SPECIAL 2009

2009年10月29日 第44号 掲載


在バンクーバー日本国総領事館・乳がんサポートグループ「つどい」共催
「初期で乳がんを見つけるためのセミナー」開催
なぜ早期発見なのか、その方法は


聴衆の質問に丁寧に答えるオング先生と通訳の小林芳子さん

「つどい」代表の平野弥生さん

ジョアン・エマーマン先生

田中朝絵先生

ショーン・吉田先生

 10月は「乳がん啓発月間」。女性の乳がん発生率は、アメリカ・カナダでは8人にひとり、日本では20人にひとりといわれている。しかし、日本人も増える傾向にあり、30代、40代での発症も多い。一方、検査法も治療法も進み、乳がんはいまや治らない病気ではない。要は、「早期発見」。

 日系人の乳がんサポートグループ「つどい」では、10月1日、午後1時から4時半まで、在バンクーバー日本国総領事館との共催で「初期で乳がんを見つけるための無料セミナー」を開催した。当日は会場を埋めたおよそ90人の参加者が、3人の講師の話に熱心に耳を傾けた。


早期発見の大切さ
 「つどい」は、バンクーバーを拠点とする日加ヘルス協会の活動の一環として2007年7月に設立された。乳がん経験者やボランティアを中心に、日本人のための乳がんサポートを行っている。現在40人ほどのメンバーが毎月1回の会合をもち、それぞれの乳がん体験や悩みを話し、互いに励ましあい、ともに勉強をし、親睦を深めている。このような会合を通しメンバーが痛切に感じることは、乳がんの早期発見・治療の大切さである。検査法や治療法が目覚しく進歩してきた近年、早い時期に適切な治療を受ければ乳がんにかかっても80%を超す人が10年以上生存できるようになってきている。早期発見がその後の人生を大きく変えることを、多くの人に理解してほしいという「つどい」のメンバーの願いが、今回のセミナー開催へとつながった。

 セミナー当日の冒頭、在バンクーバー日本国総領事伊藤秀樹氏が挨拶のなかで「女性にとって関心が高い」とも述べたように、総領事館ではこのセミナーが日系コミュニティーの人々の健康問題に対する啓発におおいに役立つと、館内の多目的ホールをセミナー会場として提供した。

 会場受付では、乳がんや自己診断に関する各種パンフレット、「英日乳がん関連用語対応集」、アンケートなどが入ったパッケージが来場者それぞれに手渡された。

 プログラムは、UBC教授ジョアン・エマーマン医師による「最新乳がんリサーチ 希望がもてる理由」、ライオンズ・ゲイト病院放射線科ショーン吉田医師による「早期発見のための検査」、ファミリードクター田中朝絵医師による「セルフチェックのワークショップ」の三つの講演と、質疑応答の時間が設けられた。

乳がんリサーチがもたらすもの
 プログラム最初の「最新乳がんリサーチ 希望がもてる理由」の講演者ジョアン・エマーマン先生は、乳がん研究に38年もの長いあいだ携わっている。その情熱は、乳がんの発生率と死亡率を下げ、乳がん患者の生活の質を上げることに注がれてきたという

 現在、北米では毎年新たに発生するがん患者の30%は女性で、そのほとんどが乳がんであるとのこと。発症は年々増加し、エマーマン先生が研究を始めた頃は、14人にひとりの割合で発症していたのが、今では8人にひとりとなっている。そして、発症した女性のうち25人にひとりが乳がんのために死亡しているという。エマーマン先生はこのような現状を紹介し、次のような内容の講演を行った。

1 乳がん発症の危険因子
 乳がん発症の要因として挙げられるのは、(1)性別(女性であること)、(2)年齢(年齢が高い)、(3)家族歴(近親者に乳がん発症者がいる)、(4)乳がん経験者、(5)乳房の良性疾患をもっている、などである。

 また、生殖関係から乳がん発症をみると、(1)子どもを産んだ経験がない、(2)第一子の出産が30歳以降、(3)生理の開始が早かった、(4)閉経がおそかった、などが危険因子である。

 人口統計学的にみると、(1)都会に住む人、(2)社会的地位、経済的地位が高い人、(3)北米、北ヨーロッパに住む人に乳がん発症率が目立つ。

 その他の危険因子としては、ホルモン療法を行っていること、脂肪分の多い食事、過度のアルコール摂取、運動量が少ないこと、閉経後の肥満、などが挙げられる。

2 マンモグラム、乳がん治療
 乳がんについての話題は悪いことばかりではない。例えば、カナダ、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの国々では最近、乳がんによる死亡率が下がってきている。決め手の第一に挙げられるのは「早期発見」である。

 乳がんの早期発見のために、50歳以上の人はマンモグラムを受けるようにと呼びかけられているが、エマーマン先生はこれを「40歳以上」と強調する。早期発見によって乳がんの死亡率を30%減少できるからだ。

 早期に発見できれば、治療法に選択肢があり、手術であれば乳房温存術が選択されることが多い。また、5年生存率も85%と高い。


 反対に、乳がん発見時にすでに症状が進行している場合には、抗がん剤治療、ホルモン療法の適用となる。場合によっては手術もある。

3 乳がんの種類、乳がんの発症・発見から治療
 セミナー会場前方のスクリーンに映し出された乳房の断面図を見ながら、乳房内の細胞や、乳がんの発生過程などについて説明が行われた。

