藻がなびき、イソギンチャクが壁にもくっついて、本当にそれぞれのお魚たちの暮らしている環境はこうなんですよ、っていうのをすギョく(すごく)さりげなく伝えて下さってることに本当に感動しました」

 自分の目で魚を観察したことを専門家に確認して、魚の魅力を詳細に伝えてくれるさかなクンのスタイル。今回特に気になった魚を、イラストを交えて紹介してくれた。

 「セイルフィン・スカルピン (Sailfin sculpin)は、セイルは帆を立てたようなヒレ、スカルピンってカジカっていう意味なんですね。印象としましては、顔つきはオコゼカジカちゃんそっくりなんですけど、とにかく背びれが立派でその背びれをブンブン振るんです。『おーい僕はここだぞ!』『あたしここよー』みたいなかんじで振り方がまたかわいい。第一背びれというトゲになったヒレと、第二背びれという2番目に横に長く伸びたヒレが軟条(なんじょう)と言いまして、柔らかいヒレでできているんですね。この軟条、やわからいヒレがこうやってたなびくように動くんです。で、たなびかせてこのように立った第一背びれのトゲもブンブン振りながら泳ぐ。他のお魚にはない(動き)ですね。

 大きさは、大きくなっても15〜20cmくらい。科としてはスズキ目ケムシカジカ科になります。

 以前、北海道の知床の海に潜った時に、この子にすギョく(すごく)近い仲間のオコゼカジカという『オコゼ』と『カジカ』をくっつけたようなかわいい魚に会いました。おっきくてキラキラ輝く目、アライグマみたいな目のバンド(模様)を見て『なんてかわいい、なんて美しい目をしたお魚だろう。』って感動しました。かわいいのと、かっこいいのと、勇ましいのと、いろんな素晴らしい要素のつまったこのお魚を見て、こんなお魚がいるんだ、やっぱり世界は広いなーと思って」

 さかなクンは昨年までセイルフィンスカルピンを育てていたそうだが、実はその魚は、沼津港深海水族館シーラカンスミュージアムの石垣幸二館長が、バンクーバー水族館で飼育繁殖に成功した魚を譲り受けたものだった。

 「だからまさに、故郷のお魚ちゃんたちに会えたというか、すっギョく(すごく)うれしくて!」

 

 もう一種、クチバシカジカ (Grunt sculpin)もご紹介。

 「クチバシカジカちゃん。これがまた、かわいいんですねー。名前の通りクチバシのような口をしてまして。二頭身な感じなんです。 日本ではイノシシに例えられちゃったりするんですけど。

 クチバシカジカちゃんがバンクーバーの水族館さんではすごい人気がある、というのは私、本で読んで存じ上げていたんです。で、いつか見てみたいなと思っていたんですね。

 日本では 岩手県種市町の磯崎司さんというホヤ漁師さんが、お仕事の合間に水中写真を撮られていて、20数年前に、このクチバシカジカちゃんを発見されたんです。そして、サンシャイン水族館(東京都)さんが、磯崎さんが海から捕まえてきたクチバシカジカちゃんを大切に育てて卵から孵化させて赤ちゃんが生まれたんです。

 元北海道大学の阿部拓三先生が、さらに研究して論文で発表されました。その阿部先生が繁殖させた2011年生まれのクチバシカジカちゃんを私は頂いて、しばらく飼っていたんです。

 日本のクチバシカジカはこんなにヒレが赤くない。こんなにコントラストのはっきりしたヒレじゃないんですね。もうちょっと体の色と同じように黄色い色をしているんです。すっギョい(すごい)かわいくてゼンマイ仕掛けのおもちゃみたいにツンツン動くんですよ」

 

 他にも、北極の海で卵が漂流して孵化するまでに一カ月近くかかるホッキョクダラについて、メモで確認しながら、

 「冷蔵庫で0.4度で飼育するそうなんですけど、0.4度ってすギョい(すごい)ですよねー」 と語り、実は数カ月前、バンクーバー水族館から葛西臨海水族園(東京都)に寄贈されていたホッキョクダラに『会っていた』ことなどを話してくれた。

