SPECIAL 2009
2009年11月5日 第45号 掲載
![]() 左より、カイル徳元氏、マツピソット由紀子氏、原田直子氏 |
9月23日、在バンクーバー日本国総領事館にて、同総領事館と日加ヘルスケア協会共催の2009・メンタル・ヘルス・セミナー・パート2が開催された。1週間前に行われたパート1に続き、今回は3人のカウンセラーによるストレスマネージメントと題し、3人のメンタルヘルスの専門家から、日々のストレスに対処し、バーンアウトしないための方法について、実習をまじえての講演が行われた。当日は平日の午後にもかかわらず、若い人から年配の人まで多くの人が参加し、熱心に講演を聴いていた。
ストレスの対処法〜リラクゼーション法を学ぶ〜(BC州ソーシャルワーカーカイル徳元氏)
カイル徳元氏の講演では、まずストレスとは何であるかとその種類について、そしてストレスマネージメントの方法とその1つである自律訓練法の説明、最後に自律訓練法の実習が行われた。
ストレスとその種類
ストレスとは、カナダのハンス・セリエ博士が導入した言葉で、生体の中に起こる生理的、心理的歪みのことである。医学的には、外部からの刺激「ストレッサー(日本では同じくストレスと呼ばれることが多い)」によって起こる生物学的反応を指す。
そしてこのストレス(ストレッサー)は、大きく4つの種類に分けることが出来る。1つは物理的ストレスで、災害や騒音、天候など主に自然に関係するストレス、次に家庭環境、経済状況の変化などの社会的ストレス、不安や悲しみなどの心理的ストレス、そして持病などによる身体的ストレスである。
また、ストレスは全てが私たちにとって有害なものではなく、本人にとって良い刺激となり人生のスパイスとなる様なストレスもあり、そういったストレスはユーストレスと呼ばれている。反対に、自身にマイナスとなる様な有害なストレスはディストレスと呼ばれ、主にストレスマネージメントはディストレスへの対処であると言える。
ストレス解消法の種類と自律訓練法
私たちの体は、ストレスに遭遇すると防衛本能により自律神経が働き、発汗、筋肉や血管の収縮といった身体的反応と不安、恐怖、苛立ちといった心理的反応が起こる。これらはストレス反応と呼ばれ、ストレスがかかり過ぎるとこの反応が過剰となり、自律神経の機能が低下しホルモンなどのバランスが崩れることになる。これが最近よく耳にする自律神経失調症である。
しかし、今日の私たちの生活でストレスを無くすことは不可能である。徳元氏は自分にあったストレス解消法を見つけ、それを定期的に実践していくことが必要と語る。ストレス解消法には色々なものがあるが、それらは休息型、運動型、親交型、娯楽型、創作型、転換型の6つに区分することが出来る。
なかでも休息型に分類されるリラクゼーション法は、リラックスした状態を意図的に体に働きかける方法で、呼吸法、筋弛緩法、自律訓練法などがある。呼吸法は文字通り深呼吸をして気持ちを落ち着ける方法、筋弛緩法は自分で筋肉を数秒間緊張させ、力を抜くことでリラックスした状態を得る方法である。自律訓練法は、1932年ドイツで考案されたもので、自分はリラックスしている、という一種の自己暗示をかけることでリラクゼーションを得る方法で、現在はストレスマネージメントだけでなく、更年期障害や自律神経失調症などの改善にも効果を上げている方法である。具体的には、目を閉じて、自分がリラックスしている姿をイメージする。次に右手に意識を集中し、右手がくつろいでいる、右手が重い、と想像する。それを左手、右脚、左脚と移していく(実際には、そこから温かいという感覚に移り、意識を腹から頭まで順に移していく)。好きな音楽などを聴きながら行うと、最終的にはその曲を聴くだけでリラックスできる様になるという。
マインドサイコロジーを通してみるストレスとその対処法
(BC州クリニカルカウンセラー マツピソット由紀子氏)
マツピソット由紀子氏からは、心理療法の1つであるマインド心理学の概要と、マインド心理学の観点からのストレスへの対処方法について講演が行われた。
マインド心理学とは
マインド心理学とは、1980年代にアメリカの心理学者ジョージ・プランスキー博士とロジャー・ミルズ博士が思想家のシドニー・バンクス氏の思想を基に作った心理療法である。
マインド心理学の基礎となっている概念は、人は誰もが自身の奥深くに「知恵」と呼ばれるものを存在させているという仮定である。そして心が安らぎ静かになると、ふとそれが意識の表面に表れることがあるというものである。そして私たちは、何かを見たり聞いたりすると、その見聞きした内容についてそれぞれ考え、それが内的経験としての現実として経験して生きているということである。つまり私たちは物事を映画のスライドの様に自身の考えというフィルムを通して見ているので、同じ物事でも本人にとっての経験の内容は異なる。更に、私たちはあることにひどく落ち込んでいる時でも、一晩寝て起きると、状況は変わってないにもかかわらず違った考えが出来るようになっているという様に、同じ人でも考えが違っている時(前述した知恵が意識の表面に表れ、新たな考えが出た時など)は経験の内容が違って見えるということである。
マインド心理学によるストレスへの対処
マインド心理学では、人の経験とは自身の考えに左右されるものなので、逆に言えば、自分で変えることが出来る柔軟性のあるものだと考える。しかし、それは否定的な考えを肯定的な内容に変えたり(これは認知療法にて用いられる)、物事を積極的にポジティブに考えようとさせるわけではない。マインド心理学が勧めるのは、自身の考える現実(内的経験)の仕組みを知ることによって自分の考えを冷静に見ることが出来るようにし、自分の考えそのものとの関係を変えることである。
