SPECIAL 2009

2009年7月23日 第30号 掲載


日加ヘルスケア協会健康講座「カナダのヘルスケアを上手に使う方法 第1回」
カナダで病気になっても、日本に帰る必要はありません


日系へリテージセンターでカナダの医療システムについて説明する田中医師

カナダでファミリードクターとして働く田中朝絵医師

ソーシャルワーカーについての講義に参加者は熱心に耳を傾けた

医療ソーシャルワーカーとして働くアンダーソン佐久間雅子さん

 日本の医療システムに慣れ親しんだ人がカナダへ来ると戸惑うことが多い。カナダ在住の日本人の多くが「カナダで病気になりたくない」、「病気になったら日本へ帰りたい」と考えているという。しかし田中朝絵医師はそんな必要は全くないと力説する。カナダの医療システムは、日本との違いはあっても劣ることはない。大切なのはまずそのシステムを理解することだ。

ファミリードクターと専門医―日本とは違う医療システム
 日加ヘルスケア協会の健康講座「カナダの医療システム」の第1回が6月11日、日系ヘリテージセンターで開催され、約30人の参加者が貴重な情報が詰まった講義に熱心に耳を傾けた。前半は、カナダでファミリードクターとして活躍する田中朝絵医師からカナダの医療システムに関するレクチャーがあり、後半は、病院でソーシャルワーカーとして働くアンダーソン佐久間雅子さんから、ソーシャルワーカーの仕事について話があった。

 まず、ファミリードクターとはなんだろうか。日本では、腹痛があれば内科へ行き、目に異常があれば眼科へ行く。つまり日本には専門医しかいないので、患者は自分でどの専門医へ行くかを考えなければならない。しかしカナダでは、どんな病状であれ、患者はまずファミリードクター(またはウォークイン・クリニックドクター)の所へ行く。ファミリードクターはどんな病気でも、ほとんどの場合対処することができるが、専門的な検査や治療が必要な場合のみ、患者を適切な専門医(スペシャリスト)のもとへ送る。

 ファミリードクターとウォークイン・クリニックドクターは、技術・資格の面では同じである。しかし、ファミリードクターは、一カ所にとどまり、できるだけ患者とその家族全員を長期にわたって担当するのに対して、ウォークイン・クリニックドクターはその場限りの患者を担当する。そのため、カナダにある程度長期間滞在する場合は、ファミリードクターを見つけることが好ましい。ファミリードクターは、家族全員について詳しい知識を持っていることで、適切な治療を素早く行うことができるからだ。またファミリードクターは、病気だけではなく、ストレスや喫煙など広い範囲での悩みに対応してくれる。

 また救急車で運ばれるなど、緊急の場合は、救急医(エマージェンシードクター)にかかることになる。

 ファミリードクター、ウォークイン・クリニックドクター、救急医という三つの種類の医師を合わせて、プライマリードクターと呼ぶ。プライマリードクターは、患者が専門医にたどり着く前の、いわば第一段階で患者と向き合う役割を果たすのだ。

 気をつけたいのは、カナダでは患者が自分で専門医を見つけて、直接アポを取って、診察してもらう、という日本では当たり前のことができないということ。専門医から診察を受けるためには、プライマリードクターからの紹介が必要になる。

高い技術を持つカナダの専門医
 以上のカナダの医療システムについての説明からわかるように、カナダの専門医は、ファミリードクターでは対処できないほど専門的な治療を必要としている患者だけを診察する。田中医師によると、専門医になるためのカナダでの試験は厳しく、専門医はその専門分野に非常に精通している医師だという。その分野においての最新の薬の情報や研究データなども、もちろん把握している。

 全体的に見て、カナダの医療システムはピラミッド型だと考えることができるそうだ。ファミリードクターが、比較的容易に治療できる多くの患者を診ていることで、本当に専門医が必要な困難な病気にかかった患者は、その分野において高いレベルを持つ専門医のところに素早く行き着くことができる。それに対して、医師同士の連携体制が段階的に分けられておらず、専門医だけが存在する日本では、患者がピラミッドの頂点に到達することは容易ではないだろう。

