MAPLE 2010
2010年1月14日 第3号 掲載
 

バンクーバーパラリンピック初参加で、初メダルを目指す
ウィルチェアカーリング日本代表インタビュー



ストーンの位置を支持するスキップ中島さん。スウィープなしで指示された場所にピタリと決めるその技はカーリング以上。この正確性もウィルチェアカーリングの醍醐味

 バンクーバーで3月12日に開幕するパラリンピック冬季大会。アルペンスキー、クロスカントリースキー、バイアスロン、アイススレッジホッケー、ウィルチェアカーリングの5競技で10日間の白熱した戦いが繰り広げられる。


 

 日本はこれまでパラリンピックでは多くのメダルを獲得してきた。しかし、ウィルチェアカーリングの出場権を獲得したのは今回が初めて。その日本代表の座を射止めたのが、昨年全日本選手権5連覇を成し遂げた信州チェアカーリングクラブ。日本のウィルチェアカーリングの草分け的存在でその強さは国内では圧倒的。今年バンクーバーで開かれる世界の大舞台でその実力を発揮する。

 信州チェアカーリングクラブ(長野)の主力4選手、中島洋治さん(スキップ)、市川勝男さん(サード)、比田井隆さん(セカンド)、斉藤あや子さん(リード)に、チーム埼玉から小川亜希さん(リザーブ)を加えて、日本代表内定チームとして昨年11月バンクーバーで合宿した。


チームカナダと一緒に記念撮影

 

代表チームにインタビュー


チームのパラリンピック出場が決定
 日本のパラリンピック出場は、去年2月の世界選手権の結果で決まった。日本選手権での結果によってパラリンピックへの代表が決まるとあって、チームは当然優勝を目指して試合に臨んだ。

 「日本選手権で優勝が決まった時、(パラリンピック出場権と)5連覇を達成したこともあって、その喜びは大きかったですね」と中島さん。5連覇達成とパラリンピック代表権獲得を同時に成し遂げた。比田井さんは「頑張った甲斐あってうれしいの一言でした」と振り返った。


スキップ中島さんの一投。後ろで支えるのは比田井さん



 日本では敵なし。これまで日本代表として世界選手権などにも出場してきた。世界とも対戦している。それでもパラリンピックは雰囲気が全く違うのではと想像する。

 2008年に開催された夏季パラリンピック北京大会にアーチェリーの日本代表として出場した経験を持つ斉藤さんは話す。「世界選手権とパラリンピックはまた雰囲気が全然違います。応援の人数も違うし。カーリング会場なら4シート同時に試合をするのでなおさら応援がすごいのではないかと想像しています。北京の時でさえ、つい舞い上がってしまいましたからね」

 それでも初出場にそれほどプレッシャーは感じていないという。メンタルトレーニングは各自すでに行っている。「普段通りのプレーができればいいんではないでしょうか」と大ベテランの比田井さんがチームを代弁した。

カナダでの合宿の感想
 今回の合宿の目的は自分たちの足りないところを見つけること、と内堀勝司コーチ。さらに、本番会場ではないが、バンクーバーで使用されているアイスの状態がどういうものなのかを知ることもあげた。「気候が全然違うのでアイスが違うのは当たり前なんですが、そういうのを早めに知って対応する能力も本番では必要になりますね」。

 市川さんは、「初めての氷でも適応できなければ勝負にならないので、どっちが早く氷をつかむかということになると思います。そういうところも気にしながら今回の合宿に臨んでいます」といい、小川さんは「氷の環境が違うところでのトレーニングは日本ではできないこと」とカナダでの合宿の成果を語った。

 しかし、真の成果が出るのはもちろんパラリンピック本番。「今回の合宿の成果については、3月に出ればいいのかなと思っています」と中島さん。内堀コーチも、今回の合宿で見つけた各自の足りないところを、本番までに克服し自分のものにして、いいゲームを作って勝てたらいいと語った。

カーリング王国カナダを実感
 バンクーバーでの合宿の感想でほぼ全員が口にしたのが、カーリング人口の多さと施設の充実ぶりへの驚き。「施設がすごく立派で、多くの人が利用しているのに驚いた」と市川さん。比田井さんは、「健常者のチームも、チェアカーリングのチームもカナダは世界トップなんですよね。今回この環境を見せてもらってさすがだなと思った。日本に帰ってもこういう環境を作ってもらえればと思いますね」と感想を口にした。

