SPECIAL 2009

2009年12月17日 第51号 掲載


日本・カナダ商工会議所、企友会共催
コリン・ハンセンBC州副首相・財務大臣 講演昼食会
「HST& After the Olympics」


HST導入がBC州の国際競争力を高めると強調するハンセン氏

BC州副首相・財務大臣のコリン・ハンセン氏とパシフィック・ウエスタン・ブリューイング社の小松和子社長

ハンセン氏の講演を聴くため、日系コミュニティーから多くの人々が集まった


 11月20日、 日本・カナダ商工会議所、企友会共催のコリン・ハンセンBC州副首相・財務大臣の講演昼食会がコースト・プラザ・ホテルで催された。2010年7月からの導入を控え、人々の関心が高まっているHST Harmonized Sales Tax)について財務大臣から直接話を聞くことができる貴重な機会とあって、会場には約120人の参加者が集まった。活発な質疑応答も行われ、非常に有意義な講演会となった。

 BC州では多くの日本人移民が活躍しており、日加両国の繁栄に貢献している。しかし言葉の壁などもあり、移民がカナダの社会や政治に積極的に関わることが難しい場合も多い。過去数年で最も大きな税制改革となるHST導入について、日系コミュニティーの人々が十分に理解し、政府と意見を交わす機会を持つことは非常に重要なことだ。会場には在バンクーバー日本国総領事館の武藤一郎主席領事、パシフィック・ウエスタン・ブリューイング社の小松和子社長、リステルホテルの上遠野和彦氏ら約120人の参加者が集まり、この講演会に対する関心の高さが伺えた。ハンセン氏はHSTの説明に特に長い時間をかけ、聴衆からの質問にも丁寧に答えていた。

金融危機で大きな影響を受けたBC州
 小松社長に紹介され壇上に上がったハンセン氏は、まず過去一年半の間にBC州が直面してきた状況を振り返ることで講演を始めた。ハンセン氏にとって忘れられない日となったのが、2008年9月12日だという。その日の午前中、四半期ごとに用意されるBC州政府の歳入見通しが入ってきており、報告書の中では大幅な財政黒字が予測されていた。これでさまざまな公共サービスに資金を投入し、税率を下げ、選挙に備えることができる、と満足したハンセン氏。しかし、その日の午後、リーマン・ブラザーズ破綻の情報が入ってきたのである。そして9月15日にはリーマン・ブラザーズは破産法申請に追い込まれ、その後金融危機が世界を襲ったのだ。BC州もその影響から逃れることはできず、BC州政府の歳入はその後毎月減少し続け、予測されていた財政黒字は消え去った。「これ以上悪くなることはあり得ない」と思うたびに、状況は悪化していく。上昇すると思われていた天然ガスの価格が実際には下がったことなどから、天然資源産業も不調となり、BC州政府の歳入は下がる一方だったそうだ。この3カ月ほどでやっと経済状況は改善し始めており、就職率、 新規住宅着工数、消費者信頼感指数、小売業販売額などのあらゆる経済的指標が少なくとも底入れの兆しを示しているが、それでもなお、BC州が歳入の増加を見込めるのはかなり先になる。

HSTを導入するメリットはどこにあるのか
 この背景を知った上で、HSTについて考えることが必要だ。なぜ現在のGST(連邦政府による物品サービス消費税5%)とPST(州政府による物品サービス消費税7%)のシステムから、HST(12%)へ移行すべきなのか。ハンセン氏は、HST導入には企業課税の負担軽減という側面があることを強調する。PSTと違い、HSTは付加価値に対して課されるため、企業が製造のために機械や材料を購入する際には課税されないからである。

 ハンセン氏は講演の中で、 木造住宅などによく使われる2インチ×4インチサイズの構造用製材を例に出して、HSTについてわかりやすく説明した。消費者はこの製材を買う時、5%のGSTと7%のPSTだけを払っていると思うかもしれない。しかし実際にはそれらの消費税がかかる前に、価格の中にすでに多くのPSTが隠れているのである。例えば、この製材に使われた木が切られた時に使われたトラックやそのトラックのタイヤにもすでにPSTがかかっているのだ。PSTは製造、出荷、販売、マーケティングなどバリュー・チェーンの中のすべての活動において課されており、最終的な消費者がこれを負担している。BC州政府がPSTから得る税収55億ドルのうちの約40%は製品が最終的な消費者にたどり着く前に課されているという。

 また、PSTと投資には深い関係がある。現在企業の実際の税負担(実効税率)の約35%がPSTであり、企業が投資する際にこれが大きな妨げとなっている。HSTの導入で、この実効税率が約40%軽減されるという。もしBC州がPSTを廃止しなければ、企業が投資先として他の州を選んでしまう可能性が高くなるのだ。

なぜ今、HST導入するのか
 このようにPST廃止にはさまざまな利点があり、すでに何年もの間HSTへの移行は検討されてきたという。それではなぜ急に導入時期が来年に決まったのか。ハンセン氏は、この決断には連邦政府が大きく関わっていると説明する。連邦政府は以前、カナダの全州で一律のHST13%を課すことを提案していた。HSTが13%では、現在GSTが5%でPSTが7%のBC州にとっては大幅な増税となってしまう。BC州政府がこれに賛成することはできなかった。しかし今年になって連邦政府がBC州のHSTは12%で良いと判断したため、HSTへの移行が現実的になったのだ。また複雑な仕組みを持つBC州のガソリン税についてはHST導入に影響されないことが決まり、これもBC州政府にとって大きな助けとなった。加えて連邦政府は、HSTへの移行のために16億ドルをBC州政府に提供することも決めた。これらの要因が重なり、HST導入の決定につながったのである。オンタリオ州に遅れをとって、投資を予定している企業を奪われてしまうことがないよう、HSTを導入する日はオンタリオ州と全く同じ2010年7月1日となった。

