SPECIAL 2010

2010年12月16日 第51号 掲載


スティーブストンで柔道を通して子供たちと触れ合い
‐柔道家・井上康生さん、スティーブストン日本語学校を訪問‐


手作り感いっぱいの雰囲気が漂う会場。子供たちの笑い声が終始響いていた

子供たちから贈られる歓迎のあいさつを、笑顔で見守っている井上さん

「嫌いなものはありますか?」と聞かれ、「ありません。好き嫌いせずに何でも食べると僕のように体が大きくなりますから、お母さんの言うことを聞くように」との言葉にお母さんたちがうなずいていた 

一生懸命練習した遊戯を披露する最年少組。必死なのはお母さんたちだったかも 

歓迎会の後、サインを求める子供たち一人ひとりに丁寧に応じる井上さん。写真撮影にも気軽に応じていた

 

シドニー五輪柔道100キロ級金メダリストで柔道家の井上康生さんが11月30日、スティーブストン日本語学校を訪れた。

 シドニー五輪柔道100キロ級金メダリストで柔道家の井上康生さんが11月30日、スティーブストン日本語学校を訪れた。

 この日の夕方、学校内は何やらソワソワした雰囲気に包まれた。続々と集まってくる子供たち。プリスクールからグレード9、4歳から15歳までの同校生徒と卒業生合わせて約50人、それに保護者と先生たちが大教室で井上さんを出迎えた。

 クラスごとに井上さんを歓迎する歌やあいさつ、遊戯を披露した。会場は終始和やかで賑やかな雰囲気に包まれていた。

 みんな日本語の勉強の合間に、一生懸命練習したに違いない。そんな子供たちからの歓迎のプレゼントを井上さんは終始笑顔で受け止めていた。

子供たちからの鋭い質問に、井上さんもタジタジ

 子供たちからの質問に井上さんが答えるという質問コーナーでは、なかなか鋭い質問が投げかけられた。

 「子供は何人ですか?」という質問に、保護者からは笑いが。井上さんは「タイムリーな質問ですねぇ」と笑って、「1歳半の女の子が一人と、5日前に生まれたばかりの男の子の2人です」と満面の笑みで答えた。「まだ会っていないので、会えるのをすごく楽しみにしています。実はまだ名前も決まってないんです」との言葉に、「えぇ〜」と会場がどよめいた。

 また、「英語知ってる?」と聞かれて、「知ってないです」と苦笑い。「みんながここで日本語を勉強しているように、自分も今英語を勉強しているところです」と丁寧に答えた。

親子間でも、柔道でも、コミュニケーションが大事

 井上さんが柔道を指導する場合、どういうことを心掛けているのか、子供と接するときの参考に教えてほしいという質問が保護者から出た。

 これに対して、「自分は、思ったことをストレートに伝えるように心がけています」と答えた。これまで自分を指導してくれた先生たちも、育ててくれた両親もそうだったし、子供のためを思ったらストレートに接することが一番だと思うと、真っ直ぐな回答を送った。後はコミュニケーション。「私の父は厳しくて、よく怒られたけど、その後には、必ずその理由を説明してくれました。もし、理由を言ってくれなければ、今でも怒られた意味も分からないままです。コミュニケーションを取ることでお互いが分かり合えるということは大きいと思います」。自分の取った行動への説明責任を果たすことで、相手が子供であっても、大人であっても、お互いの理解が深まるということ。そして「心から情熱を持って向かうこと」が大事だと語った。

夢を持って頑張ってほしい

 「柔道は楽しい?」という子供からの質問に、満面の笑みで「楽しいです」と答えた。「自分は、柔道が好きで仕方がないんです。だからこれまでも続けられたし、これからも続けていきたいと思っています」と語った。そして今度は井上さんから子供たちに質問が投げられた。「夢を持ってますか?」と。

 「自分は、小学校の時にはオリンピックに出るんだ、強くなるんだという夢を持ってやってきました。みんなも、大きな夢を持って頑張ってください」と井上さんから子供たちにエールが送られた。

「成長を楽しみにしています」

 井上康生さんは、当地で開催された柔道クリニックでの指導のために1週間前からバンクーバー入りしていた。クリニックにはBC州をはじめ、ワシントン州や遠くはサンノゼからも来ていたという。元日本代表オリンピック金メダリストの指導が受けられるとあって、100人以上が参加したと聞いた。

 井上さんは現在、英語研修と欧州の柔道指導法や柔道事情を研究するために、イギリスのエディンバラに滞在している。日本オリンピック委員会(JOC)のスポーツ指導者海外研修員として長期派遣され、2008年12月から来年1月まで滞在する予定という。

 その合間に、北米に渡り、アメリカ東海岸、そして今回バンクーバーにも足を伸ばして柔道の指導を行った。

 初めて訪れたバンクーバーの印象を「町も素晴らしいし、人も温かい」と語った。各地で指導をしているけれども、それによって自分自身もいろいろな経験がしたいと思っているし、訪問することによって、夢や目標を持ってもらえるならすごくうれしいと語った。

 「僕と出会ったことで柔道に興味を持ち、始めてくれるとすごくうれしい。今日、出会った子供たちが、次会う時には、さらに成長していることを楽しみにしています」と、今度は家族を連れてぜひまた来たいと語った。

校長先生の熱意が実って、日本語学校訪問が実現

 今回は、同校校長の大山春恵先生が熱望し、井上さんのバンクーバー訪問に尽力した、柔道関係者の協力で実現した。

 柔道金メダリストというトップアスリートと触れ合うことで、子供たちが何かインスピレーションを受けることがあればいいと思ったという。

 「今回、訪問していただいて、本当に良かったです。子供たちもすごく喜んでいました」と無事歓迎会を終わらせたこと、子供たちの笑顔が見られたことにホッと胸をなでおろし、顔をほころばせた。

 歓迎会が終わった後、5分だけと無理を言って、サインや記念撮影の時間を取ってもらったという。しかし人気者の井上さんの前には長蛇の列が。それでも、最後まで一人ひとり丁寧に応じていた姿を見て、「ほんとに優しくて」と感動していた。

 スティーブストン日本語学校は、去年、創立50周年を迎えた。今年の2月にはバンクーバー五輪で活躍した選手たちが訪問するなど、行事が目白押しの慌ただしい1年だったと、大山先生は振り返る。「子供たちにも、保護者の方たちにも、すごく心に残る1年でした。今回の井上さんとの触れ合いも子供たちにとって心に残るプレゼントになったと思います」とうれしそうに語った。

(取材 三島直美)