 市川さんも「車いすに限らず、障害者の人もチームを組んで(健常者の中に)入ったりとかしているのがすごい。こういうところは僕らの地元でも進めてもらったらいいかなと思った」と語った。

チェアカーリングの魅力
 日本では、チーム青森の活躍もありカーリングも知られるようになった。しかし、ウィルチェアカーリングはまだまだ知名度が低い。そこでその魅力を聞いた。すると、『静けさの中に溢れる熱気』と全員が声を揃えた。

 ウィルチェアカーリングとカーリングの最大の違いはスウィーピングがないこと。カーリングで見かけるストーンの進行方向を2選手がスウィープして方向を変化させるという作業がない。そのため、その時に掛けられるカーリング独特の大きな掛け声もない。会場は常に張りつめた静けさに包まれているが、カーリングの試合の熱気はそのままというのがウィルチェアカーリングの魅力だと教えてくれた。

 さらに、スウィープがないので、ストーンの動きがよくわかるのも魅力のひとつ。正確性が問われるその緻密なショットには脱帽する。ルールはカーリングとほぼ同じ。「会場に足を運んで見てもらえれば、その魅力はよくわかると思います」、全員が同じ思いを口にした。

カナダ代表チームと練習試合
 インタビューの翌日、カナダ代表チームとバンクーバー・カーリングクラブで練習試合を行った。

 試合は、後半追い上げた日本チームが8―3で勝利。スキップの中島さんは、「勝たせてもらったのでしょう」と試合後、笑顔を見せた。市川さんは、「最初は我慢の展開だったけど、第7エンドで3点取れて楽になった」と振り返り、「勝ったということが自信になる。体調を整えて、(本番では)100%の力を出せるように頑張りたい」とチームの言葉を代弁した。

 対戦したカナダ代表チームのスキップ、ジム・アームストロングさんは、チームの状態はこれから上げていくところだとしながらも、「日本チームは、冷静でいいプレーをしていた。練習すれば、もっといいチームになっていくに違いない」と対戦した感想を語った。カナダチームは試合翌日にはヨーロッパ遠征に出発した。


サード市川さん。ウィルチェアカーリングではスティックを使って投げるのが一般的。車いすを固定するために、他の選手が後ろで支えている

 

パラリンピックでの目標

 


リッチモンドで行われた練習の後、全員で集合写真。前列左から、中島さん、市川さん、比田井さん、斉藤さん、小川さん、後列左から、内堀コーチ、メディカルスタッフの飯野明子さん


3月パラリンピックでの目標を全員に聞いた。
中島さん:メダルを。色はありません。
市川さん:上位入賞。できればメダルを持って帰りたい。
比田井さん:出場するからには高いところを目指して。
斉藤さん:一応入賞、できればメダルを。目標は高く、色は一番いい色を。
小川さん:実力が出て、いい結果が出ればいいのでは。そうすれば入賞できると思う。
内堀コーチ:勝てるだけ、勝ってほしい。予選さえしっかり戦ってくれればメダルも可能。

 ウィルチェアカーリングは前回のトリノ大会から正式種目となった。日本でも馴染みが薄く、あまり知られていないのが実情。今回、パラリンピック出場が決まり、少しでも知られて国内で競技人口が増えれば、現在のチェアカーリング環境が良くなれば、というのがチームの思いでもある。

 市川さんは、「メダルを取れば、身体障害者の人にいろんな部分で勇気を与えることができるし、強化アスリートの人々は普及という役割も兼ねているので、しっかりとしたプレーをしたいと思います」と障害者アスリートの思いを代弁した。

 チーム一のベテラン75歳の比田井さんは、「一生に一度出場できるかできないかのパラリンピックなので、経験したことを日本に持ち帰って若い人に指導して競技を発展させていきたい」とパラリンピックにかける思いを語った。

 代表内定チームは昨年12月、パラリンピック日本代表として正式発表された。

 パラリンピックウィルチェアカーリングは、3月13日に予選が始まり10チームによる総当たり戦が毎日行われ、決勝は3月20日に行われる。日本代表の初陣は13日のイタリア戦。パラリンピックへの歴史の一ページを開ける。


インタビュー中の選手たち。左から、比田井さん、小川さん、市川さん


(取材 三島直美 / 写真 丸山進)