 聴衆の中に貿易に携わる人が多くいたこともあり、ハンセン氏は講演の中で、HSTへの移行が輸出品の価格を下げることを強調した。
日本はカナダにとって米国に次ぐ第二位の貿易相手国であり、BC州から日本へは木材の輸出が特に盛んだが、近年日本の木材市場におけるカナダの市場シェアは減少しているという。それはなぜか。ハンセン氏はスカンジナビアの国々が日本で市場シェアを拡大していることに懸念を示した。これらの国々はすでに付加価値にだけ課される税金のシステムに移行しているため、低価格で木材を輸出することができるという。HST導入後、多数の消費者が今までより高い消費税を払うことになるのは確かだ。しかし多くの企業はPST廃止でコストを削減することができ、BC州の国際的な競争力は高まると考えられる。

オリンピック後のBC州経済に必要なのは投資
 さて、バンクーバー冬季五輪が近づいてきているが、ハンセン氏はオリンピック後のBC州経済の展望をどう見るのか。まずハンセン氏は五輪開催がBC州経済にとって非常に大きな刺激となることを力説した。世界中から25万人の観光客、1万5000人の報道関係者、8000人の選手や審判員がバンクーバーに集まるのだ。そしてそれ以上に重要な存在は、30億人のテレビの視聴者だ。世界中の人々がBC州に注目する。これは未来の観光客、移民、そして投資家をBC州に引きつけるための絶好の機会だ。私たちは日々、世界の投資マネーが減少しているかのような報道を目にするが、実際には文字通り何兆ドルもの投資マネーが行き場を探し求めているのだとハンセン氏は主張する。中東のドバイやアジア太平洋地域から、BC州への投資を検討するため多くの視察団が派遣されているそうだ。これから2010年にかけて、BC州の国際競争力の高さを世界の人々に明らかにすることが出来れば、BC州は新たな経済成長を実現していく。BC州は他の多くの州に比べて低い法人所得税・中小企業税を維持しており、個人所得税(所得18万ドルまで)に至ってはカナダで一番低い税率を誇る。

 ハンセン氏は「BC州には明るい未来が待っている。私たちには楽観的になる理由がたくさんある。HSTへの移行は、世界のあらゆる場所に存在する好機をつかむための第一歩なのだ」と締めくくった。

注目すべき5つの産業
 BC州経済の中で特に重要な産業については、ハンセン氏に代わり、プライス・ウォーターハウス・クーパース(PWC)のエドワード・マンスフィールド氏が詳しく説明した。2010年のBC経済の見通しについては専門家の間でもさまざまな意見があるが、GDPは2%〜4.4%増加すると予測されている。経済全体が回復していく中でPWCが特に注目している5つの産業が、森林産業、鉱業、創造産業(映画・音楽・出版など)、エネルギー産業、そして観光産業だ。マンスフィールド氏はこれら5つの産業全てが、今後順調に成長していくと語る。聴衆の中にはこれらの産業に携わっている人も多く、スクリーンに映し出された数々のデータに注目が集まっていた。

HSTが消費者にもたらす影響
 その後、ゼウス・インターナショナル・アカウンティング・サービスの白木真知子氏から、HST導入によって影響を受ける物品・サービスについて日本語での説明があった。

現在PSTがかかっておらず、来年7月のHST導入を機に消費税が5%から12%に上がるものには以下のような物品・サービスが挙げられる。

家庭の電気代・ガス代、ケーブルテレビ・電話代、食料品全般(野菜・果物などは除く)、処方薬以外の薬、ビタミン剤などのサプリメント、自転車、文房具類、新聞、雑誌、ヘルメット、ライフジャケット、スモーク・ディテクター、消火器、ヘアカット、エステ、ドライクリーニング、電化製品の修理費、家の改装費・ペインティング、映画館入場料、葬儀費用、会計士費用、ホームケアの費用、カナダ国内の航空券、 不動産売却時の手数料

 しかし、ガソリン、ディーゼル燃料、本類、子供服・靴、子供用カーシート、赤ちゃんのおむつなどの物品については、現在PSTがかかっていないだけでなく、HST導入後にも消費税は5%のままになるという。

 米国公認会計士である白木氏は、新築の家の購入時のリベートや、PSTからHSTに移行する期間に適用されるルールについても明らかにし、参加者は熱心に聞き入っていた。

 約二時間にわたる講演昼食会は企友会副会長の松原雅輝氏の挨拶で幕を閉じた。BC州に住んでいる限り、私たちは日々努力を重ね、BC州そしてカナダの政治、経済、社会について考え、自分の意見を持つべきだ。ハンセン氏を迎えた今回の講演会は多くの参加者にとって、それを実現するための大きな一歩となったのではないだろうか。

 

(取材 船山祐衣)