ファミリードクターの探し方
 ではファミリードクターは、どうやって探せばいいのだろうか。すでにファミリードクターを見つけている友人に自分を紹介してもらうのも一つの方法だ。また、評判が良いファミリードクターが近所にいれば、新しいクライアントを受け付けているかどうか聞いてみてもいい。そのような情報がない場合は、ブリティッシュ・コロンビア州で現在クライアントを受け付けている医師のリストがインターネット上にあるのでチェックしてみよう。アドレスは、https://www.cpsbc.ca/ピアねっとの日本語ヘルプ電話リスト ( http://peer-net.net)も役立つ。

 良いファミリードクターは、病歴や生活習慣について、話をよく聞いてくれる医師だ。また受付は医師と患者をつなぐ重要な窓口なので、受付で働いている人の質が高いかどうかも確認しよう。

 田中医師によると、医師に言われたことが理解できない時にニコニコしたり、うなずいたりするのは日本人の悪い癖。自分の意思表示をはっきりとして、医師とのコミュニケーションを図り、その上でその医師が良いファミリードクターかどうかを判断するべきだ。

医療ソーシャルワーカーは医療チームの一員
 田中医師の講演のあとは、バーナビー市で医療ソーシャルワーカーとして活躍するアンダーソン佐久間雅子さんが、ソーシャルワーカーの仕事について詳しく説明された 。

 ソーシャルワーカーは、大学でソーシャルワークを専攻し、学士または修士学位取得後、BC College of Social Workersに登録している人あるいは登録資格のある人たちだ。医療ソーシャルワーカーは、病院、リハビリテーションセンター、老人ホーム、専門クリニックなどで医療チームの一員として働いている。

 病気になれば、病気の治療以外にもさまざまな問題が生じる。例えば、病気になった人とその家族には、精神的なサポートが必要になることもある。また病気のため働くことができない期間、政府から経済的援助を受ける必要もあるかもしれない。医師や看護士だけではカバーしきれないそれらの問題の解決を、ソーシャルワーカーが担当するのだ。

ソーシャルワーカーの助けを借りて、健康的なライフスタイルを取り戻そう
 「カナダの社会制度、福祉サービスは充実しているが、自分から申し込まなければ、それらの恩恵を受けることはできない」とアンダーソン佐久間さんは語った。しかし、個人がすべての制度について調べることは、時間的にも困難だ。そんな時ソーシャルワーカーが、受けられるサポートを紹介してくれる。

 具体例としては、患者に経済的なサポートが必要になった時に、政府からの所得補助や、BC州健康保険MSPの保険料補助に申し込む手助けをしてくれる。また、食事を用意することが難しい人のための食事サービス Meals on Wheels や、車いすの乗客のためにトランスリンクが運営するミニバンサービス HandyDART、同じ病気を抱える人たちの集まるピア・カウンセリングなど、さまざまなサポートネットワークの紹介もする。

 その他、患者の退院後のケア、患者の年齢、家族状況、健康状態などを考慮した上でのケアホームの紹介、虐待やネグレクトへの対応など、医療ソーシャルワーカーの仕事は多岐にわたる。ソーシャルワーカーの手助けを受けたい時は、治療を受けている医療施設で相応しいソーシャルワーカーの連絡先を聞くことができる。

家に住んでいる人へのサポートもするソーシャルワーカー
 ソーシャルワーカーが働く場所は、病院やリハビリテーションセンターに限らない。例えば、ホームケアを仕事とするソーシャルワーカーは、クライアントの自宅での介護プランの実行と管理をすることもある。また、ケアホームへの入居手続きの手助けなども行う。そしてケアホームでは、その他の医療機関との橋渡しもする。

 今回の講演を通して、今まで馴染みのなかったソーシャルワーカーの仕事について学び、社会においてのその役割の重要性を認識することができた。

(取材 船山祐衣)