 乳がんの種類について、大きく分けると、(1)乳管ガン、(2)小葉ガンの二つのタイプがある。

 乳がんは、乳房内の幹細胞の一部が悪性に変化することで発症し、その悪性細胞が増加することにより、がんが拡がっていく。

 幹細胞が正常か悪性かを遺伝子によって見極め、悪性の幹細胞だけを取り除く研究が現在進められている。

4 乳がんリサーチの目的
 現在世界では、研究者のみならず、外科医・麻酔医・看護師・患者をはじめ多くの人々が協力し、乳がん研究が進められている。実際の研究の場では、エマーマン先生のような基礎研究者と臨床研究者が協力しあい、検査方法、診断方法、薬、治療器具の開発などが行われている。これからも研究を通して、(1)乳がんの予防、(2)生存率の向上、(3)患者の生活の質の向上に貢献していきたいといい、エマーマン先生は話を終えた。

乳がん早期発見のための画像診断検査
 ショーン・吉田先生の講演では、乳がん発見のための画像診断検査方法について、それぞれの目的や特徴などが紹介された。

1 マンモグラム
 マンモグラフィー(乳房のレントゲン撮影)による検査方法。定期的に受けることにより、乳がんの早期発見が可能である。BC州では、40〜79歳の女性を対象としたSMPBC(BC検診マンモグラフィープログラム)があり、定期的に乳がん検診を無料で受けることができる。毎年受診することが理想的。ただし、乳房にしこり、変形、乳首からの分泌物などの異常がある場合には対象年齢にかかわらず、すぐに医師による検診を受けること。

2 超音波検査
 高周波音を使った検査方法。しこりの特定、マンモグラフィーでの異常、乳首からの分泌物がある場合などに行われる。その際、乳房内の細胞の異常が、嚢胞性(液状)であるか充実性(固形)であるかを識別することができる。充実性の場合には、生検を行うが、超音波装置の画面を見ながら行われることもある。

3 胸部MRI検査
 強力な磁場、無線周波動、コンピューターを用いて内臓の詳細な映像を映し出す検査方法。がんの転移、二次損傷、瘢痕(はんこん)組織などの観察、再発や治療状況を知るためなどに使用される。乳房密度が高い場合に感度が低下するといわれるマンモグラムに比べて、MRIは映像感度が良く、密度の高い乳房であっても異常を写しだすことが可能。
 ただ、感度が良いだけに擬似陽性がでるなどの弱点がある。

4 胸部生検
 マンモグラフィーや超音派検査などの画像検査で、異常を疑われた乳房内の組織を一部、あるいはすべてを採取し、それががん細胞であるかどうかを識別する検査。
 吉田先生は、それぞれの検査機器や手順の写真をスクリーンに映し、ていねいに説明した。そして、(1)触診、(2)定期的な検査、(3)一等親内に乳がん経験者がいる場合には、最も若い親族が乳がんと診断された年齢より10年早い時期から年に一度はマンモグラムを受診すること、(4)しこり、分泌物、乳房の変形に気がついたらすぐに家庭医に診てもらうことなどが重要であるとまとめた。

「こんな感じがあったかな」と思うこと
 二つの講演のあと、乳がんの自己検診の方法と要点についてのワークショップが開かれた。

 講師の田中朝絵先生は、乳がんの早期発見には、(1)マンモグラフィーによる検査、(2)家庭医による検診、(3)自己検診、の三つの方法を定期的に行うことが効果的であるとまず述べた。

 そして、スクリーン上に映し出された円の大小を比較し、マンモグラフィーで発見できる大きさ、自己検診で見つけることができる大きさなどを具体的に説明した。

 自己検診は、例えば入浴時などに定期的に行う習慣をつけておくこと。その際には乳房や乳首の形、皮膚の色の観察を、それと同時に、脇の下も含めて乳房全体を触診するとよいことを説明した。そして、3本の指をこまかく動かして触診する方法を実演しながら教え、参加者たちも起立してこれらの方法を実習した。

 大切なことは、習慣的に自己検診を行うことによって、普段の自分の乳房を知っておくこと。そして、自己検診中にいつもと違うと感じたら、「前にこんな感じがあったかな」と思うことが大切。それが、乳がんの早期発見につながると、田中先生は参加者に語りかけ、この日のセミナーが終了した。

悩みがあれば「つどい」に連絡
このセミナーでは、エマーマン先生と吉田先生の講演のあとに質疑応答の時間も設けられた。会場からは「女性と男性の乳がんの違い」「乳がんと避妊ピルとの関係」「乳がん検査、治療などの待ち時間」をはじめ、興味深い質問が寄せられ、それぞれへの回答が行われた。

 最後に、「つどい」代表の平野弥生さんが、自らの経験を振り返りながら、乳がんの早期発見の大切さを再度強調した。そして、乳がんに関連して悩みや疑問があれば「つどい」の仲間がいること、悩みを話し合うことがヒーリングになるといい、この日のセミナーを締めくくった。

 講師の話に真剣に聞き入る参加者の姿が印象的なセミナーであった。

(取材 高橋百合)

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