 さかなクンの話には、実際に交流をしている漁師さんや研究者の名前が多く登場し、専門家の皆さんへの尊敬と信頼が強く感じられる。

 それは、さかなクンの少年時代からの経験からも裏打ちされている。

 「自分が好きなことを続けてこれたのは、自分自身が好きなことにしか集中できないというのは大きいということなんですけど、魚を描くことが大好きだったのを母が応援してくれて、魚市場とか、魚屋さんとか、水族館とか、ほんとによく連れて行ってくれたんです。小学校から帰って近所の魚屋さんとか、一人で自転車で巡ってる感じで、けっこう行動派でした。魚屋さんとか、熱帯魚屋の店員さん、割烹料理屋さん、お寿司屋さん、魚のプロに囲まれて。たくさんかわいがって下さり、かつ教えて下さったんですね。それがすっギョく(すごく)生きた知識というか、生きた学習になりました」

 

 インタビュー中も、世界で最も人気があるといわれるモントレーベイ水族館(米国)のライアン・ビゲロさんが立ち寄ったり、世界の水族館の研究者と交流を深めたさかなクン。

 IACで世界の水族館のトップレベルが集まって、長年培われたノウハウを共有する様子に感銘を受けたそうだ。

 「資源が減少している魚とか希少動物を来館者の方にどうやってもっと興味を持って知ってもらうかなど、たくさん刺激を頂きました。水族館さんの当事者ではないですので、逆に水族館でこんなとこ見たいとか、こういう工夫してこんな展示になったら、もっと水族館の方も来館者の方も同時にワクワクできるんじゃないか、いろんなアイディアが湧きそうな気がします」

 

 2年後の「国際水族館会議2018」は、福島の復興を国内外に発信する期待を込めて、ふくしま海洋科学館・アクアマリンふくしま(福島県)で開催されることが決まっている。

 さかなクンもぜひ参加して、各国の専門家と今回以上に掘り下げた意見を交わしたいと話していた。

 最後に、バンクーバーの子供たちに伝えたいことは?

 「やっぱり自分の目で見て、手で触れて、耳で聞いて、自分の鼻で香りをかいで、しっかり自分の舌で味わってみて、ギョ感(五感)で得た感動っていうのは、もう何よりもすごく吸収できると思うんです。『自分で得る感動』ですね。自分が夢中になれることとか自分が興味持ったものを大切にしていただけたら素晴らしいです」

 遠洋漁業で世界を知る地元の漁師さんから「今の時期、バンクーバーは松茸がうめぇぞ」と勧められてきたさかなクン。

 専門家と絶妙なタッグを組んで、世界を所狭しと飛び回る、さかなクンの『ギョ感』はますます研ぎ澄まされている。

(取材 大倉野 昌子)

 

さかなクン
年齢 成魚
東京海洋大学名誉博士 客員准教授
2010年 絶滅とされていたクニマスの生存確認に貢献。
2012年「海洋立国推進貢献者」として内閣総理大臣賞を受賞。
特技の「バスサックス」奏者としても幅広く活動。
日本魚類学会会員。文部科学省日本ユネスコ国内委員会広報大使など。

 

界水族館会議に参加するさかなクン(写真 ロッキー宮内さん)

 

セイルフィン・スカルピン(イラスト・写真 さかなクン)

 

バンクーバー水族館のクチバシカジカ(写真 さかなクン)

 

IACにて(左から)さかなクン、沼津港深海水族館石垣幸二館長、ブルーコーナー桑本敦海さん(写真 ロッキー宮内さん)

 

各国の参加者に手書きのメッセージカードを用意(メッセージ・イラスト さかなクン)

 

IACで講演するアクアマリンふくしま・岩田雅光さん

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。