私たちの考えは質の良い時と悪い時があるので、そのことを理解し、大切なことを決めたり取り組むのは、気分が良く考えの質が良い時にするようにし、反対に気分が落ち込み考えがネガティブになっている時は、考えの質が落ちているのだと認識して質の良い時に考えることが大切である。また、前述した私たちの内面にある知恵は、考えの質が良い時に表れ易いのである。
マツピソット氏は、皆自分の体調に関しては調子が悪い時は休んで体調が良い時にやろうと思えるにもかかわらず、自分の考えについては質が悪い時には答えが出るまで考えようとして悩んでしまう。しかしそういった時は、考えの質が悪いのだと思い、大切なことは考えの質が良い時に考えてほしいと語る。また、考えの質を良くし、知恵を意識に上らせるためには、瞑想、音楽を聴く、友達に会う、散歩をするなどリラクゼーションを得ることが大切だという。
より豊かな人生を目指して〜バーンアウトしないための幾つかの方法〜
(BC州クリニカルカウンセラー 医学博士 原田直子氏)
3人目の講演者、原田直子氏からは、バーンアウト(燃え尽き症候群)と顔の構造機能による行動パターンについて講演が行われた。参加者は実際に自身の構造のタイプを確認しながら講演を聴いていた。
バーンアウトとは
バーンアウト(燃え尽き症候群)とは、慢性的な絶え間無いストレスにさらされた結果、仕事に対する意欲、関心を全く失ってしまった状態をいうもので、1970年代にアメリカの精神科医フロイデンバーガーが、職場でそれまでひたむきに仕事をしていた人がある日突然無気力になり意欲を失ってしまう状態に対して用いた言葉。現在では職場だけでなく私生活においても起こり得ると言われている。バーンアウトという名称そのものはうつ病や総合失調症などの精神医学における診断名ではなく心が燃え尽きたことによる様々な障害の総称として用いられている。うつ病を併発したり高血圧、不眠などの身体的な疾患を起こす場合がある。
顔の構造機能による行動パターン
プライベートでは馬好きとして知られる原田氏は、バーンアウトしてしまう人は恐怖から暴走してしまっている馬に例えられると説明する。人も暴走している無意識の行動を止めるためには、先ず自分の潜在意識に耳を傾けることが大切であるという。
潜在意識レベルで無自覚に行っている行動パターンを探るために、人それぞれのDNAに組み込まれている身体の一部である顔の構造(人相)から見る方法がある。これは構造が機能を決めるという構造機能の考え方から、顔の特徴(計51項目)からその人の行動パターンを探る方法である(当日はその中の5項目が解説された)。
1、思考の特徴領域:思考は脳の額の部分である前頭葉が支配しているので、額の角度から思考スタイルの指標を得ることが出来る。額が斜めな人は結果に注意を集中し、額が丸い人は行動の過程を重視する傾向がある。
2、行動の特徴領域:後頭部にある運動皮質の領域は行動を司る。よって、頭頂部と前頭部の高さから行動エネルギーの焦点(どのようの行動する、したいか)の指標を得ることが出来る。前頭部が高いと目標を考え直しがちな人、後頭部が高いと行動家という傾向がある。
3、感情の特徴領域:側頭葉は感情をコントロールする機能を持つので、目と目の幅から感情の寛容性の指標を得ることが出来る。幅が狭い人は自他共に失敗に対して非寛容、広い人は失敗に関して寛容という傾向がある。
4、自動的表現:アゴから鼻にかけては言葉を使わない表現領域で、その内鼻梁の形からは自動的リアクションの構造的指標を得ることが出来る。鼻梁が凹型(スプーンですくった様な鼻梁)の人は奉仕家、凸型(かぎ鼻・わし鼻)の人は管理行政家という傾向がある。
自動的表現:下唇の厚さからは外に向かう流れの構造特徴を得ることが出来る。下唇が薄い人は人に何かサービスをすることをためらい、下唇が厚い人は気前が良い(物でも時間でもエネルギーでも何でもあげてしまう)傾向がある。
以上の構造機能の特徴のひとつの例をあげると、例えば、下唇が厚く鼻梁が凹型(スプーンですくった様な鼻梁)で、後頭部の高い人は、自動的に無意識的に人に尽くすパターンがあり、しかも疲れていてもそれをやり続けてしまう結果、自分自身のために使うエネルギーを枯渇させてしまってバーンアウトしてしまうことになる。
原田氏は、自分の構造機能を知ることによって、それまでは無自覚に行っていた自身の行動のパターンを意識レベルで自覚し、意識レベルで自分の行動を「選択」することが可能になると語る。さらに、相手の行動パターンも理解して、よりよいコミュニケーションももつことが出来る様になり、自分らしさが取り戻せるという。例えば、暴走している馬でも、むち等で暴力的に抑え込むのは逆効果である。乗り手がその馬の恐怖感を理解してやり、的確な指示を与えると、馬は乗り手を信頼し、安心して乗り手の言うことに耳を傾ける。ここに、馬と乗り手の間に強い絆と深いコミュニケーションが生まれるのである。
最後に原田氏は、精神的に健康で平安な日々を送るために、1日5分でも瞑想をして、自分の心に耳を傾け、自分自身の無意識の感情・行動に気づくことを勧める。そして講演全体のまとめとして、これらを日々のストレスマネージメントとして続けていってほしいと語った。
(取材 前田一也)